伝説その1:伝説の漫画家

「それじゃあ、話すとするかの」


おばあちゃんは、孫のコウタに『伝説』の話を始める......


「昔のぉ、とある漫画家がいたのじゃ......」


「名前は本人の名誉を守るために伏せるがのぉ」


「えっ?」


「ほっほっほ、驚いたじゃろ?『伝説』に触れるなら、これくらい慣れないと厳しいから......申し訳ないが、我慢してほしいのぉ」


「う、うん......」


コウタは、改めて自分がとんでもないことを聞こうとしているという事実を再認識させられて、軽く身震いがした。


「仮にその漫画家のことをXエックスと呼んでおくのぉ。」


「Xは男性漫画家で、非常に若い時から漫画家としてのキャリアを積んでおった。」


「うん......」


「私はXが無名だったころから彼の事を知っておったが......最初の方はぱっとしなかったのじゃが、コンテストに応募するたびに画力や構成力が目に見えて上がっていくのが感じられた。努力家だったんじゃよ。」


「ふぅーん......ファンだったんだ。おばあちゃん。」


「おおそうじゃよ。――そうして地道に努力を積んでいったおかげか、ブレイクまでは比較的早かったのじゃ。24歳のときに、某有名漫画雑誌での連載を獲得したのじゃ。あの時は本当に嬉しかったのぉ......」


「......おばあちゃん、けっこう『ガチ勢』じゃん。」


「そうじゃそうじゃ。――その連載は、非常に好調じゃった。簡単に言うと、気弱な男の子が超能力者の女の子を守るために様々な困難に立ち向かう、という王道ファンタジーなのじゃが、とにかくキャラクターの見せ方が魅力的だったのじゃ。」


「えーそうなの?タイトル、気になるなー......教えて!」


「教えるわけないじゃろ。何のために私がXの名前を隠したと思っておるんじゃ?」


「あ......ごめん、怒らないで......」


コウタ、泣きそうになる......


「おぉコウタ、ごめんのぉ......!」


おばあちゃん、コウタの頭を必死でなでる。


......コウタが落ち着いたので、おばあちゃんは話を再開した。


「Xの画風は本当に可愛らしかったのじゃ。正に『cute』といった感じで......それに洗練された可愛いキャラクターデザインがマッチして、明らかに可愛さが誰も到達したことがない次元に到達していたのじゃ......」


「う、うん......」


コウタはなぜだか、三つ子の魂百まで、ということわざを思い出した......


「Xの漫画は、作風も一線を画しておった。というのも、いわゆる『ダーク』な展開が全くないのじゃ。」


「『ダーク』、って......?」


「本当は見たいのに、思わず見たくないと言ってしまうものじゃよ」


「ふ、ふぅん......」


「何が起ころうと絶対にキャラクターの可愛さを強調させる展開に落ち着かせる......ただひたすらにその作風を貫いておった。でも内容はほのぼの系ではなく、しっかりとしたファンタジーなのじゃ。」


「おぉ......」


「Xは、『癒されながらファンタジー』、という新しいジャンルを切り拓いたのじゃ。その当時、現実世界が乱れがちだったことや、いわゆる『ダーク』な漫画が多かったこともあって、Xの作風は気持ちいいくらいに時代にマッチして......1作目は、瞬く間に大ヒットしたのじゃ。」


「おぉ......これが『伝説』なの?」


「ほっほっほ、そう思うじゃろ?でも違うのじゃよ。Xの『伝説』は、ここから始まるのじゃ......」


コウタ、おばあちゃんの不敵な笑みを見て、嫌な予感を感じる......


「Xの1作目は、アニメ化も決定した。それに応じて本誌では、ファン待望の人気投票が行われたのじゃ。」


「じゃあおばあちゃんも......?」


「待ち望んでいないわけがないじゃろ?」


「おぉ」


「当然、非常に多数の投票があった。多種多様な可愛いキャラクターがこの作品の一番の魅力じゃからな。(これは本人公認じゃ。『まぁ僕の漫画なんてストーリーは二の次で、一番はキャラデザだと捉えてもらって結構ですよ。』Twitterより。)」


