第3話 酒んで寒い誰、金曜の飴。

「寒いね」


 暗い地下の中で誰かが呟いた。地上では勇者と魔王が激しい戦闘を繰り広げている。その震動や轟音の度に悲鳴があがり、村の住民たちは体を震わせながら集まっていた。中には勇者候補になったことがある屈強な男達もいるが、女や老人こどもも多い村だ。いつもは怒られても走り回るような元気な子達も、今は泣いている。


 ここははじまりの村、勇者が代々生まれる村。魔術師でないものが勇者になることが多い。村長はどこの家から勇者が生まれるかわからない。毎度旅に送り出す時、判断は間違っていたのではないかと悩んでいる。送り出されても時に帰ってくる。試練の間で剣を引き抜けない、または剣のある場所までたどり着けない。そうするとまた代わりの勇者を鍛え、旅へ出す。


 帰ってきた勇者になれなかった者もみんな村で暮らす。この村ではよくあることで、どんな様子だったかを酒のつまみとして話すことが多い。年配者であるほどに長い。剣の台座は変わっていないか、魔物の処理の仕方を話す者もいるくらいだ。


 砂糖を煮詰めて作った飴が、実は魔物の化石入りだったりする。この村の特産品は変わったものが多い。地図にはない村。辺境の地のため出稼ぎに出る。今日はまったりとした週末、わけもなく走り出すこどもたち。のどかな景色が一変した。


 勇者候補に選ばれない者も魔術師になったり、農業や商業をして村を守っている。今は魔術師が交代で結界を張り、村人全員が地下にいる。

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