第14話 二回目は絶対に乗らない。

「よし! じゃあ最初はジェットコースター行こうジェットコースター!」


 という石倉の提案でジェットコースターに並ぶ。絶叫系は得意ではないが、誰も嫌がる素振りは無いし、俺だけ嫌だと言って空気を悪くするのも気が引ける。


「むむん、結構並びますねえ」

「あ、でも進みは早いですよ」

「お、おう」

「石倉? なんか調子悪いか?」


 列が動き始め、中ほどまで進んだところで、石倉の調子がおかしいことに気付く。


「いや、その……碓井、ちょっといいか?」

「なんだよ、トイレか?」


 穂村と田中に聞こえないように、石倉は俺に囁く。


「絶叫系苦手なんだけど……」

「……」


 いや、おい。


 呆れて何も言えない。というか、どう声を掛けて良いか分からない。


「ちょっと俺から言うのは恥ずかしすぎるだろ、何とか碓井の方から言ってくれね?」

「やだよ、せっかく結構並んだのに、ていうかお前が乗りたいって言ったんだろ」


 それに、一回並び始めたコースターで「やっぱ辞めます」は恥ずかしすぎる。ある意味これに乗るより嫌だ。


「だってさぁ、女子と一緒だったら普通絶叫系が定番だろ? もうガキじゃないし、何とかなるんじゃないかなって思ったんだよ!」


『ヒッヒッヒ、引き返すなら今のうちだぞぉ?』


 流れているボイスドラマからそんな台詞が聞こえてきて、情けないというか、そんな気持ちから苦笑いしてしまった。


「碓井くん、どうかした?」

「いや、次にどこ回ろうか話してただけだ――そろそろ前に進みそうだな」


 そうこう話しているうちに俺たちの順番が近くなる。二列ということで、俺たちは男女二ペアになる事になった。


「――せめて千桂ちゃんとペアにしてくれ」

「は?」


 どう分けるか話そうとした時、石倉が再び耳打ちしてくる。


「だってそうだろ! 絶叫系我慢するんだから、せめてあんな秋葉系のちんちくりんより、千桂ちゃんの方にしてくれよ!」

「……ああ、分かった」


 滅茶苦茶失礼な事を言いだした石倉に、軽蔑の視線を送りつつ、俺たちは四人でコースターに乗り込む。


 ゴンゴンと音を立ててコースターが昇っていき、コスタ―の最前列が頂点へと近づいていく。


「田中、大丈夫か?」

「は、ははははい……」


 隣の田中を見るとガチガチに緊張していた。顔を伏せないのは度胸があるなと素直に思う。


「まあ、実を言うと俺も苦手だ。歯を食いしばっていこうな」

「え、碓井さんも――」


 言いかけた瞬間、コースターが急加速し始める。前の席にいた別グループの二人がギャーギャー言ってるが、隣と後ろの二席は妙に静かだ。


 垂直というよりも、オーバーハングしているような曲線での落下、ほぼ横向きになっての旋回、いつの間にか地面が頭上にある縦回転、俺は歯を食いしばり、手すりを握ってそれを堪えた。


「っ……」


 最後の旋回を終え、乗り口が見えてくる。ようやく終わった……


「す、すごかったですね……」

「ああ、楽しむ余裕はなかったな」


 田中の声に、ほっと胸をなでおろして応える。石倉と穂村は大丈夫か? と考えて後ろを向くと、気絶して完全に脱力した石倉と、ガタガタ震えている穂村が見えた。


 係員に誘導されて俺たちはジェットコースターを降り、全員そろって近くのベンチに座る。


「なあ、正直に答えて欲しいんだが」

『……』


 俺が声を掛けても、誰一人反応しない。だが、俺はそれに構わず言葉を続ける。


「絶叫系嫌いな奴、正直に手を挙げてくれ」


 全員の手が挙がった。

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