第29話 連コは8回ほど続いた。

 ゲームは良い。何も考えなくていいからな。


「わ、結構凄いんですね、ランキングで四位じゃないですか」

「まあ、こんな感じでいつもやってる」


 しかし、今は色々と考えなくてはならず。本来の楽しみ方ができないでいた。というのも――


「でも冬馬さんはいつもならフルコンじゃないですか? 調子が悪いんですか?」

「いや、人の目があると思うとな……」


 一人で黙々とやってる時とは違う、妙な緊張感があった。


「何にしても、三人もいるのに音ゲーやる事もないだろ」


 音ゲーは自分が言うのもなんだが、一人寂しく没入するゲームだ。複数で来ているなら、パーティゲームなり協力プレイのできるシューティングなどをやるべきだろう。


「じゃあ、格ゲーとかTPSやってみます?」

「いやー……対戦はちょっと」


 これから頑張っていこうと決めた直後なんだが、いきなり優劣が決まるゲームの極致である対戦ゲームはハードルが高かった。挑戦するにしても、八対八とかバトルロイヤル形式とか、負けたり脱落したストレスのかかりにくいものをだな……


「む、面白そうですね、やりましょうか幸奈ちゃん」


 しかし、千桂は乗り気だった。こいつ、ゲームとかよくやるタイプだったのか?


 彼女の意外な趣味に感心しつつ、二人が格ゲーコーナーへ向かうのについて行く。


 対面に座って、俺は千桂の後ろに立つ。一体どのくらいやりこんでいるのだろうか。


 二人がクレジットを投入して、対戦がはじまる。千桂が選んだのはいかにも主人公という見た目のキャラクターで、幸奈が選んだのは不細工な筋肉ダルマだった。


『READY FIGHT!』


 と、画面に表示され、ゲームが開始する。


「あっ、むっ、ぎぎっ……」


 何か小声で唸っているが、戦いは見事に一方的だった。


 ……というか、こいつがこのキャラを選んで、幸奈が似つかわしくない筋肉ダルマを選んだ時点で察しても良かったのかもしれない。


 千桂の方は上手く行って三ヒットほど、幸奈はその攻撃を返して十ヒット以上を撃ち込んでいる。一方的な試合展開と言って良いだろう。なんで面白そうなんて言ったんだ。


「あ、ピヨった」


 何発も攻撃がヒットし、キャラクターが操作できなくなる。幸奈のキャラは一度コンボを途切れさせてから、隙が大きく威力の高い技を起点に再度コンボを開始、気持ちよくフィニッシュまで出し切って一ラウンド先取した。


「負けたー……」

「おい、コントローラー離すな、二ラウンド先取だぞ」

「へ? あわわわっ」


 慌ててレバーを掴むが、ファーストアタックを取られて、そのまま一方的な戦いが続く。


 これは……うん、勝ち目は無いな。


 少なくとも幸奈はやりこんでる訳ではないにしろ、それなりにこのゲームをやってる。一方で千桂は、もう推量するのも馬鹿馬鹿しいほどにずぶの素人だ。


 見てられない、と思った俺は説明書という名のコンボ表を眺める。


 ……なるほど、どうやらこのゲームは読み合いに勝って、いかにうまくコンボをつなぎ、相手のミスを上手く拾う事が肝要らしい。


 基本的な操作と、ネットで簡単な記事を見て、脳内で軽くシミュレーションしてみる。なるほど、多分大技を適当に撃ったり、レバーを適当に動かすだけじゃ勝てなさそうだ。


「だめだー!」


 千桂の言葉と共に、画面に『YOU LOSE…』の文字がでかでかと表示される。まあ、そりゃあなあ。


「よーし、もう一回――」

「待て、俺がやる」

「おおっ!? 冬馬が遂にやる気に!?」


 千桂が連続してクレジットを入れようとしたのを制止して、代わりに座る。


「別にそんなんじゃない」


 そう、誰かと競いたいわけじゃない。このゲームをやりたくなったんだ。あと千桂の敵討ち。


「あ、冬馬さんもやるんですね、よろしくお願いします」

「ああ」


 キャラクターは双方変化なし、俺は千桂の使っていたキャラで、幸奈は筋肉ダルマだ。


『READY FIGHT!』


 その表示が見えると同時に、レバーとボタンをを入力していく。


 読み合い、ミスの無い入力、相手のミスからの差返し。


 どれも思考はついて行くものの、操作の習熟度では幸奈の方に分があった。相手の体力を三割ほどのこし、第一ラウンドを取られてしまう。


「はー……こんな風に動かすんですねえ」

「というか、千桂はなんでこれやろうとしたんだよ?」

「え? 友達と何かするのって、それだけで楽しいじゃないですか」

「……」


 その意見は、意外にも腑に落ちた。勝ち負けに対して、俺は必要以上にこだわっていたんだな。


 第二ラウンド開始。操作に慣れてきて、今回はかなり五分の試合ができた。


「っ!!」


 一瞬の判断で読み合いに勝ち、コンボを決めて第二ラウンドは取りかえした。


「やった! あ、あれ? でも、一対一ですよね?」

「三ラウンドまであるんだよ」

「ええっ! ズ、ズルい!」


 何がズルいのかよく分からないが、第三ラウンドが始まる。操作もそれなりに慣れてきて、順調に削っていく。


 分かってきたぞ、幸奈のキャラは一発一発が大きく、コンボもヒット数の割に削れる量が大きい。ガード不能技は無いものの、少しの読み間違えで体力をかなり持っていかれそうだ。


 そしてこちらは、いかにも主人公という感じのオーソドックスさ、コンボの長さもダメージも劣るが、カウンターやキックの出が早いのを活かして立ち回ることができれば、勝つことはできる。


 冷静に相手の攻撃を見て、反射的に攻撃を合わせてコンボを入れ、体力を削り切る。最終戦は危なげなく勝つことができた。


「っふぅ……」


 何とか勝てたな。


 安堵の息を漏らして、俺はレバーから手を離す。


「冬馬すごいね、わたし全然勝てなかったのに!」

「いや、運が良かったからな」


 お前が下手過ぎるだけだろ。とは言わなかった。本当の事でも言っていい事と悪いことがある。


「んじゃ、別のゲームも見て――」


 言いかけたところで、画面に対戦者乱入の表示が映る。


「ゆ、幸奈?」

「もう一回やりましょう! 冬馬さん!」


 目を輝かせて、幸奈はそう宣言した。

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