第7話 決戦


一 


 かつて二人がグラキエースと相まみえた謁見の間は最上階――三階にある。

 地図で見ると、城の中で最も広い部屋だ。

 謁見の間は城の顔というだけあり、扉だけでも見ただけで金属の重さを感じる。装飾も相当立派だ。

 アレックスが扉を開けようと取っ手に手をかけたその時、


「……なんだ、この威圧感は」

「いる……。確かに――この扉の向こうに」


 アレックスは一旦取っ手から手を引っ込ませ、ルピアと共に静かに武器を構える。


「うぅ……ホットハーブ水を飲んでいるのに、寒さを感じます……微かですが」


 レナが少し震えながら、手で上腕をこする。


「それでは開けるぞ。覚悟は良いな?」


 今度はフィリアが取っ手に手をかけて、共に戦う四人を見る。

 アレックス達も「開けてくれ」と言わんばかりに頷く。

 フィリアも頷き。

 バタン!!

 五人は体当たりの様に一気に開けて入り込んだ。



 十の瞳がまず目に飛び込んだそれは――まるで樹氷と呼びにはあまりにも大きすぎる氷。

 それは部屋の中央にある玉座の真上に、吹きすさぶ冷気とは正反対に静かに佇んでいる。

 だが、静かではあるがそれから発せられているオーラは凄まじく、ビリビリと突き刺さる様に肌に伝わる。

 大きさはざっと三メートルはある。

 謁見の間は、アーサラ遺跡や城下町跡、そしてこの城中の部屋とは比べ物にならない程、隅から隅までびっしりと氷が張り巡らされている。

 いや、氷と言うよりまるでクリスタルだろう。邪悪な。

 ここだけを切り取ると、まさに氷の世界と呼ぶに相応しい空間だ。

 魔界からを丸ごと空間転送されたかのように。

 更に玉座には一冊の本らしきものがポツンと置かれている。


 それ――グラキエースは、人が来たことを気配で感じ取ると、目と思しきくぼみに白銀の光が宿る。

 その瞳孔はあまりにも不気味で、その目が合っただけで、まるでメデューサみたいに石ならぬ氷像にされてしまいそうだ。

 ルピアが話していた通り、その姿は――骸骨そのものだ。


「人間……か。久方ぶりに見るな。アイスゴーレムを倒したことで冷気が弱まったことで確信した。ここまで来られて、彼奴を倒したことは誉めてやろう」


 紐綴じの本に書いてあった通り、寒気と重さを兼ね備えた声で口を開く。


「確かに久方ぶり……だよね」


 ルピアの目が、獲物を狙う猛禽類の目つきになる。


「ほう、五年前に無謀にも挑んだ盗賊の娘と男か。今更何をしに来た?」

「今までの清算をしようと思ってね」

「清算……か。そんなちゃちなことで人を増やしたと?」

「まあ、な」


 グラキエースはレナ達に視線を向ける。

 今のルークとルピアは、あの時と同じ様に気丈だが、心の底から来ていた緊張感と秘かに抱いていた恐怖は感じられない。

 やはり二人だけではなく、レナとアレックスとフィリアがいるからでもあるのだろう。