「おばあちゃん?」


「お、おぉすまんの、少し調子に乗りすぎたみたいじゃ。」


「......もう、心に直接語り掛けてくるの、やめてね。」


「わかったわかった。――そして集計期間が終わって、遂に人気投票の結果が発表されたのじゃ。」


「ゴクッ......」


「1位は......あの超能力者の女の子じゃ。いわゆるヒロインじゃな。」


「パチパチパチパチ」


「ほっほっほ、拍手ありがとうのぉ。因みに主人公の男の子は2位じゃ。こちらもかなりの人気があったのじゃが......やっぱり読者は女の子を好むんじゃな。」


「おばあちゃんは誰に......?」


「レイナ(超能力者。初めて登場した、ヒロインの女の子よりも年下の子。いつもは甘えてばかりのヒロインも、彼女の前では姉のように気丈に振る舞うが、しょっちゅう何かをしくじる。でもレイナはヒロインを心の底から尊敬している)に150票じゃ」


「やっぱり『ガチ勢』じゃん!!!」


「ほっほっほ、レイナは4位じゃった」


「......それって、いいの?」


「TOP3には絶対的な支持基盤があったから、上々じゃよ。」


「お......おめでとう、おばあちゃん」


「ありがとうのぉ。――さて、『伝説』は本当の本当に、ここから始まるんじゃ。」


「......」


コウタ、また覚悟を決める。


「人気投票の結果が発表されて、アニメも放送開始直前。CVも発表され、界隈は湧きに湧いていたんじゃが......」


と、ここでおばあちゃん、言葉に詰まる。


「どうしたの?おばあちゃん......」


「ここで、このタイミングで、Xは、とんでもないことをしでかすのじゃ......」


「......なにが、あったの?」


「......、んじゃ。」


「......え?」


「......ついにXは、少年誌漫画の伝家の宝刀、『死亡』を使ったのじゃ......」


「で、伝家の宝刀って、大げさな......」


「おぉ、それは確かに大げさじゃった......が......」


「確かにXは、殺した、のじゃ......確かにデビューした頃から『結局狂わせて殺すのがいっちゃんおもろい※但し漫画に限る』とか、『脳内と作風が一番違う漫画家は間違いなく僕です』とかTwitterで言っておったが......まさか本当にとは......」


「お、おばあちゃん?大丈夫......?」


「おぉ、ごめんのぉ......あの頃を思い出すと、毎回こうなるのじゃ......」


「......?」


大丈夫じゃ。ただ当時の私は......」


「大丈夫なわけが、ない?」


「よくわかったのぉ......」


「......なんか、嬉しくない......」


「いいんじゃいいんじゃ。――とにかく、Xはついに殺したのじゃ。何の前振りもなく、 !!!!!」


「えっ、えぇーーーーー!!!!!」


「当時の私の気持ちは......もう言わなくてもわかるじゃろ?当時の私は怒りのあまり......出版社にクレームの手紙を180枚は書いたものじゃ......」


「あぁ人気投票を越えた......」


「――当然、界隈は荒れに荒れた......どれくらい荒れたのかは話し出すと止まらないのじゃが、ただのXへの悪口になってしまう予感しかしないからあえて言わないでおくのぉ......ほっほっほ」


「......」


コウタ、覚悟を決めておいてよかったと心の底から思う。


「――この件の何が一番怖いのかって、『ダーク』になったのは本当にこの一瞬だけで、そこから約1年半後の完結まで、ずっと今までの『癒されながらファンタジー』のままだった、ということなのじゃ......」


「えっ......?レイナちゃん、死んだのに......?」


「そうじゃよ......当時の私もリアルタイムで見ておったが......Xの腕が相当良いのか、本当に読者からうまくレイナの死亡を忘れさせて、読者は何事もなくこの漫画で癒されることができていたのじゃ......あれは本当に不思議な感覚じゃった......」


「う、うわぁ......」


「そんなこんなで、1作目の『死亡事件』は『きっと疲れていたのだろう』『仮にも彼は中二病なのだ(これも本人公認じゃ)、これくらいのことは我々が想定しておくべきだった』という、レイナの死を容認するかのような流れになって、人々の記憶から忘れられていったのじゃ......(当時の私は許していなかったがのぉ)」


