閑話:夜中の攻防

 やっぱり、冬馬本人から詳しく聞こう。


 そう思って個人チャットを開いてから、数十分が経過していた。


 お風呂も済ませたし、明日は彼との映画館デートだ。早く寝てしまいたい。だけど、あの写真がちらつくのだ。


――明日、疲れてるだろうけど寝坊しないでね。


 そう書いて送信するだけ、そのはずなんだけど、わたしはどうしてもあの子との関係を問いただしたかった。


――あのことは本当に何も無いのかな? 千桂ちゃんは気になっちゃうなあ。本当の所を


 そこまで入力して、わたしが冬馬に抱いている感情を暴かれそうで、慌てて消去する。第一、付き合ってるという事を肯定されたらわたしの気持ちは終わってしまうのだ。それだけは嫌だった。


――好きです。付き合ってくださ


 ならばと思い、直球で勝負に出ようとするが、それも慌てて消去する。当たって砕けろをするには、全然勝算が見えない。


「……」


 なるべく軽く聞いて、明日の事を確認するだけにしよう。


 そう決めて、わたしは文字を入力し始める。



 チャットに二時間ほど張り付いて誤解を解いた後、幸奈とは別れて家に帰った。なんだかんだ、明日は明日で千桂と映画を見に行く予定なのだ。


「……気まずいなあ」


 別に後ろめたいことがあるわけじゃない。幸奈とは誤解も良いところだしな。


 ただ、誤解も良いところではあるのだが、観覧車であの雰囲気になった千桂に、あの写真を見られたのは言いようのない気まずさを感じずにはいられなかった。


 とはいえ、ここで映画を見に行くのを中止にすると、余計気まずくなってしまう。なぜ約束した時に、二人だけで行くことにしてしまったのか。後悔先に立たずとはこういう事を言うのだろう。


 ベッドの上で千桂との個人チャット履歴を眺める。


『じゃあ、ちょっと前後しちゃうけど遊園地の方が先で、次の日に映画観にいこっか』


 履歴の中に、そんなメッセージが残っている。ああ、先に映画へ行っていれば、こんな気まずい事もないのに。


 恨めしくそれを見ていると、ポコンッと新しいメッセージが届いた。


『起きてるかな?』

――ああ。


 返信の速さで変に勘繰られそうで怖かったが、それでも千桂とはちょっと話したかった。


『さっきの……白崎くんの妹だけど、本当に何にもないんだよね?』


 彼女たちには、最近知り合ったゲーセン仲間で、駅前で偶然合流しただけと伝えてある。


――何もないっていうか、本当に白崎の妹だってのも、あの時知ったくらいだしな。


 全然、付き合ってないよ。と返したかったが、そう書いてしまうと余計に怪しく思われるかもしれない。そう考えた俺は、消極的に否定する。


 既読はすぐに付き、その割には返信に五分ほどかかっていた。


『うん、じゃあ、また明日』


 五分の間、彼女がどれだけ葛藤したのかは分からないが、帰ってきたメッセージはそれだけだった。


――お休み。楽しみにしてる。


 その反応を返すなら、俺もこれ以上言わない方が良い。そう思ってそれだけ返すと、俺は布団にもぐりこんだ。



 楽しみにしてる。


 そっか、楽しみにしてくれてるんだ。


「……えへ」


 わたしは、冬馬から返ってきたメッセージを見て、頬が緩むのを感じた。


 頭のどこかでは、書くだけならタダ。っていう言葉がよぎるけど、それでも嬉しかった。


 そうだ、冬馬があの子と付き合ってないって言うなら、わたしにもチャンスはあるかもしれない。


 がんばろう。何ができるか分からないけど、がんばろう。


 わたしはそう思って、頭から布団を被った。眠れるかな? 眠らなきゃな。

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