「お前とは初めて会うけどよ、なんか妙に初めてとも思えねえな」


 アレックスは、まるで仲の良いライバルに向けるような不敵な笑みとバトルアックスの刃をグラキエースに向ける。

 レナとフィリアも、天に向けた目標を見る様に厳しい目つきで見上げ、ブロードソードとトライデントを向ける。


「ふ、精霊使いと剣士と賢者か……。二百年前を思い出すな。人の子に助けを請われた冒険者と同じ組み合わせか。皮肉な偶然だな」


 確かにこの組み合わせは、ルークの文献の写しと同じ組み合わせだ。

 武器、盗賊の女というところもだ。


「一つ聞いておきたいことがある」


 フィリアが静かな声で問う。


「何だ?」

「私達がここへ来る途中、吹雪に混ざり声が聴こえた。あれはもしや」

「ほう。なかなか耳の良い賢者だな。そうだ、あれは私だ」


 グラキエースはまるでいたずらっ子の様な顔をする。

 レナ達はびっくりした。まさかそんな声が聴こえていたなんて……。


「私の笑い声は吹雪をより一層強くさせる」


 それを聞いてレナは目を更に見開いて驚く。

 確かにフィリアがあの声を聴いて間もなく、吹雪が強まり自分がはぐれてしまったからだ。

 自分は本当に運が良かった。ルークが来てくれなかったら、今頃凍死していただろう。

 レナの様子を一瞥したグラキエースは、悪戯が成功した子供の様な顔をした後、静寂に包まれた顔になり、


「あの時は、まさかフルートの音色で気力が弱まってしまった事は私の誤算だった。よもや楽器だけにあれほどの力を持っていたとはな……」


 あの時の事を思い出して口惜しそうな顔をして続ける。


「その時は、このまま留まっていても埒が明かないと悟り、氷の世界へ戻り、力を取り戻す事に専念した。次に備えてな。だが、私も予想しなかったことが起きた。私が完全に力を取り戻す前に再び呼ばれたのだ。それが今から五十年前の話だ」


 それがあの紐綴じの本に書かれていたことだ。

 

「呼ばれた時は少々焦りがあったが、呼んだ者の顔を見た時、私は運命を感じた。まさか再び私を呼んだのが、二百年前の大臣の玄孫だったとはな……」


 その高祖父と玄孫の顔を思い出し、少し乾いたような笑みを浮かべる。

 五人は意外にも黙って聞いている。


「その時は、まずはフルートを安置している遺跡を凍らせることにした。何故知っていたかだと? 場所はあの玄孫からフルートのことを聞いていたからな。あの忌々しいフルートさえ無ければ、阻むものは何も無かった。それでも何者かがフルートを手に取る可能性も無くは無い。故に私の忠実な下僕アイスゴーレムに護らせたのだ」


 そうだ。五十年前は冒険者も、フルートを扱う者もいなかった。

 グラキエースは次の瞬間、怒りの顔に変わり、


「そしてあの玄孫は、予想外のことをやった。あの男は秘かに持ち込んでいた封印の楔を私に打ち付けたのだ。奴は怖気づいたのだ、私の力に。打ち付けられた時は、私は完全に力が戻る前故、封印の力に僅かに負けてしまった」


