第71話「大和撫子と委員長」
星野さんとの件が不満なのか、何故だかずっとご機嫌斜めな楓花と共に歩いていると、丁度駅前で柊さんと鉢合わせた。
「あ、おはようございます、良太さん、楓花さん」
「ああ、おはよう柊さん」
「おはよう麗華ちゃん」
俺と楓花が返事をすると、ふんわりと微笑んで応えてくれる柊さんは。
あの日ぶりに見るその姿は、やっぱり大和撫子そのものというか、俺は思わずその美しい姿に見惚れてしまう。
そんな柊さんだが、気のせいだろうか。
GWに入る前と今とで、どこか印象が違って感じられた。
上手く言葉に出来ないのだが、何て言うか前よりも身近に感じられるような感じというか……。
まぁそれ以上に、もっと大きな変化があるのだけれど――。
「あ、良太さん。肩に糸くずがついてますよ?」
「え? あ、ああ、本当に?」
「ええ、取ってさしあげますね」
そう言って柊さんは、「はい、取れましたよ」と糸くずを摘まんで微笑む。
そう、なんと今日の柊さんは、俺の隣に並んで歩いているのであった――。
普段は必ず楓花の隣を歩いていたというのに、こんな風に隣を歩かれるのは実は初めてのため、俺はそれだけでドキドキと緊張してしまう。
もう一緒にBBQをした仲なのだから、本人は俺のことを受け入れてくれている表れなのだろう。
しかし、やはり柊さんも四大美女の一人。
こうして近くに感じられるだけで、俺はどうしても舞い上がってしまうのであった……。
「あ、ありがとう……」
「ふふ、どういたしまして」
そして俺がお礼を告げれば、また嬉しそうに微笑みかけてくる柊さん。
――なんだこれ……ちょっとヤバすぎないか……。
入学式が行われたあの日、たまたま廊下で見かけた見知らぬ美少女。
そんな彼女が、今では俺のすぐ隣で、こうして嬉しそうに微笑みかけてくれているのだ。
それはやっぱり、これまでにはなかった変化――。
今も柊さんの微笑みに、すれ違う人達は目を奪われているのが分かる。
それ程までに、柊さんもまた特別な存在なのだということを分からされる――。
「そうだ。この間は、ありがとうございました」
「あ、いや、こちらこそ楽しかったよ」
「ふふ、ならよかったです。またみなさんで集まりたいですね」
「いいね! やろう!」
柊さんの言葉に、食い気味で賛成する楓花。
こんな風に、楓花が外に出たがるのは良い傾向と言えるだろう。
それに、もう俺抜きでも彼女達は仲良く出来るだろうし、そう思えることが素直に嬉しかった。
「いいじゃん。もうみんなも仲良くなれただろうから、次は女子同士水入らずで楽しんでおいでよ」
「良太さん、それでは駄目ですよ?」
「駄目?」
「ええ、駄目です。だって――」
「だ、だって?」
「良太さんも一緒だから、楽しいんです」
そう言って、少し頬を赤らめながらふんわりと微笑む柊さん。
そんな初めて見る柊さんの表情に、気が付けば俺は見惚れてしまっているのであった――。
◇
「今朝も四大美女連れて、重役出勤かぁ? エンペラーさん」
「ちげーよ、あとその呼び方止めろっての」
「けっ! 羨ましい!」
教室へ入るなり、晋平が嫌みったらしく話しかけてきた。
まぁ半分は冗談だと分かるから、俺も軽くあしらっておくのだが、もう半分はガチな気がするから早々にこの話題は終わらせておくに限る。
「それで、GWは何してたんだ?」
「あぁ、別になんもしてないよ」
「ってことは、大天使様とずっと一つ屋根の下か!?」
「言い方が悪い」
一つ屋根の下って、そりゃそうだろう。
だって俺と楓花は、正真正銘の兄妹なんだから。
しかし物は言いようで、そんな晋平の声が教室中に響き渡ると、一斉に男子達の敵意の籠った視線がこちらへ向けられる。
「ちょっと男子ぃ! GW明けから、風見くんに寄ってたかって絡むんじゃないよ! あ、おはよう風見くん」
「ああ、おはよう石川さん」
謎の視線攻撃に困っていると、クラスの委員長である石川さんが割って入って来てくれた。
そのおかげで、俺に集中していた視線は興味を失ったように散っていく。
「相変わらず、大変そうね」
「あはは、まぁね。なんだか、石川さんにはちょいちょい助けられてばっかりな気がするね」
「い、いいのよ! だ、男子達が下らないことしてるだけなんだしっ!」
「ありがとね。俺も石川さんの力になれることがあれば何でもするから、その時は声かけてよね」
そう俺が何気なしに感謝を告げると、何故か石川さんの動きがピタリと止まった。
「い、石川さん?」
「今、何でもって言いました?」
「え? いや、まぁ実際には出来ることと出来ないことはあると思うけどっていうか……」
「じゃ、じゃあさ……相談したいことがあるので、連絡先を交換してくださいっ!」
そして意を決したように、自分のスマホを差し出してくる石川さん。
断る理由もないし、全然普通に教えるんだけどなと思いつつ、そんなどこかぎこちない石川さんに連絡先を教える
元々断るあれもないのだが、そこまでされては連絡先を交換しないわけにもいかないため、お互いの連絡先を交換した。
「じゃ、じゃあ詳しくはメッセージで! そ、それじゃあ!」
俺の連絡先が確かに登録されていることを確認した石川さんは、それだけ告げると顔を赤くしながら去って行ってしまった。
「……何だったんだ、あれ」
「良太、お前って奴は……」
「ん? なんだよ?」
「いや、いい。お前はもうそれでいいよ」
「それでいいってなんだよ」
そして、今のやり取りの一部始終を目の前で見ていた晋平には、何故か呆れられてしまうのであった。
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