第13話 遊園地なんて近場にあってもそうそう行かない。

 一度家に帰って、シャワーと朝食を済ませて待ち合わせ場所に向かう。待ち合わせには一時間ほど余裕があり、時間を持て余し過ぎたことを実感した。


「おー碓井、おはよう」


 到着した俺を待っていたのは、石倉だった。


「早いな」

「お前も人のこと言えないだろー、楽しみ過ぎて早起きしちゃったか?」

「まあ、間違ってはいないが」


 あそこまで凹んでいた石倉だったが、女子二人と遊園地行くけど一緒に来るか? と言ったら二つ返事で食いついてきた。


「おおっ? 碓井くんに石倉くん、はやいですな」

「穂村もな」

「千桂ちゃんおはよー!」


 男二人で待ち時間どうしようか話していると、穂村が到着した。時計は八時半、なんだかんだ、待ち合わせの三十分前に三人そろってしまった。


「えへへー、楽しみ過ぎて早めに到着しちゃいました」


 なんだかんだ、こうして三人私服で集まるとどこか新鮮に感じる。俺は薄手のジャケットパンツスタイル、石倉はいわゆるB系、穂村はやっぱりというか、イメージ通りにガーリーな服装で纏めている。


「あとは田中だけだけど……」


 このまま三〇分ここで待つのも変な気がするし、ここまでこの場で待ってしまったのだから、いまさら移動するのもすわりが悪い。


「ちょっと連絡入れてみるか、時間がかかりそうならフードコート待ち合わせにしよう」


 俺がそう提案して、スマホを取り出して電話を掛ける。


『あ、も、もしもし! 碓井さん!?』


 数回のコールの後、慌てた様子の田中が電話に出た。


『もしかして僕、遅刻ですか!?』

「あー、いや、そんな事は無い。ちょっと俺達全員早めに集まりすぎちゃってな、今どこにいる?」


 声の感じからして寝起きだろうか? 周囲を見ると二人とも会話内容を察して苦笑いしていた。


『あっ、だ、大丈夫です。すぐ近くに居ます!』

「は?」


 ……声が寝起きなのに、なんで近くに居るんだ?


 周囲を見回すと、田中がいつぞやと同じファッションで走ってきていた。


「田中ちゃん、おはよー!」

「は、はい! 穂村さんおはようございます!」

「おはよー、結局全員早めに集まっちまったな」

「おはよう田中、もしかして近くにずっといたか?」


 何の気はなしに、俺は確認を取る。


「あ、はい、寝坊するといけないので朝五時から居たんですが、ベンチに腰掛けていたらついウトウトと……」

「……」


 朝五時から待ってた……簡単な事のように言う田中に、俺は少し引いていた。


「田中ちゃん早すぎー」

「はははっ、楽しみにしすぎだろ!」


 八時前から来ていた石倉には言われたくないだろうが、流石に四時間前から待っているのは覚悟が違う。というか「ちょっと早めに来すぎたな―」と思っていた俺が後ろから二番目という事実に、苦笑いせずにはいられなかった。


「じゃあ、行くか」

『おー!』


 俺の言葉に三人が応える。これから俺たちが向かうのは、深河ベイサイドパークという名前のテーマパークで、ここから電車で数十分ほどかかる場所にある。


 改札を通り、しばらくして到着した快速電車に乗り、四人でそれぞれ吊革につかまって向かう。田中はちょっと背丈的にギリギリだったので、座席横のポールに捕まるように促した。


「遊園地、しかも保護者同伴無し! 初めてでめっちゃテンション上がるわ!」

「そうだねー、わたしも中学の卒業旅行とかでしか行ってないから、これが初めて!」

「だ、大丈夫ですよね? さ、財布は持ってるし、携帯も落としてないですよね?」

「合流してからここまでの間でどうやって落とすんだよ……」


 とはいえ、俺もさっきから財布と携帯の位置を何度も確認している。全員が全員浮かれていて、この瞬間さえも楽しんでいるようだった。

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