 グラキエースが今度は勝ち誇った顔をして続ける。


「だが、力が満ちればこのような楔など針治療と等しい。このような程度の楔で私を永遠に封じるなど片腹痛い。今の私にはこんなもの針同然だ」


 グラキエースは歓喜の表情で右手を掲げる。

 そこには一メートル程の大きさの純銀で出来た杭があった。遠くて見えにくいが、周りに封印の文字が書かれている。

 それを奴はグシャリと握り潰してしまい、楔は粉々に砕かれた。

 杭だった物はバラバラと、城下町の外壁の様になってしまった。


「もう封印する事は叶わない……か」


 フィリアがその光景を見て、悲し気に目を伏せる。

 だが、すぐさま目を開き、背負っているトライデントを構えた。


「ならばお前を再び氷の世界へ戻してしんぜよう」


 レナ、ルピア、ルーク、アレックスは、フィリアが言い切ったと同時にそれぞれ武器を構えて戦闘態勢に入る。


「ふ、面白い。私に刃を向けるのか。……良いだろう。この手でお前達をこの城に飾る氷像にしてやろう。永遠にな」


 グラキエースは肉が全く無い両手を広げ、ガシャンと音を立てて大理石だった床に下りてきた。いよいよ戦いの火蓋が切って落とされた。


「よっしゃ、まずはアイスゴーレムの時と同じように行くか。サラ、頼むぜ」

「がってんでやんす!」

「そしてディオーネ、お前は守りの力をつけてくれ。ダメージを軽減できるからな」

「はい、かしこまりました!」


 サラの火の息吹を五人に吹きかける。

 そしてディオーネが指から水色の泡を出して、これまた五人に纏わせる。


「有難うございます。では、いざ!」


 レナがまず出会い頭にグラキエースの巨大な左手に一撃を斜めに斬りつける。


「よくも私をあの世へ行かせようとしたわね。これはそのお返しよ!」

「ぐ」


 グラキエースも氷の世界の魔物だからか炎が弱点で、ダメージが結構入った。

 手の甲に三十センチくらいの切り傷が出来る。

 グラキエースは左手を、火を振り払うようにブンブンと振る。


「ほう。小さき娘にしてはなかなかの腕だな。だが……」


 反撃とグラキエースはその左手を平手にし、レナをバチィーンとひっ叩く。


「うっ」

『レナ!』


 レナはアイスゴーレムに続いて吹っ飛び、またもや壁に激突する。

 だが、今回は受け身を取ったため気絶は免れた。


「イタタ……」


 それでも結構なダメージを負ってしまい、背中をさする。


「くそ、こうなったら……」


 ルークはライフルのスコープを股関節に向け、


「お前の動きを大幅に減らしてやるぜ」

「俺も協力するぜ」


 アレックスは奴の右手にバトルアックスの刃を向け、


『行くぞ!』


 同時に声を上げ、攻撃する。

 アレックスが右手の親指と人差し指をザクっと一振りで切断し、ルークは両側の股関節をパン、パンと乾いた音を立てて打ち抜いた。


「うぅ」


 グラキエースはバランスを崩しかけ、二本足で立っていたのがまるで獣のように四つん這いになって、なんとかバランスを保とうとする。


「ぐ……ならば」


 グラキエースの顔に少し怒りが混じり、先程アレックスが斬って親指と人差し指を失った右手を、アレックスとルークに向ける。


『!』

「くらえ!」


 そう叫ぶと、氷の砲丸がガトリングガンの如く降り注がれる。


「イテテテ!!」

「うぅ!!」


 ガードしている顔面以外に集中砲火を浴び、二人は片膝をついた。


「つぅ~!」

「ハア、ハア……」


 これは大分ダメージを受けただろう。

 いや、ディオーネの守りのお陰でこれくらいで済んだ、と言った方が良いか。

 もし、守りが無かったら良くて骨折、悪ければ死んでいたかもしれない。

 二人共肌を晒していない格好だから分からないが、絶対服の中は痣だらけだろう。


「今回復する」


 二人から少し離れた位置にいるフィリアが、二人を回復しようと向かっていると、


「させぬぞ」


 それを阻止しようと、グラキエースがフィリアにまた右手を掲げ、今度は氷の短剣を何本も飛ばしてきた。


「く」


 フィリアは咄嗟にトライデントを、チアバトンの様にぐるぐると回して短剣を次々と弾いていく。

 足元にはどんどん短剣が落ちていく。


「良いよ」


 ルピアがガッツポーズする。

 だが。


「!」


 最後の一本を弾き損ねてしまい、フィリアの左のこめかみを掠る。


「う」

『フィリア』

「大丈夫ですか?」


 四人が一斉にフィリアの元へ駆け寄る。

 特に男二人は痛みに耐えつつも。


『な!!』


 四人が驚く。

 フィリアの左手が真っ赤に染まっている。

 幸い直撃とはいかなかったが、フードと髪が一部切れてしまい、そこから血が垂れている。


「先に回復して下さい」

「そうだ。まずはお前からだ」

「だが……」

「俺達は後で良いから」

「すまない」


 レナ、アレックスとルークに促され、フィリアはやむを得ずまずは自分を回復する事にした。

 その様子を見たグラキエースは不敵な笑みを浮かべる。

  

