異世界アルティミアへ転移して、美少年になって暴れます!
飯塚ヒロアキ
第1話 異世界への道
――――今日、早島は憂鬱な仕事を珍しくも定時で切り上げて、自宅へとまっすぐ帰ることにした。
帰路の途中、いろんな誘惑がある夜の街。
視線を横に向ければ、ゲームセンターのネオンが目に映る。
フィギア欲しさにユーホーキャッチャーに10000円使って、結局取れなくて、泣く泣く諦めたあと、後ろで見ていた若いカップルにハイエナのように群がられ、景品を奪われた。
それ以降、絶対にゲーセンで散財しないと決めた。
次に左側へと視線を向けるとそこには居酒屋が立ち並ぶ。
仕事帰りのサラリーマンたちが酒を飲みながら、楽しそうに笑い声をあげては、宴会騒ぎだった。
早島もビジネス用のスーツを着て、右手には鞄を持っている。
自分も酒をあんな風に楽しく吞んでみたいと思うのだが、そういう関係の上司も部下もいない。
だが、一人だったとして、その姿を見て色気全開の客寄せが声をかけくる。
そんでもって、今だけなら半額になるよーとか、飲み放題1000円だよーとかいってくる。知ってるぞ、お前らの手口。
だって、前に千円飲み放題っていって、会計が終わったら50万になっていたし。断ったら怖い男たちがぞろぞろとやってきては「わかってるのか?」って言ってくるし。
それに今日は金曜日だ。
(―――きっと、明日になったらまた別の美人の客引きが現れるんだろうなぁ……)
鼻下を伸ばした。
「あーもう! うるさい!」
早島はその勧誘の声を振り切るように走り出した。
そして、早島は家に帰って、逃げ込むように自宅の扉を閉めた。
そのまま急いで、風呂に入り、シャワーを浴びたあと、ドライヤーなんてものをせずに、タオルで自然乾燥させながら今、話題のゲーミングチェアに腰をかける。
ふーと息を吐きながら、PCの電源を入れて、就寝前の日課であるネットサーフィンを始めた。
最近、自分の中でハマっているのが、検索ワードで適当に打ち込むことだ。
例えば、「ハーレム」と打てば、ハーレム関連が検索がヒットして、新作のラノベや新しく始まる映画などの情報を得ることができたり、ミネルと打てば、「ミネルヴァ戦記」という小説が出てきたりと。
自分では知らない新しい発見がある。そう思うとネットというツールは本当に便利だと思う。
「今日は……そうだな」
AとRで「アル」と打ち込んでみた。
すると「アルティミア」という題名のサイトが一番最初にヒットする。
画面に顔を近づけ、睨みつける。
興味本位で、マウスをクリックしてみた。
いきなり、ダウンロードが始まり、画面の中央に「……読み込み中」の文字が浮かび、しばらくすると真っ白な画面に文字が浮かび上がった。
『―――選ばれし者よ、描け、転移魔法陣を。そして、門の前で唱えを魔の言葉。アルティミアに来たければ、己の力で、門を開け、勇者となれ』賢者ハドルス
王道RPGゲームを起動したとき、大体出てくるようなセリフだった。
だけど、このメッセージを読んでいるうちに、妙にこれまでとは違う何かに引き込まれえるような気持になり、胸の奥から何かが湧き上がってくる。
「それにしても……勇者になれか。勇者ねぇ……」
ゲーミングチェアに腰を預け、視線を横へと向ける。
そこには本棚があり、たくさんの本が並べられていた。
本のタイトルは「異世界転生~」「異世界転移~」という文字が目立つ。別に自身がオタクではないと思っているが、彼はこういうジャンルが好きだった。
とくに非現実的な感じがとても好きで、それは現実世界から逃げるように非現実世界に憧れを抱く自分がいた。
強くなりたい。
英雄になりたい。
勇者になりたい。
ハーレムしたい。
そういう願望をかなえてくれるのが異世界転生・異世界転移なのだ。
「おじさんが転生して、英雄になって、美人なエルフとか、ハーレムとか、チート能力得て俺、つえぇーとか。あぁ夢があるよなー」
早島はゆっくりと目を閉じて、再び目を開けると目の前にはいつもの部屋があった。
時計の針が動く音がカチカチとむなしく響き渡る。
大きなため息をしたあと、椅子に座りなおした。ギシッと悲鳴を上げる。
「あ、また少し太ったかも?」
そういって、自分のお腹に手をあてる。
