第73話「隣」

 下校時間になった。

 久々の学校は中々しんどいものがあったが、なんとか無事に一日やり遂げることができた。


 今日もうちの教室まで迎えにきた楓花達と共に、校門を抜ける。


「あ、そうだ。如月さんからのお誘いだけど、柊さんはどうする?」

「ええ、もちろんわたしも行かせていただきますよ」


 そう言って柊さんは、ニッコリと微笑む。

 ちなみに帰りも柊さんは、楓花ではなく俺の隣を歩いている。

 四大美女と呼ばれる二人に挟まれて歩くというのは、何と言うか周囲の目が気になってしまうのだが、まぁそんなの気にしても今更だよなと考えないようにしている。


 ちなみに如月さんからのお誘いとは、文化祭の話だ。

 どうやら如月さんの高校では、この時期に文化祭が開かれるらしい。


 うちの高校は十月だったと思うから、うちの高校に比べると大分早めの文化祭。

 どうやら生徒からの招待チケットがあれば入場できるとのことで、俺と楓花、それから柊さんと星野さんの四人にチケットをくれるという話だった。


 俺と楓花は、もちろんすぐにオッケーした。

 そして星野さんも、今朝楽しみにしていると言っていたから残りは柊さんだけだったのだが、どうやらみんな集合出来るみたいでよかった。


 しかし、四大美女が全員揃って、他校の文化祭へ行くというのはどうなのだろうという気しかしないのだが、それでも彼女達自身が楽しみにしているのならば止める理由にはならなかった。


 ――まぁ何かあれば、俺が守らないとだよな。


 だからみんなには、文化祭を目一杯楽しんで欲しいと思っている。

 彼女達が普通の女子高生として、楽しんでくれるのが俺は嬉しいのだ。


「……ねぇ、なんで麗華ちゃんは良太くんの隣なの?」


 そんなことを考えていると、隣で楓花が少し不満そうに言葉を漏らす。

 どうやら楓花は、柊さんが俺の隣を歩いているのが気になっているようだ。


「まぁ、良いじゃないですか」

「良いって……良くないんだけどな……」

「あら、どうしてです?」

「ど、どうしてって、そりゃあ……」

「そりゃあ?」

「――れ、麗華ちゃんこそ! ど、どうして良太くんの隣なのよ!」


 恥ずかしがって誤魔化すように、質問を質問で返す楓花。



「それはもちろん、わたしも良太さんの隣が良いからです」


 しかし柊さんは、そんな楓花の言葉に対してはっきりとそう告げたのであった。

 その言葉に、俺も楓花もビックリしてしまう。

 けれど柊さんは、ニッコリと微笑んだまま一切動じる素振りは見せなかった。


「そ、それってどういう……」

「言葉どおりの意味ですよ?」


 俺の言葉にも、ニッコリと微笑みながらそう返事をするだけの柊さん。

 つまり柊さんは、俺の隣が良いから隣を歩いているだけだと……。


 ――そ、それってつまり、お、俺に気がある、とか?


 そんな有り得ない考えが過ったその時だった――。



「ていっ」



 その言葉と共に、俺と柊さんの間にチョップを入れてくる楓花。

 そして、俺と柊さんの顔をジト目で交互に見ながら、強引に間に手を入れて割り込んでくる。


「隣はダメ!」

「どうしてです?」

「それは、不健全だからです!」

「不健全……と、申しますと?」

「男女が隣り合わせで歩いているのは、不健全なの!」


 ここは譲らない楓花。

 しかしまぁ、今回は楓花の言うことももっともな気がした。


 楓花は妹と分かっているからいいが、柊さんと俺とでは要らぬ誤解を招いてしまうかもしれないのだ。

 それはもしかしなくても、きっと柊さんに迷惑を与えてしまうだろう。


「構いませんよ?」

「え?」

「わたしは変な誤解されても構いません。それよりも、わたしはもっと良太さんと仲を深めたいと思っていますので」


 しかし柊さんは、楓花の言葉にそう返事をしながら、楓花の元いた側へ回ってまた隣に並んでくるのであった。

 その微笑むその表情はとても楽しそうで、こんな風に楽しそうに笑っている柊さんはあの日のBBQ以外では初めてだった。


 その言葉に、楓花はぐぬぬといううめき声を漏らす。

 しかし、そう言われてしまってはもう言い返せないのか、それ以上この件については何も言わなかった。


 だが、その代わりか何か知らないが、楓花は俺にくっつくように近付いてくる。

 すると柊さんも、楓花を真似て俺にくっついてくる。


 その結果、俺は四大美女二人に両サイドで寄り添われる形となってしまう。


 ――これじゃ本当に、エンペラーじゃないか……。


 困った俺は、両手で二人の肩を掴み引き離す。


「二人とも、ちょっと近すぎ」

「いいじゃん別に」

「そうですよ、いいじゃんいいじゃん!」

「……柊さん、キャラ崩壊してますよ」


 俺のツッコミに、三人で吹き出すように笑い合う。

 自分でもおかしかったのだろう、お腹に手を当てながら楽しそうに笑う柊さん。


 まぁ柊さんが、こんな風に楽しそうに笑ってくれるのなら良いかと思いつつ、俺達は今日も一緒にいつものカフェへと向かうのであった。

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