「こうなったらあたしが相手だ。よくも大切な仲間をいたぶってくれたね」


 ルピアは激怒し、ロングボウの弦を引き絞り、空洞の中央のみ白銀になっている瞳に焦点を合わせる。


「喰らいな!」


 そう言ったルピアは、弦を一気に放つと二本の矢が流星の如く一直線に突っ切り、グラキエースの目に直撃した。

 かなりの距離があるのに見事命中させるとは、流石驚異の命中率を持つだけある。


「ぐ、ぐわああああ!!」


 これまではまだ冷静な声色だった声が、一気に習い始めの人が弾くコントラバスの様な声に変わる。

 両手で目を覆い、「ぐうう」ともがく。


「おのれ!」


 激昂したグラキエースが目から手を離し、左手を掲げるとそこから青白く強烈な光が作られ、


「凍れ!」


 と叫びながら、手の方向にいたルピアに照射される。


「な! こ、これは、し、しまっ……た……」


 まともに浴びたルピアは、瞬く間に凍り付いてしまい、一人目の氷像になってしまった。

 あの文献のように……。


「そ、そんな……今助けます!」


 レナが急いでガン、ガンと氷を剣で削ってゆく。

 だが、氷は相当固く、ほんのわずかしか削れない。


「そこにいるな」


 目が潰れてしまったが音を頼りに探ったグラキエースが、次はレナに左手を掲げる。


「あ、しまった……あ」


 気が付いた時はけるのが遅く、今度はレナが瞬時に凍り付いてしまった。


「これで二人目だ」


 グラキエースが血の涙を流しながらにやける。

 まるでサイコパスのようだ。


「くそ、こうなったらこっちで」


 ルークがショットガンに切り替えて胸に狙いを定めようとする。


「これで」

「無駄だ」

「! げ、マジか……」


 ルークがトリガーを引こうとした瞬間、声を頼りにルークを見つけた奴の手によって三度凍らされる。


「これで三人目」

「くそ、もう俺らだけか……」


 アレックスが初めて焦りの色を浮かべる。

 フィリアがキュアヒールを唱えてアレックスの傷を癒し、小声で話す。


「奴め、音でこちらを察知しているようだ。物音を立てずにいれば気付きにくいだろう」

「そうか。……よし、こうしよう。決定打はまだ無事だよな」


 小声でフィリアに訊く。


「ああ」

「良いか、俺が囮になってコイツを惹きつける。その隙にお前が【紅蓮のフルート】を奏でるんだ」

「……そうだな。あまり囮は気が乗らないがやむを得ない」


 アレックスとフィリアはお互いを見て頷き、音を立てずに別々に分かれる。


「……声が消えたか?」


 グラキエースが見えぬ目で二人の気配を探る。


(だが、まだこの部屋にいる筈だ)


 再び気配を探ろうとすると、


「こっちにいるぜ、グラキエース」


 アレックスの声がグラキエースの右から聴こえてきた。


「そこにいるな。声からして精霊使いか」


 グラキエースが右を向く。

 

「当たり。今聞いたばかりで分かるなんて、結構記憶力が良いもんだな」

「ふふふ、声を聴かずともお前は精霊の気配で凡その場所が分かるからな」

「へえ。察知も良いたあ、向こうでもかなりの実力者みてえだな」

「私をそこらの低俗な魔物と一緒にするなど笑止。魔界では王の右腕として君臨しているのだ」


 アレックスは斧を構えつつも、なんとかこっちに気を惹かせている。


(王の右腕……ね。なんか二百年前の大臣と似ているぜ)


