第34話 次の休みは丸一日勉強会だな。

「じゃあまずは、教科書の最初から、本文の現代語訳のやり方について確認していくぞ」


 入学しての最初の一か月半だ、そこまで難しい事は無いだろうが、逆に言えばここができていなければ永遠に苦手意識を持ったまま三年間過ごすことになる。


「はい先生! ありがたいって書いてありますけどこれなんで感謝してるんですか!?」


 ……それ中学内容だろ。


 と、思いつつ何とか気を取り直して、丁寧に教えていく。

 教えていると不思議な物で、俺の中でも情報が整理されるのか、理解度が挙がっていくのを感じる。


「つまりこれはサ行変格活用でな……」

「これは修飾の対象が離れてるけど……」


 話だけして授業は楽そうで良いなって思っていたけど、これ実は滅茶苦茶重労働か?


 そうこうしているうちに時間は過ぎ、五時になる頃には俺の喉と顎は疲労がだいぶ蓄積していた。


「……今日はこのくらいにしておくか」


 全部は無理にしても、一日にいくつかの教科をまとめてやれば、少なくとも平均点近くは取れるだろう。


「あ、ありがとうございました……」

「頭がぼーっとする……」

「おうち帰ったらすぐ寝ちゃいそうです……」


 あと二週間、持つのかどうか非常に不安だったが、とりあえず解散する。三人とも微妙に足元がふらついていたのは、気の所為じゃないだろう。


 三人を見送った後、俺は喉を労わるために購買部で紅茶のペットボトルを買って、近くのベンチに座って飲んでいた。帰るのが嫌という訳ではなく、すこし落ち着いて喉と身体を休めたいとおもったのだ。


「ふぁ……――っ!?」


 あくびをした瞬間、顎の根元でゴキッと凄い音が鳴る。痛みはそれほどじゃないがびっくりした。今日は滅茶苦茶喋ったからなあ。向かいの窓から差し込む夕日が目に染みる。


 三人と別れたところで、俺は改めて携帯で白崎のSNSアカウントを閲覧する。相変わらず誰がウザいだとか、ざまあ系の話の共有ばかりだが、その中からなんとかあいつ自身の人となりを探ろうとする。


「おい」

「っ……」


 声を掛けられ、慌てて携帯をポケットに突っ込む。顔を上げると、白崎が俺を見下ろしていた。


「妹が世話になってるらしいな」

「……そうでもない」


 白崎の顔は逆光でよく見えなかったが、話の口調からしてあまり良い感情は持っていないようだ。


「ゲーセンのトップランカーで、教師からの評判はいい。それでもクラスでは目立たない方で、交友関係は少ない……幸奈と似てるんだよな、お前」


 何が言いたいんだ? 俺は眉間にしわを寄せる。


「なあ、お前、俺らのこと見下してんだろ」

「は?」


 見下している? 誰が誰を? そう思った瞬間、白崎はベンチの足を蹴った。


「お前より低い成績の俺たちを馬鹿にしてるんだろって言ってんだよ」

「……なんでそうなるんだよ」


 全く心当たりがないので、俺は紅茶を飲み干して立ち上がる。背丈は同じくらいだったが、髪型の関係で相手の方が少し大きく見える。


「いきなり話しかけておいて、喧嘩売ってくるとか馬鹿にしてんのはどっちだよ……」


 ペットボトルを放り投げてゴミ箱へ投げ込むと、俺はさっさとこの場を去る事にした。


「待てよ! ……ちっ、やっぱ馬鹿にしてんじゃねえか」


 背中にかけられた言葉を無視して、俺は家に帰る事にした。

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