第18話 観覧車からの景色はとてもよかった。1
「観覧車?」
「今から待てば丁度いいだろ、ペアで乗ろう」
メリーゴーランドから降りて、俺は石倉に話す。
「そうですね。碓井さん、また一緒に乗りましょう」
「いや、ジェットコースターでペアくんだから今度は違う組み合わせで乗ろう」
田中が喜々として話しかけてきたが、ここは穂村の希望もあるし、それに付き合ってやるべきだろう。
「んー、しょーがねーな、じゃあそうすっか」
「そうそう、順番順番、ねっ」
観覧車自体は背が高いだけあってパーク内のどこからでも見える。俺たちはそこへ向けて歩いて向かうと、最後尾を見つけ出して並んだ。
早めに並んだのは正解だったようで、既にかなりの列が出来ていた。元々人気のアトラクションっていうのもあるが、今乗りたい人に加えて、俺達みたいに待ち時間を見越して並ぶ人もいるからだ。
ただ、幸いなことにゴンドラはそれなりに多く配置されており、回る速度は遅いものの、一定の速さで人の入れ替わりが進んでいる。
「……ちょうど日没くらいか」
日の傾き具合と、列の進み具合から推測すると、俺たちが乗れるのはそのくらいだった。
「それだと、明かりがつき始めた街を見れそうですね」
「俺はもうちょっと遅い方が良いけどなぁ」
「で、でもさ! 実際見たらそれでも綺麗かもよ!?」
妙に落ち着かない穂村を不思議に思いつつ俺たちの位置は順調に観覧車に近づいていく。
そして、あたりが暗くなり、電灯がともり始めて、周囲は様々な光が点々と灯り始める。
「……悪くないな」
青、赤、緑、黄……いろいろな光が混ざり合い、暖かな橙色の光になる。その景色は幻想的で、溜息の出るような景色だった。
「む、碓井くん何か言いました?」
「いや、何でもない」
誰にも聞こえないようにつぶやいたが、どうやら穂村には聞かれていたらしい。
景色を楽しみつつ、穂村と田中、あと石倉は会話を楽しみつつ、列は進んでいく。そしてあたりがすっかり暗くなり、西の空が真っ赤になった頃、ようやく俺たちの番が回ってきた。
「じゃ、先行くわー」
「穂村さん、碓井さん、また後で」
石倉達を見送り、その次に俺と穂村はゴンドラに乗る。
「よっと……大丈夫か、結構段差あるな」
バランスを崩しかけた穂村の手を取って引き上げてやる。指先はひんやりとしていて、異性を意識して少しだけ心臓が高鳴った。
「っ……あ、ありがと、デス」
どうもさっきから、穂村は落ち着かない。何か気になる事があるのだろうか。
とりあえず対面して座る。視線の先には石倉達のゴンドラが見えた。
「……えっと、げ、元気?」
「あ、ああ」
大丈夫なのかこいつ、妙にガチガチになってるけど。
「白崎の件でゴチャゴチャ考えてたけど、田中が気にしてないんじゃそこまで強く出られないしな」
「じゃあ、田中ちゃんと色々話してたのは――」
「まあ、俺なりの気遣いって言うか、話す機会が多かっただけっていうかだけど?」
もしかしたら、こいつは俺たちを元気づけるために、色々頑張っていたのかもしれない。思い返せば、結構今日はテンション高めだった気もするし。
「……よかったー」
小さな声で、穂村は胸をなでおろす。
「ま、それはそれとして白崎はいつか懲らしめてやる。他人の頑張りを馬鹿にする奴は大っ嫌いだ」
「うん、そうだね! いつか見返してぎゃふんと言わせましょう! 田中ちゃんが!」
あくまで俺達ではない事に苦笑しつつ、俺は外の景色を見る。
夕焼けの燃えるような空と、その周囲にある濃紺の星空、そして真っ黒な海と、きらめく街並み。ずっと見ていたくなるような、強烈なコントラストが周囲を支配していた。
「あの、碓井くん」
「ん?」
夜景に心を奪われていると、穂村が話しかけてきた。夕陽の残り香か、すこし顔が赤く見えた。
「初めて会った時、話した事、覚えてる?」
「メロンパンか?」
あれほど印象的な事を忘れる訳が無いだろう。そう思って答えると、穂村は「やっちまった」という顔をした。
「自己紹介の時! 千桂ちゃんって呼んで、って言ったでしょ!」
「……ああ、そういえば、そんなこと言ってたような」
すまん俺としては食い意地張った奴がいるなあくらいにしか思ってなかった。
「なんで千桂ちゃんって呼ばないのか、わたしは考えました!」
「お、おう」
噛みつくように近づいてくる穂村に若干引きつつ、相槌を打って続きを促す。
「それは、わたしも碓井くんの事を名前で呼んでいないからです!」
「そ、そうなのか」
どうもそうらしい。俺としては名字で呼ぶのが慣れてるだけなんだが。というかその理論で行くと、生徒会副会長をしてる綾瀬の事も、俺は名前で呼んでないと違和感が出ないか……?
「という事で! わたしは調べました! 碓井くんの名前を!」
調べた。というか名簿見たらすぐわかるだろうに……妙に仰々しい物言いに、俺は思わず口元を緩めた。
「改めて言います! 千桂ちゃんって呼んでください! 冬馬くん!」
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