第30話 俺はバニラ、千桂はストロベリー、幸奈はチョコレートだった。

「いや―楽しかったですね!」

「本当に楽しんでたか……? 千桂は後ろから見てただけだったけど」


 あの後、数戦続けて遊んだ後、ようやく満足した幸奈に、格ゲーから解放してもらい、今は三人でソフトクリームをたべていた。


 しかし、喫茶店でフラペチーノ食べた筈なのだが、千桂はそんなに食べて大丈夫なのだろうか?


「勿論! 見てるだけでも結構面白いんですよね!」


 なんとなく視線を外して身体を見ると、それなりに首長のあるふくらみが二つ見えた。まあそこに入ってると考えておこう。


「でも、冬馬さんが他のジャンルでもゲームが上手なのは驚きました」


 俺が失礼なことを考えていると、幸奈がキラキラした目をこちらに向けてくる。その視線を向けられても、期待に応えられる自信はないんだが。


「いや、やりこんでる人には敵わないし……」

「でも、私よりは上手いですよね? ちょっと触っただけであの上手さなら大会も目指せるんじゃないですか?」

「大会ね……」


 そう言って俺はソフトクリームにかぶりつく。特に心惹かれる事は無いし、俺にとっての関心事は別にあった。


「それより今は、中間テストだろ、ゴールデンウィーク終わったらすぐだぞ」

「ゔっ」


 隣で千桂が変な声を上げる。


「どうした?」

「……嫌なこと思い出させないでよ、冬馬ぁー」


 いや、テストは忘れちゃいかん事だろう。


「ダメですよ、千桂さん。勉強はちゃんとやるべきです」

「うわーっ! 年下の子に言われた!」

「はぁ……」


 もしかしてとは思っていたが、千桂の成績は下から数えた方が若干早いかな、くらいの位置をさまよっているらしい。


「毎回赤点回避のためにギリギリなんですよぅ」

「お前どうやってうちの高校入ったんだよ、自慢じゃないがそれなりに偏差値高いぞ」

「え、推薦ですけど、わたし、成績は良いので!」


 授業態度は良いが、テストの成績は悪い。先生が一番困るタイプの生徒だったらしい。


「そういえば幸奈の成績はどうなんだ?」


 俺はふと気になった質問をしてみる。深夜徘徊やゲーセンでよく合うイメージから、あまり良くないのではと思ってしまうが、実際のところはどうなのだろう。


「悪くないですよ、この間も模試のテストで上位者ランキングに載ってましたし」

『えっ』


 俺と千桂が同じ反応をする。まさかこんなに素行不良の擬人化みたいな子が、テストの成績上位だとは、夢にも思うまい。


「だから授業が退屈で……勉強自体は塾で全部範囲が終わってますし」

「……」


 これは、綾瀬とは違うタイプの天才だな。俺の頭に浮かんだ感想はそれだった。


 綾瀬は、努力すればするほど際限なく上達するタイプで、幸奈は一回やればだいたいのことは覚えてしまうタイプ。どっちも才能の塊だが、幸奈の方は教師受けが悪そうなので、その分不利という感じだろうか。


「はー……世の中にはそんな人が居るんですねぇ」


 千桂にとっては完全に雲の上というか、現実感の無い話のようだった。まあ実際俺も、綾瀬の存在が無ければこういう存在はフィクションの中にしかいないと思ってたからな。


「――って、私の事はどうでもいいんですよ!」


 幸奈がソフトクリーム片手に詰め寄ってくる。日本人離れした目鼻立ちと、瞳の色に見つめられて、俺は少しだけ心臓が跳ねる。


「冬馬さん! お願いがあります!」

「な、なんだよ……」


 思わず内容を聞く前に頷きそうだったのを堪えて、俺は続きを促す。


「兄とゲーム仲間になってもらえませんか!?」


 幸奈のお願いは、ものすごく想定外だった。

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