商談2 海のギャング

 俺は鴨河かもがわ漁港へ着いた。ここは漁船や釣り船・遊覧船など、数多くの船が係留けいりゅうされている。捕鯨が衰退したとはいえ、この町の水産資源は健在だ。

「下げ三分さんぶ、いい潮だ!」

 海釣りにおいて潮の干満かんまんは重要な要素だが、シーバス釣りでは満潮から三割ほど引き潮になっている状態が好ましい。そして、場所取りも非常に重要。どんなに最適な仕掛けでも、ポイントを間違えては話にならない。そこで俺は、外洋へ突き出た堤防の先端部を陣取った。ここなら、岸へ向かってシーバスが近づいてくるに違いない。

 俺は、スーツのポケットに大きめのペンを忍ばせている。これが何かって? 実は携帯式の釣り竿なんだ。驚きだろう? これなら、スーツ姿でも違和感なく釣り道具を携帯できる。

 そして、ポケットにも携帯式のベイトリールを忍ばせている。いざという時、即応で釣りができるようにする努力を俺は惜しまない。水辺があれば竿を振り出さずにいられない。これは釣り人のさがと言ってもいい。

 そして胸ポケットには電子タバコ......と見せかけたルアーケース。シーバスはミノーが王道、しかしここは敢えてスプーンで挑もう。足元にはイワシの群れが回遊しているし、ちょうどいい。タックルを組んだら、いよいよ釣行ちょうこう開始だ!

 俺は沖合の岩礁地帯へ仕掛けをキャストする。仕掛けは表層を泳がせる。誕生の澄んだ水面には、このスプーンのきらめきがよく似合う。そして、この潮風がまたここ......っ!!

 来たっ! 早くも来たぞ! これは大物の予感......! 竿の先端にズシンとした重みが伝わってくる! しかしなぜだろう? これほどの大物なら仕掛けが走るはず。これは何かがおかしい。もしや根かかり? いやそんなはずはない。なら、この重みはどう説明すればいい?

 俺が困惑している最中、奴は水面から姿を現した。まさか......嘘だろう?? トラ柄を思わせる模様、ヘビに似た体型。海のギャング・ウツボじゃないか! けどなんでだ? 奴は夜行性じゃないのか? 今はそんなことどうでもいい。とにかく仕掛けを引き上げないと!!

 俺のタックルはシーバスを想定しているが、それでもウツボと戦うには厳しい。このはち切れそうなラインを、慎重に巻き取っていかねば。

 あまりの緊張から、いつしか俺の額に冷や汗が溢れていた。

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