第72話「相手は選ぶ」
昼休み。
今日も今日とて、俺達のクラスへやって来た楓花と柊さん。
そんな四大美女二人の姿は、GW明けなこともありいつもより注目を浴びる。
しかし二人は、そんな周囲の視線など全く気にする素振りも見せず、当たり前のように教室へ入ってくる。
そして、以前と変わらない様子で、今日も一緒に弁当を食べているのであった。
「何よ、ジロジロ見て」
「見てないっての」
別に今ならもう、二人で一緒に弁当を食べても良いんじゃないだろうかと思い見ていると、俺の視線に気付いた楓花が箸を咥えながら怪訝そうな表情を浮かべる。
まぁちょっと見ていたのはそのとおりなのだが、そんな表情される筋合いもない俺は、相手にせず自分の弁当をさっさと食べることにした。
「うそ、絶対見てたし。なに? そんなにわたしのこと見たいの?」
しかし、楓花は引かない。
何故かまんざらでもない表情を浮かべる楓花は、どうしても俺が見ていたということを認めさせようとしてくる。
そしてそんな楓花の表情を、一緒に弁当を食べる晋平は顔を真っ赤にしながら見つめているのだが、友達のそんな分かりやすい反応は見て見ぬフリをしておくことにした。
「じゃあ百歩譲って、見てたら何なんだよ」
「別にぃ? ただ見たかったんだなぁーって、ふふん」
これ以上ないほどご満悦な表情で勝ち誇る楓花。
そんな楓花の微笑み一つで、教室内からは「おぉ……」という声が上がると共に、視線を一点に集めてしまうのであった。
そして、そんな俺達兄妹の下らないやり取りを面白そうに微笑みながら見ている柊さんもまた、同じように周囲からの視線を集めているのであった。
こうしてただ微笑むだけで、周囲の視線を集めてしまう四大美女。
そんな彼女達の恐ろしさを、再認識させられるのであった。
「マジかよ、柊さんだよね? 風見と仲いいんだね?」
そんなこんなで弁当を食べていると、突然教室へやってきた人物に話しかけられる柊さん。
振り向くとそこには、一年の時に同じクラスだった服部の姿があった。
服部と言えばバスケ部に所属しており、一年の時から女子によくモテていた。
たしかに俺から見てもイケメンで、まぁモテるのも頷ける感じではある。
――それでも服部よ、声をかける相手はそういうレベルじゃないと思うぞ……。
かつてのクラスメイトという立ち位置を利用して、柊さんに声をかける服部。
そんな服部に若干苛立ちつつも、憐れみの感情の方が大きかった。
「ええ、良太さんにはいつも良くして頂いてます」
「良太さん……? そ、そうか! それじゃあやっぱり仲がいいんだ? いいなぁ風見」
柊さんの発した俺の呼び方に、一瞬怪訝そうな表情を浮かべる服部。
しかし、すぐに気を取り直した服部は、馴れ馴れしく俺の肩に手を回すと俺達の会話に入ってくる。
別に一年の時は普通に仲が良かったし、あの頃であれば対して気にはならなかっただろうが、今回のこれは目的がはっきりとしている分、俺としてはちょっと――いや、まぁまぁ、そこそこに、結構不満だった。
要は俺はただの踏み台で、服部の目的は柊さんとお近づきになりたいだけなのがハッキリしているからだ。
「柊さんは、いつから風見と仲良くなったの?」
「えーっと、一月ちょっと前からでしょうか」
「へぇー、そうなんだ。じゃあ入学後すぐなんだね! いいなぁ風見、こんな美人と仲良くなってよぉ!」
流石のコミュ力とでも言うべきだろうか、自然と会話に溶け込んでくる服部。
しかし、そんな服部に対して楓花は露骨に不愉快そうな表情を浮かべているのが分かった。
「てかさ、今度みんなで遊び行こうよ! なぁ風見、妹さんも連れて駅前でも行こうぜ!」
そして、既に打ち解けたと思ったのであろう服部は、早速みんなで遊びに行こうと提案してきた。
当然俺は、こんな下心が分かり切った誘いに対して首を縦には振りたくなかった。
しかも服部のやつ、あわよくば妹の楓花にまでちょっかいを出そうとしているのもバレバレで、尚更たちが悪い。
「ごめんなさい、わたしは遠慮させて頂きますね」
「わたしもパスー」
すると、どう断ったものかと悩んでいる俺より先に、柊さんと楓花は心底興味無さそうに、服部の誘いを断る。
そんな二人の分かりやすすぎる態度に、露骨に困った表情を浮かべる服部。
「え、いや、風見はいいよな?」
「んー、いや。二人が乗り気じゃないなら駄目だろ」
「そ、そんな……」
自分に相当な自信があったのだろう。
絶対に上手く行くとでも思っていたのか、まさか断られるだなんて思っていなかった様子で慌てている。
その様はまるで、女にフラれた時の男のように見えなくも……いや、これはもう実質フラれたようなものか。
「良太くんとなら、別に出かけるけどね」
「ええ、それならわたしもご一緒します」
そして、二人からのあまりにも分かりやすい追い打ちにより、完全に邪魔者扱いされた服部。
完全にノーを突き付けられた服部は、そのまま罰が悪そうな苦笑いを浮かべながら教室から去って行った。
「……なにあれ、いきなり来て馴れ馴れしい」
去っていく服部の後ろ姿に楓花がべーっと悪態をつくと、そんな楓花を見て面白そうに微笑む柊さん。
どうやら、やはりそんじょそこいらのイケメン程度では、この二人に付け入ることなど全くの不可能なのであった。
「……俺はずっと蚊帳の外かよ」
そして、一緒にいたけれどずっと蚊帳の外だった晋平が不満そうに呟く。
それを受けて柊さんが、晋平なら大丈夫ですよとフォローすると、一気に元気になった晋平がみんなの笑いをかっさらう。
そんなおどける晋平のおかげで、それからは気を取り直して楽しく昼休みを過ごすことが出来たのであった。
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