第28話 音ゲーやってから考えて良いか? と言ったら二人とも拗ねた。

 最初はただ、家の煩わしさから逃げるのが目的だった。


 ただ、ゲームをしている間は何も考えなくていいから。それだけが目的だった。


 プライズゲーム、対戦ゲーム、体感ゲーム……私は何でもするし、いつの間にか上手くなっていて、掲示板のデイリースコアランキングに載ることも少なくなかった。


「……」


 ふとした時に、掲示板でよく見る名前がある事に気付いた。


 その名前は、あんまりプレイする人のいないゲームならデイリーランキングにちょくちょく乗っていて、私と同じ、憂さ晴らしに適当なゲームを遊んで楽しんでいる常連だと思った。


 それが間違いだと気づいたのは、奥まった場所にある音ゲーコーナーを覗いた時だった。


 ほぼすべての累計スコアランキングで首位を取り、月間ランキングでもほぼ首位を独占。私が勝手にシンパシーを得ていた相手は、はるか雲の上の存在だった。


 私はほんの好奇心から、どんな人か暴いてやりたくなった。クラスでは目立たないような、冴えないひょろっとした人か、私と同じような人だと思って、ランキングの更新具合から、彼の生活サイクルを割り出して、なんとか遭遇しようと思って躍起になった。


 そしてつい先日、ようやく彼を見つけることができた。


 ランキングが更新された直後には、同じゲームは一人しかプレイしておらず、後ろから覗き見たスコアも本人であると雄弁に語っていた。


 手入れされていない、伸び放題の髪、背は高く、服装からはよくわからないけれど、痩せすぎている訳でもなく、太っている訳でもなさそうだった。


 彼の名前はTOM――碓井冬馬さん。


 ちらりと見た時には感じなかったけれど、髪で隠れた顔や、主張し過ぎないファッションセンスは悪くない。なんというか「あえてやってる」ように見えた。


 そして、花火大会の時に見せた迷いのない行動。きっと彼は、何か理由があって「さえない男」を演じているのだと思った。


「あっ! 冬馬さーんっ」


 だったら、競争率が低いうちに外堀を埋めてしまおう。というのが、私の作戦だったのだが……




「幸奈か」

「わ、この子が幸奈ちゃんですか?」


 映画の帰りにゲームセンターに寄ったところで、幸奈が走り寄ってきた。


「えっ、あの……この人は」

「クラスメイトの一人、昨日言ったうちの一人だよ」


 千桂の姿を見て露骨に警戒した彼女を落ち着かせるように、紹介してやる。


「よろしくねー幸奈ちゃん。私は千桂ちゃんです。そしてわたし達、お兄ちゃんの同級生です」


 ふんす、と自信満々に語る。


「……よろしくお願いします」


 幸奈はよそよそしく答えて目を逸らした。なんだろう、人見知りか、兄貴の話を出してほしくないとか?


「と、ところで、冬馬さんはなんでここに? 私と会う為ですか!?」


 圧がすごい。


 整った日本人離れした顔と早熟気味な身体で攻められると、どうしても一歩引いてしまう。


「いや、千桂がいつも俺がどんなことしてんのか、知りたいって言うからな」

「そういう訳ですな! 昨晩は幸奈ちゃんにとられましたが、今日、冬馬は私とデートなのです!」

「でっ――!?」


 デート!? デートなのかこれは!? いや、綾瀬の邪魔が入ったとはいえ、二人で映画観て、いいとこみせようとゲーセンに寄る……って確かにデートだこれ!


「そうなんですか?」


 浮足立った俺に、幸奈が問いかけてくる。その目で見つめられると、何故だか首を縦に振れなかった。


 確かに、映画を見ただけだし、二人っきりになったのは移動中だけだし……そう考えるとデートじゃ、ない?


「いやー……どっちなんだろ」


 デートであって欲しいが、デートと定義していいのか微妙だし、デートと宣言しにくい雰囲気がある。


「冬馬?」

「冬馬さん?」


 ……どっちなんだこれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る