第78話「配信とメッセージ」

 風呂からあがった俺は、部屋で一人PCを眺める。

 画面に流れているのは、今日もVtuber桜きらりちゃんの生配信。


 今日は雑談配信なのだが、楽しそうにリスナーと盛り上がっているきらりちゃんのトークは今日も面白い。

 しかし、このきらりちゃんと俺は今日も一緒にいたんだよなと思うだけで、やっぱり不思議な感じがしてくる。

 今も雑談するだけで、三万人ものリスナーを集めている人気Vtuberとお茶をしていたのだ。

 それが当たり前になる日なんて、きっとこの先も訪れることはないだろう。


 オマケにきらりちゃんの中の人――星野さんは、この町で四大美女と呼ばれるとんでもない美少女。

 そのことを知っているのは、恐らくこの三万人の中でも俺ぐらいなものだろう――。


 最近身近に感じていたけれど、もしかしなくても星野さんって凄い人なんだよなと改めて分からされるのであった。


 ピコンッ。


 すると、スマホの通知音が鳴る。

 それはメッセージアプリの通知音だったため、俺は誰からだろうと思いすぐにスマホを確認する。


『配信、観てくれてますか?』


 それはなんと、星野さんからのメッセージだった。

 たった今配信中の星野さんからのメッセージに、俺は訳が分からなくなってしまう。


 ――え、今配信中で……えっ!?


 PCからは、変わらず配信上で雑談をするきらりちゃんの声が聞こえてくる。

 しかし、俺のスマホには今配信中の星野さんからのメッセージという、やっぱりよく分からないことになっていた――。


 とりあえず返信をした方が良いかと思い、俺は慌てて返信する。


『もちろん今日も観てるよ! 配信頑張ってね』


 よし、送信――!

 すると、配信の向こうでピコンという通知音が聞こえてくる。

 それはもしかしなくても、俺が今送ったメッセージの通知音だろう――。


 そのことが、本当にこの桜きらりちゃんと自分が繋がっているのだという実感に繋がり、それは何だか三万人の前で秘密のやり取りをしているような感じでドキドキしてきてしまう――。


「え? 通知? ああ、うん。届いてるね!」


 先程の通知音に反応したコメントに対して、誰からかは明言こそしないけれど、どこか嬉しそうにそのコメントの質問に答えるきらりちゃん。

 その声に俺は、更にドキドキを加速させていく――。


 そして、再び星野さんから送られてくるメッセージ。


『えへへ、嬉しいです! 最後までちゃんと観てってくださいね!』


 ――あぁ、これはもう、不味いな……。


 俺はこの瞬間、初めて星野さんのことを意識してしまったことを自覚する――。


 推しは推しだし、星野さんは楓花と同じ四大美女。

 だから俺は、これまで気にしないように振舞ってきた。


 けれど、もうそれも限界かもしれない――。

 これが恋心なのかどうかは正直分からないし、そもそも星野さんのような美少女と自分とじゃ釣り合うはずもない。

 ……けれど、この胸のドキドキだけは確かなものだった。


 仮にこれが恋心とするならば、それは叶うはずのない恋に対する感情――。

 けれど俺は、こうして自分にだけメッセージを送ってくれる星野さんに対して、これまでにない感情を抱いてしまっていることを自覚してしまったのであった。



 ◇



 次の日。

 俺は楓花と共に、学校へ向かうべく玄関を出る。


「あ、おはようございます!」


 すると家の前には、今日も俺達のことを出待ちしてくれている星野さんの姿があった。

 キレイなサラサラとした金髪が朝のそよ風に靡き、朝日に照らされてキラキラと輝いて見えた。


 その姿は紛れもなくこの町の四大美女と呼ばれるのに相応しく、まるで二次元の中から出てきたような特別な美少女――。


「あ、ああ、おはよう星野さん」

「えへへ、さっ! 途中まで一緒に行きましょう!」


 俺の返事に、嬉しそうに微笑んでくれる。

 その微笑みに、俺の心は洗われるようだった――。


 星野さんはきっと、本当に聖女様なのではないだろうかと思いつつ、俺はそんな星野さんと一緒に今日も学校へと向かう。


 しかし、同じく隣に並ぶ楓花はやっぱりどこか不満そうで、少し膨れているのであった。

 昨日から、どうにもこんな調子の楓花のことが、俺もさすがに気になってしまう。


「……どうした楓花、最近ずっと機嫌悪くないか?」

「そんなことないよ」

「いや、あるだろ」

「ないってば」


 ぷいっとそっぽ向く楓花。

 そんな、言動と行動が全く合っていない楓花のことが、やっぱり少し気がかりだった。


「あ、良太さん見て下さい! 大きな鯉です!」

「ああ、本当だね。大きいね」


 すると、話題を変えるようにそう言って川を指さす星野さん。

 見るとそこには、たしかに大きい鯉が泳いでいるというか、この川の主なんじゃないかってぐらい本当にでかい鯉がいた。

 でもまぁ、だからと言ってそれがどうしたというわけでもないのだが、こうして一緒にその鯉を眺めているだけでも楽しくなってしまう。


「……何よ、鯉ぐらいで……って、本当にでかっ!? なにあれ、バケモノ!?」


 すると、不機嫌そうにしていた楓花もその鯉を見て驚いていた。

 そんな楓花に、星野さんは楽しそうに「でしょ?」と得意げに声をかけると、二人で吹き出すように笑い合っていた。


 そんなわけで、どうやら楓花も鯉のおかげで機嫌を直してくれたみたいだし、星野さんは今日も朝から可愛いということで、それからは三人仲良く恋バナもとい鯉バナに花を咲かせながら、途中の橋まで一緒に向かうのであった。


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