商談6 誕生町の起源?

 ――そうだった! 先方から電話が来ていたのを忘れていた! 俺としたことが。

「源です。ご連絡が遅れて申し訳ありません。運転中だったもので......」

 運転中という言葉は口実として最適だ。これは今世紀最大の発明と言ってもいい。

『こちらこそ、リスケとなってしまい申し訳ございません。つきましては――』

 先方から明日ということでアポが取れた。これで、もう少し誕生町を楽しめそうだ。そういえば大ちゃん寿司の店主が、近所に有名な神社があると言っていた。せっかくだから、参拝していこうか。

 誕生駅からの道は鴨河漁港を横切り、そして山岳部さんがくぶへと続いている。つまり、神社はその先にあるということだ。店主からは少しばかり歩くと聞いていたので、俺は散歩ついでに徒歩で向かうことにした。

 道中どうちゅうは岩山で、山肌はごつごつしている。道幅は自動車がすれ違うにも厳しく、加えて急こう配。行き交う自動車は必然と徐行してしまう。車社会も時に難儀なものだ。

 30分くらい歩いただろうか。目的地は一向に見えてこない。それどころか、段々と道幅がせばまっていないか? もはや、自動車1台通過するのがやっとの道幅だ。そして、周囲は草木が生い茂っていて方位さえ見失ってしまう。ここは一体どこなんだ? 俺は猜疑心さいぎしんさいなまれる。

 俺は何気なく空を見上げた。空にはトンビが悠々ゆうゆうと飛んでいた。トンビを目で追っていると、背後に視線が移った。すると、そこには細い石段があった。石段はコケにまみれていて、一見すると見逃してしまう。そして、その先には鳥居らしきものが見える。俺は疑念を抱きつつも石段を上った。

 石段は勾配こうばいがきつく、手すりをつかんでいないと滑落かつらくしてしまいそうだ。そして、下を見るのも怖い。

 やっとの思いで俺は頂上まで登った。そこは四畳半よじょうはんほどの狭い空間。目の前には、百葉箱ひゃくようばこほどの小さなやしろ。鳥居に対して大きさは見合っていないが、どうやらここが神社らしい。

いつわり神社?」

 あとで分かったことだが、これは誕生町の起源とされる神社だった。しかし文献の散逸さんいつが著しく、あくまで口承こうしょう文化だ。

 真偽はさておき、ここはかなりの高所。誕生町の景色を一望できるのは大きな利点だ。この景色、是非とも写真に収めたい。俺は思わず、スマートフォンのカメラを起動する。ここなら、俺は一流カメラマンだ!

 なるほど、ここなら神様が人々を見守るにはいい場所かもしれない。

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