第74話「席替え?」
「あ、良太さん!」
カフェに入ると、先に待っていた星野さんが嬉しそうに手を振りながら出迎えてくれる。
その表情は本当に嬉しそうで、今朝といい何だか今日の星野さんはやっぱりどこか普段と違っていた。
「……わたし達もいるんだけどなぁ」
「もちろん楓花さん、それから柊さんのことも待ってましたよ」
「どうだか」
俺にだけ反応したことが不満なのか、つんけんとした受け答えで席に座る楓花。
全くこいつはと思いつつ、俺も何となくみんなの定位置となっている席へと向かう。
しかし、そんな俺の腕を星野さんにバシッと掴まれる。
「あ、良太さんは今日こっちに座ってくださいね!」
そう言って星野さんは、自分の隣の席に俺を座るように促してくるのであった。
まぁ何となく定位置になっていただけで、元々誰がどこに座るかは決まっていないし、そう申し出てくれるならと俺は言われたまま隣の席へ腰掛ける。
そうなると、普段はこの席に柊さんが座っていたため、俺と柊さんの席が入れ替わる形となる。
「先手を取られちゃいましたね」
そんな謎の言葉を口にしながらも、柊さんはそのまま俺がいつも座ってる席に座ってくれた。
「ちょっと! なんで!」
しかし楓花は納得いかないのか、この状況に立ち上がって文句を口にする。
それに対して星野さんは、どこか勝ち誇ったような表情で受け答えをする。
「別に、席は決まってないですよ?」
「そ、それはそうだけど、何となく決まってたじゃん!」
「ええ、何となくはそうですね。でも、決まってませんよね?」
そんな星野さんの言葉に、言い返せなくなった楓花はぐぬぬと引き下がるしかない様子だった。
そして代わりに矛先は俺へと向き、頬杖をつきながら物凄く不満そうな表情でこちらを見てくる。
――いや、もう勝手にしてくれ……。
たかが座る位置でそんなに揉めるなよと、俺は呆れるしかなかった。
そんなわけで、如月さんは遠い分まだ到着していないが、お先にいつものカフェタイムを楽しむこととなった。
しかし今更だが、どうして自分がここにいるのか良く分からなくなってくる。
元々は星野さんの人間リハビリのためだったのだが、その後のVtuberの集まりは上手くいったようだし、今だって楓花と普通に言い合いだって出来るぐらい打ち解けているのだ。
であれば、もうここへ集まる目的は達せられていると言えるだろう。
じゃあ何のためにここへ集まっているのかといえば、それは同じ境遇の四大美女。
学校が別々なこともあるから、こうして定期的にここへ集まって交流するという流れが出来ているからだ。
でも俺は四大美女ではないどころか、この場で唯一の男だ。
そのせいで、周囲からはエンペラーだのなんだの、不名誉な呼び方――でもないのかもしれないが、まぁ変な呼ばれ方をして困っているのだ。
だから俺は、ここからフェードアウトすることを内心望んではいるのだが、それを少しでも表に出すと、四人は絶対にそれを受け入れようとはしないのであった。
そんなわけで、四大美女プラス一般男子一人。
こうして今日もカフェに集まっては何をするでもなく、雑談に花を咲かせているのであった。
「遅くなりました」
するとそこへ、遅れて如月さんもやってきた。
毎回学校が離れているのに、ちゃんとこうして参加してくれているのは素直に有難いことだと思う。
でもそれだけ、この場は如月さんにとっても意味のある集まりということだろう。
こうして遅れてやってきた如月さんは、まず初めに俺と柊さんの席が入れ替わっていることに気が付いたようだ。
そして、俺の隣でいつにも増して楽しそうにしている星野さんの姿を見て、無表情ながらも何かを察したように思えた。
一体何を察したのだろうと思っていると、如月さんはそのままいつも通り隣のテーブルを寄せると、俺の元いた席で、今は柊さんの座る席の隣……ではなく、俺の隣に座ってくるのであった。
ズズズ――。
そして如月さんは、少しだけ俺の方へ席を近付けると、そのまま何食わぬ顔で隣に座ってくるのであった。
「いやいやいや、近いでしょ」
「そう?」
すぐにツッコミを入れる楓花に対して、相変わらずの無表情で素知らぬ顔をする如月さん。
そして如月さんは、まるでそんな楓花の言葉に歯向かうかのように、ズズズッという音と共に更に近付いてくるのであった。
こうして席を近付けてくるラブコメ小説を前に読んだなぁと、俺はそんなまるでラブコメチックな状況にドキドキしてしまう。
しかも相手は、四大美女と呼ばれる絶世の美少女なのだ。
これだけでもう、一般ピープルである俺の心は簡単に浮かれてしまうのは仕方ないだろう。
――まぁそれを言ったら、この場自体が浮かれずにはいられないんだけど。
そう思いみんなに目を向けると、そこには不満そうに膨れる楓花に、少し驚いたような表情を浮かべる柊さん。
そして隣の星野さんは、まるで如月さんに張り合うように、同じくズズズッと席を近付けてくるのであった。
その結果、俺は両サイドをほぼピッタリと四大美女に挟まれる形となり、さっきの帰り道といい、何だか今日はとにかく挟まれる一日なのであった。
しかしこのままでは、俺が俺でいられなくなる危険性しかないため、両サイドの二人の肩を掴んで、そっと優しく押す。
「――ごめん、さすがに二人ともちょっと近すぎて狭いです」
その言葉に、二人とも慌てて距離を取る。
星野さんだけでなく如月さんまでも、顔を赤らめながら今更になって恥ずかしがっていた。
「もう、みんなして何なのよ……」
そしてその姿に、楓花はどこか訝しむようにそう小さく呟くのであった――。
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