第2話「始業式」

 たしかに妹の楓花は、兄の俺から見ても可愛い。

 というか、客観的に見てめちゃくちゃ可愛い部類に入るだろう。


 しかしそれでも、俺からしたらやっぱり妹は妹なのである。

 どれだけ可愛かろうと、小さい頃から一つ屋根の下で一緒に暮らしている家族に対して、特別な感情なんて抱くはずもないのだ。


 だから俺は、その四大美女が二人も入学してきた事に少しワクワクしていたのだが、その内の一人がまさかの自分の妹だと知り、一気に気持ちが萎えてしまうのであった。


 しかし反対に、その四大美女の内の一人がまさかの俺の妹だと知った晋平はというと、目を丸くして驚いたまま固まってしまっていた。


「もしもし? 晋平さん?」

「あ、あぁ、悪い。ちょっと驚いて固まってたわ――。そう言えばお前、妹がいるって言ってたもんな」

「うん、でもまぁ、先に言っておくけどうちの妹だけはやめておけ。あれは、そこいらの人間で相手が出来る存在じゃない」

「なんだそれ? あっ! ま、まさか本当に天使なのかっ!?」

「そんなわけあるかっての」


 仮に妹が本当に天使ならば、俺もわざわざこんな事は言わないだろう。

 まぁここでその理由を話すのは楓花にも悪いから今は黙っておくが、とにかくうちの妹に過度な期待をするのだけはやめた方が良いのだ。

 だから俺は、楓花に対して変な気を抱く前に、大切な親友にはそうはっきりと伝えておくのであった。



 ◇



 新しい教室での、初めてのホームルームが行われる。

 そして、新しい担任とクラスメイトとの顔合わせを早々に済ませると、始業式のため体育館へと集められた俺達は、朝から校長先生の長話を延々と聞かされる。


 それから、ようやく校長先生の長話が終わると、次は新入生代表の挨拶が行われる。

 校長先生の話には全く興味はなかったのだが、お次の新入生には俺だけでなくみんな興味があるようで、自然と檀上へと注目が集まる。

 そして俺は、新入生代表としてゆっくりと檀上に上がるその人を見て驚いた。

 何故なら、その檀上へ上がったその新入生とは、なんと今朝見かけたあの美少女だったのだ――。


 改めて見ても、やっぱり超が付くほどの美人だった。

 それは俺に限らず、この場にいる全員が驚くように、そんな彼女の姿に釘付けになってしまっていた。


「新入生代表、柊麗華です。この度は―――」


 おっとりとした綺麗な声で、しっかりと新入生代表の挨拶を務める柊麗華。

 その堂々とした立ち振る舞いも相まって、ここに集まっている全員の視線が檀上へと引き寄せられる。

 おかげでこの退屈な始業式のはずが、ずっと話を聞いていたくなる程、本当に素晴らしい代表挨拶を聞く事が出来たのであった。


 そんな『北中の大和撫子』こと柊麗華の挨拶が華麗に終わると、あとは卒なく進行した始業式も終了となった。


 無事に始業式が終われば、あとはうちの学校では一年生から順に教室へと戻っていくという慣わしになっている。

 上級生の席の間に開けられた通路を新入生が通っていくのだが、俺はそんな今日から出来た後輩達の去り行く姿を眺めていた。

 真新しい制服に身を包み、どこか緊張したような表情を浮かべる新一年生達の事を、初々しくてちょっと可愛いなと思いながら。


 すると、その一年生の中に一人だけ、明らかに他の生徒とは異なる存在がいる事に気が付く――。


 それは、よく見なくてもなんて事はない、自分の妹だった。

 あの柊麗華と同じく、この町で四大美女と呼ばれる楓花の姿がそこにはあった――。


 茶色がかった、ふわふわとしたミディアムヘアーに、白く透き通った肌。

 目鼻立ちはくっきりとしており、特徴的なその大きな瞳は少し青みがかっている。

 そんな、どこか日本人離れしたような見た目をしている楓花は、確かにこうしてみんなに紛れてただ歩いているだけでも、嫌でも目を惹くような美少女だった。


 それこそ、あの柊麗華にすら負けていないと思える程に――。


 すると、そんな楓花の存在に気が付いた周りの人達がざわつき出す。


『うわ! 何あの子、めちゃくちゃ可愛くない?』

『え、モデルかなんかだろ?』

『いや、あれが有名な西中の大天使様だよ』

『マジかよ……やばい俺、恋しちゃったかも……』


 そんなコソコソ話が、あちこちから聞こえてくる。

 まさか自分の妹が、本当に『西中の大天使様』だなんて呼ばれている事に、可笑しさを感じずにはいられなかった。


 ――あの楓花が大天使って、いくらなんでもそれは天使様に対して失礼すぎるでしょ。


 しかし、当の楓花本人はと言うと、そんな周囲から向けられる好奇の視線なんて気にする素振りも見せなかった。

 そして、二年生の中に俺がいる事に気が付くと、少しだけ不満そうな表情を浮かべながらこちらをじっと睨んでくるのであった。


 きっと、朝置いてきた事に対する文句を表わしているのだろう。

 しかし、そんな風に楓花が少し変化を見せるだけで、また周囲をざわつかせてしまっているのであった。


 こうして、なんでもないこの始業式。

 二人の四大美女と呼ばれる美少女が、ただその姿を見せただけでも周囲に大きな印象を残していったのであった――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る