第35話 そういや勉強会って初めてだな。1
「だああああああっ!! もう無理だああああああっ!!!」
フードコートで四人集まっての勉強会は、石倉の悲痛な叫び声で休憩となった。
適当に甘いジュースでも、と言う事で各々がコーラとかカフェオレとか緑茶とか買ってきて、まったりすることにする。
「先生からそんなこと聞いた覚えがないです……」
「まあ、直接は言ってなかったな、でも範囲を確認するときっちりそのあたりまで入ってるぞ」
田中はどうやら夜遅くまで漫画を描いているらしく、昼間の授業で居眠りをすることが多いようだった。
ただ、理解力はそこまで悪くはなく、この調子で頑張れば、問題はなさそうだ。
「頭が沸騰しそうな感じがしまする……」
「千桂は……うん、何とか頑張ろうな」
彼女は真面目なものの、公式や定石の勘違いが多い。一つ一つ潰すのは骨が折れるが、何とかギリギリ、という所だろうか。
「……」
「石倉……は死んでるな……」
俺が冗談を飛ばすと、石倉は手をひらひらと動かしてツッコミのジェスチャーをする。
スポーツ推薦で入っただけあって、石倉は中学時代の取りこぼしがいくつかあり、それが足を引っ張っているようだ。何とかその部分を抑えれば、赤点は免れるだろう。
そういうわけで、全員が全員別々の原因で赤点になりそうな状況だった。やっぱりテスト対策始めといてよかったな。
「はー、なんとか高校一発目で赤点っていう結果にならなくて良かったですよ、冬馬に感謝ですな」
「……ところで、千桂ちゃんはなんで碓井にだけ、名前呼びなの?」
「うぇっ!? あ、そ、それはー……」
「穂村じゃなくて千桂ちゃんって呼べ……ってうるさいから名前呼びしたら、千桂だけ『くん』を付けるの不公平だってんでこうなった」
石倉の問いに、千桂があからさまに動揺したので俺がフォローに入る。あんまりそういう風に狼狽えないで欲しい。勘違いしちゃうから。
「ふーん、なんか変な経緯があるんだな」
勉強で頭を使い過ぎたのか、石倉は特にそこを深堀はしなかった。
「そういえば、この間白崎に絡まれたぞ」
「えっ、その、碓井さんは大丈夫でした?」
田中が遠慮がちに聞いてくるので、俺は首を振って無事をアピールする。
「どうも妹経由で俺の事を知ったらしいな……『俺のことを見下してるだろ』とか『馬鹿にするな』みたいな事を言ってたが、あいつは一体何なんだ?」
『……』
俺があったことをそのまま話すと、その場の全員が首をかしげた。
「それ本当に白崎か? 似てる別人じゃなくて?」
「ですね、あの人あんまりそういうこと言う印象ないですし」
いや、間違いなくあいつだとは思うんだが……何かそこまで言われると自信なくなってきたな。とはいえあの背格好は間違いなく白崎だし。
「というか、冬馬が他人を見下してるって、何処から来てるんでしょ? 別に思った事は無いですけど」
勿論俺としてもそんなつもりはない。
ないのだが、振り返ってみると、無意識にそういう振る舞いをしている可能性もあった。そういう意味では言われた言葉はある程度「他人から見た自分」というくくりで考えておくべきかもしれない。
「なんにしても、あいつに俺は嫌われてるらしい。友達になるのはお互いに無理っぽいな。周囲を馬鹿にするしかしない奴と周囲を見下してる奴、お互いに友達にはなれそうだけどな」
皮肉を込めてそんな事を言ってみた。
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