 アレックスは心の底で妙な関心を見せる。


「もう最後の戯れは終わったか? ならばすぐにそこの三人と同じ作品にしてやろう」

「それはどうだかな」


 アレックスが向かいを目で合図を送る。

 そこにはフィリアが【紅蓮のフルート】を構える寸前でスタンバイしていた。

 アレックスの目の合図にフィリアが頷き、


「凍るのだ!」


 グラキエースがアレックスに右手を掲げて青白い光を発した瞬間……。


 ピィーー。

 金属質の音色が部屋中を包むように響く。

 その音色は何処となく温かみがある。  

 本来音色は無色を連想するが、このフルートから発せされる音色は、朱色や橙色を連想する。

 音色が響くと少しずつ謁見の間が仄かな赤い光に包まれてゆく。

 まるでストーブの熱気の様な……。

 それを吹くフィリアは、その音色と同じく静かな表情で吹き続ける。

 その調べ――小さくとも人に温もりを与えてくれる暖炉の炎の様に似た調べ也。


「ぐ……う、う……」


 音を聴いたグラキエースが苦しみだして、右手を閉じて頭を抱える。

 まるで片頭痛を患った様に、グラキエースは前のめりになる。


「ぐ、ぐぐぐぐ」


 水色一色のグラキエースの骨の色が、ハンカチが色水で湿るように足から徐々に赤く染まってゆく。


「おのれ……私としたことがぬかった……。先に賢者の方から始末するべきだった……」


 左手で頭を抱えたまま、よろよろと右手を前に出して、先にフィリアを弱りながらも凍らせようとする。


「予定変更だ。お前から始末しよう」

「それはどうだかな」


 先程より弱い青白い光を発しようとすると、


「へへへ、かかったな」

「な、何? こ、この気は……精霊か!」


 そう。更に惹きつけをしていたのだ。

 フィリアがフルートを吹いてそこに気を取られている隙に、アレックスが精霊を五人とも呼び出して元素の力を使い、それで五芒星型に縛り付けていたのだ。


「ううう……」


 身動きが取れない。

 

「さあ、どうだ? 五大元素の力を司る精霊の力は?」

「ぐぬぬ……おのれ……」


 グラキエースは必死にもがいて抵抗するが、精霊の力が凄まじくなかなか破れない。


「そんじゃあ、行くぜ」

「覚悟!」


 アレックスとフィリアが、左右から一番の急所――頭頂部を一気に突き刺す。


「ぐ、ぐおおおお!」


 トライデントとバトルアックスが深く突きささって頭部にヒビが入る。

 サラの力がまだ効いているおかげで大きくダメージを与えられた。


「もういっちょ」


 アレックスとフィリアがもう一回振り上げて突き刺す。


「おおおお!!」


 今度はさらに深い亀裂が走り、目や歯にもヒビが走る。

 グラキエースは痛みのあまり頭をブンブンと振って暴れる。

 だが、そうするとヒビは更に走り、深くなってゆく。

 ヒビが深くなるにつれ、全身がみるみる赤くなっていく。

 徐々にヒビが体にも及び、遂には真っ二つになっていった。

 

「うぅ……、よ、よもや……このような者に……」


 その言葉を最後に、グラキエースの白銀の瞳から光が失われ、頭がゴロンと首から取れ、ガラガラと灰燼に帰していった。


「ハア……ハア……」

「終わった……みたいだな」

「ああ……」


 終わった実感がまだ湧かないアレックスとフィリアは、落ち着こうと座り込んだ。


「倒せましたのう」


 ポルカが安堵の息を漏らす。


「皆の力で」

「平和になったんだなー」


 シルファとノーラがお互いでハイタッチして戻って来た。


「もうすぐレナさん達の氷も融けますわ」

「これで……終わったでやんすーー」


 ディオーネとサラがアレックスに喜びを伝える。


「そ、そうか……俺ら……やったんだな……」

「ああ。……あ!」


 フィリアが上を見ると、グラキエースを倒したことで氷がみるみると急速に融けていく

 氷と言う破片が割れて別世界に来たように、本来の姿を取り戻していく。

 シュゥゥゥ……。

 三人に纏わりついていた氷も融ける。


「レナ、ルーク、ルピア!」


 アレックスが喜ぶ。まるで再会のように。


「あ……私達……」

「戻った……みたいだな」

「アレックス……フィリア……やったんだね」


 三人はゆっくりとアレックスとフィリアの元へ歩む。


「おう、大丈夫か?」


 アレックスが心配そうに訊く。


「うん。ちゃんと動けるよ」


 ルピアが腕をブンブンと動かす。


「あ、そう言えば……氷漬けになっていたのに何処もしもやけになっていませんね」

「あ、本当だ」

「ディオーネの守りのお陰だよ」


 アレックスがディオーネに代わって言う。隣にいるディオーネが誇らしそうな顔をする。


「そうでしたか。本当に有難う」


 レナが二人に礼を言う。

 アレックスとディオーネは右手の親指を立てた。

 そして、全てが終わった謁見の間で男三人は肩を並べ、女二人は抱き合って喜び合った。

 本来の色が戻った王国の中枢で。

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