脂肪の塊を見て絶望してしまう。
「俺も若かりし頃は女の子にモテたのになー(自称)」
まだ若いはずなのに、鏡を見ると、顔は老けている気がする。
いや確実に老けてる。
白髪もあった。
「あぁーマジでどうしようかなぁ。このままだと、ただのおっさんだよな……」
今年で30歳を迎えた早島はいよいよ「おじさん」と言われる年齢になっていた。
会社でもおじさんと言われ始めていたのが最近のショックな出来事である。
「異世界に行きたいなぁー」
早島は異世界に行く夢を抱いたことがある。
だが、夢は夢に過ぎない。
叶えられる夢もあるのだろうが、この“転生”と“転移”については世界をひっくり返すことができない限りは不可能だ。
ため息を大きく吐く。
「はぁ。明日は6時起きかぁ……だるいわー」
背伸びをしたあと、手を下ろす。
すると手がマウスに当たってしまい、何かをクリックしてしまったようだ。
「あれ? なんか押しちゃったみたいだけど、何を押したんだろうか……」
画面がいきなり、変なサイトへと飛ぶ。
「ん?」
早島は首を傾げながら、そのページを見た。
どうやら何かの掲示板のようだ。
スレッドがたくさん立ち上げられていて、そのタイトルにはすべて「アルティミア」に関連することが書かれていた。
「なんだこれ?」
不思議に思いながら、その書き込みを読むことにした。
=====
【アルティミア】
雑談スレ1
・ここはアルティミアについて語り合う場所です。
・誹謗中傷など他の利用者に迷惑をかける行為は禁止します。
———1 ネコ将軍 2022年05月04日(水)22:30:18.32 ID:neko886
どなたかアルティミアへ行ったことがある人はいませんか? 私、まだ行けてないけど、そろそろ行こうかなって思っています。なにか、注意点とありますでしょうか?
———2 カイネ大佐 2022年05月04日(水)22:35:16.40 ID:kaine56
>>>1 僕、なんか知らないけど転移ミスって、海のど真ん中に転移したよ。。。気をつけて。
———3 グラディエーター 2022年05月04日(水)22:40:10.50:ID:gurade54
>>>2 おつw 唱え方まちがえたんじゃないの?w
———4 信長 2022年05月04日(水)22:50:10.18ID:nobunaga1
>>>2 あーそれ、転移魔法陣はちゃんとした円じゃないとだめらしいよ? それに一文字でも間違えたら変なことろへ飛ばされるらしい。
———5 カイネ大佐 2022年5月04日(水)23:10:18.25IDkaine56
>>>4 それ、早く言ってよ!! 餓死するところだった。
―———6 ネコ将軍 2022年05月04日(水)23:30:50.12 ID:neko886
私、不安になってきたので、どなたか転移魔法陣教えてください。
———7 グラディエーター 2022年05月04日(水)23:50:30.50:ID:gurade54
>>>6 円の中央に☆ 各先端部分にアルティミア語で人、魔物、光、闇、太陽って描く。描く場所はどれでもいいらしい。むしろ、ランダムにした方が、いい場所に行けるかも?――――
そんな、どうでもいいやり取りが続いていた。
早島はこの掲示板の流れを見て、MMORPGの話をしているのだろうと思った。
「なんだよ、ゲームの話かよ」
何にも面白くないと思った早島は掲示板を閉じ、そのままPCの電源を落とした。
背伸びをしたあとベッドに顔からダイブする。
「あぁ目が疲れたー」
ふんわりした低反発の枕が優しく顔を包み込んでくれる。
「はぁ……。試しに俺、一回、死んでみようかな」
転生などの物語の始まりは何らかの死によって始まる。
殺されるか、不慮の事故によって神様が同情して転生させる、という流れだ。
普通に考えたらそんなバカげたことはあり得ないので、やめることにした。
横なりながら枕の下にあったスマホを取り出し目覚ましを設定するとそのまま眠る。
頭の中で、転移魔法陣がどんなものなのかを想像しながら。
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