商談3 助け舟

 ウツボとの格闘から数分が経過していた。しかし、まだウツボとの決着は着きそうにない。俺は額から緊張の汗がしたたり落ち、ウツボは釣り上げられまいと全身をくねらせて抵抗している。言わばこれは、雌雄しゆうを決する戦いなのだ。

「ブーッ! ブーッ!!」

 こんな時に先方からスマートフォンへ着信が入る。今はその時じゃない、男の戦いに水を差すな! 俺は無視を決め込んだ。

 よしよし、形勢はこちらに傾いている。俺のこの手が勝利を欲しているんだ。ウツボとの距離が近づくにつれて、その凶悪な顔が見え隠れし始めた。そして何より、目視でも分かるその巨体はおそらくシーバスの比じゃない。奴の巨体に対し、俺のタックルはラインがあまりにもか細い。タックルよ......どうか持ちこたえてくれ! 

 俺の願いは天に通じたのか、足元までウツボを引き寄せることができた。しかし、ここからが問題。奴のあまりの巨体に、ラインがはち切れそうになっている。ここで奴を逸してなるものかっ!!

 俺はおもむろにスーツの上着を脱ぎ捨てた。この際、恥も外聞 がいぶんも知ったことではない。 俺はすかさず、ふところ から携帯用のエイリアンペンチを取り出した。俺はそれを奴の口へあてがい、その巨体を一気に引き上げようとするが......重いっ! とにかく重い!! これでは、俺の腕がちぎれてしまいそうだ......!

「......旦那っ! 大丈夫か!?」

 これは助け舟! 付近の釣り人が応援に駆け付けた。彼は颯爽さっそうと現れ、ウツボのえらへギャフを引っかけた。これで奴とは2対1、あとは力業ちからわざだっ!!

 俺はどうにかウツボを陸へ引き上げた。正直、腕が海へ持っていかれると思った。やはり、奴は俺が思う以上に巨体だった。後に釣り人がメジャーでウツボを測定したところ......なんと100センチ! 1メートルじゃないか!!

「こいつぁ、この海の主だな。この界隈かいわいでは噂が絶えなかったんだ」

 どうやら、こいつは地元釣り人には有名だったみたいだ。そして、当の本人は陸に上がってからもじたばたしている。俺は、ウツボの生命力の強さを実感した。

「さて、締めるか!」

 釣り人は懐から金槌かなづちを取り出すと、ウツボの頭へそれを打ち付けた。ウツボは間もなく、大口を開けて大人しくなる。奴の口には、見るも無残な姿になった俺のルアーがきらめいていた。

 ......いや待てよ? 俺はこのウツボをどうしたらいいんだ!?

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