文学 900〜

戦争は女の顔をしていない(ルポ) 2022-01-02

「戦争は女の顔をしていない」

著:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ

訳:三浦みどり

読了日:2022/1/2


 第二次世界大戦の時、ソ連では少女たちが前線へ志願して看護師や狙撃兵や工兵になった。地下活動に参加した人や協力した人にも、それぞれの戦争があった。戦争が終わった後も戦いは日常に潜んでいた。500人以上から聞き取ったノンフィクション。


 ソ連は戦勝国だから酷く苦労してるイメージがなかったが、そんなことはなかった。独ソ戦の凄まじさを知らなかった自分を恥じる限り。

 色々考えることは多いが、特に記憶に残ったのは、勝利の後で今まで持っていた敵国への憎しみをどうすればいいかわからなかった話と、戦場での無理が祟って戦後身体がボロボロになっていた話。

 独ソ戦は所謂「族滅戦争」だったようだ。利益云々というより、相手の民族が嫌いで政治方法が嫌い、がメインの戦争であり、戦争が終わったと言われても敵国を憎む気持ちと折り合いがつけられない人たちがいたのが実際。何年も何十年もかけて元敵国の人々の存在を認められるようになったとのことだった。

 プロパガンダに乗せられて前線へ志願した少女たちの行く末も悲惨だった。そのまま軍人として凛と歩んだ人もいたようだが、生きて帰ったほとんどの人は戦争に参加したことすら一言も話さなかった。結婚に不利になる、あらぬ誤解や疑いをかけられるかもしれない、戦場を思い出しくない、それなら黙っていよう、と。

 中には従軍中に功を立てようと必死で頑張り過ぎた影響で全身ボロボロになった人もいた。戦後、気がついた時には動くのも大変なほどに。


 月並みな表現なら戦争はよくないと思いました──となるのだが、それだけでは語りようのない悲惨さがこの本には溢れている。独ソ戦と同時期にはナチスドイツのホロコーストもあったし、太平洋戦争で悲惨な方向に突き進んだ日本もあった。独ソ戦前にはスターリンの大粛清があった。凄く、狂っている。戦争は格好良い物ではなく、正気で始まる戦争なんてものもないんだろうなと思った。

 利益云々は大概詭弁で、一つの戦争が起きる背景には第三者からは読みきれない複雑な経緯と感情が絡まっているのだろうとも思う。

 故に戦争当事者の善悪については問わないが、日々追い詰められて生きている人がいる世界は素敵ではないとだけ語っておこう。

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