「お、おばあちゃん......心の声、聞こえてる......」


「おぉすまないのぉ。......でもXの『伝説』はこれで終わらなかったのじゃ......」


「えぇ......?まだ続くの?」


「そうじゃそうじゃ。むしろ......」


「ここからが、本番?」


「その通りじゃ。」


「嫌だよ......」


「私も嫌じゃ。でも『伝説』を知るためには......」


「わ、わかったよ......」


「Xは、1作目の『死亡事件』のほとぼりが十分に冷めてから、2作目の連載を始めたのじゃ。こう易々と次の連載を決められるところからも、Xがいい漫画家だったということがわかるのぉ......」


「た、確かに......」


「こちらも大ヒットじゃった。作風は相変わらずの『癒されながらファンタジー』で、やっぱり誰も死ななかったのじゃ。あとは流石はX、どこをとっても可愛くて、そして面白かった。そうして確実に支持基盤を広げていったのじゃ......ファンの中には1作目の『死亡事件』を知らない者も少なくなかった......」


「あぁ......」


「当時の私は、新参者に『Xは実は殺すよ!』と必死で伝えて回ったものじゃ......もう二度と私のような思いをする人を出さないように、必死になっていた......今となってはいい思い出じゃよ......」


「ちなみに『死亡事件』は」


「今でもいい思い出なわけないじゃろ?」


「わかってた......うん。」


「そして2作目はまたしても人気を拡大して、とうとう人気投票が行われる時期となったのじゃ。」


「あぁ......」


「その一方で当時から、私をはじめとした、『Xがまた殺すと信じて疑わないファン』が掲示板でよく激論を交わしていたのじゃが......」


「そんなこともしていたの?おばあちゃん。」


「すまんのぉ、でも私にも青春はあったのじゃよ。――そうして激論を交わしたファンの間では、『レイナが殺された理由は、人気投票で4位だったから』という結論に落ち着いたのじゃ。」


「えっ......、どういうこと?」


「つまりは『どうせ殺すならできるだけ人気なキャラを殺そう』→『でもあんまり人気すぎるキャラを殺したら今後に影響が出る......』→『あっ!レイナは人気投票で4位だ!じゃあレイナにしよう!』と......こういうことじゃ。」


「......そういうことなの?」


「それがそういうことなんじゃよ。誰かが直接DMでそれが本当かどうかをXに尋ねてみたが、『おおむねそう思ってくれて構わないです』という返信が来た、というのじゃから。」


「えっ......」


「人気投票の順位のせいで殺されたレイナちゃんが不憫でならないじゃろ?」


「うん......ついでに、作者にただの考察に過ぎないDMを送り付けたそのファンもよくないと思う......」


「そう......か......の......?」


おばあちゃん、泣きそうな顔になる......


「えっもしかして」


「......その通りじゃよ。」


「嘘ぉ......」


「――ともかく、2作目の人気投票が行われたのじゃ。私たち、『X疑い勢』は、今作の唯一といっていい女の子枠――今作は前作と打って変わって女の子はあまりいなかったのじゃ――である、ルナちゃんに組織票を投じたのじゃ。Xに殺されないために。」


「頑張れー」


「ありがとうのぉ。因みに当時の私は200票投じておった。」


「あぁもっと増えてる......」


「そうして、色々あって人気投票の結果が発表されたのじゃが......」


「ドキドキ」


「1位は......ルナちゃんじゃった」


「おぉーーーーー!!!!!」


「もともと人気があるキャラクターだったから、ほんの少しの組織票で簡単に1位になれたんじゃよ。最終的に2位に20000票差をつける圧勝じゃった。」


「おばあちゃん、おめでとう!!!」


「ありがとう。――私たちは歓喜したのぉ......これでルナちゃんの命は救われた、と......ルナちゃんの代わりに4位になった頼れる司令官、マイケルさんが死んじゃうのは可哀想だけれど、背に腹は代えられない、と......」


「そのキャラで4位とか、マイケルさん凄い......」


「マイケルさんは髭面で強面だけど、性格がとってもイケメンだったからのぉ......」


「流石......あ、でもXさん、可愛い画風なのにそういう男の人も描けるようになったんだね......」


「それじゃよ!Xは今作で、前作では克服しきれてなかった『男の人の作画』を完全に克服していたんじゃ。それどころか可愛い画風と、練習量が感じられる確かな男の人の描き方がいい感じに融合して、男の人についても、誰にも表現できない独特な世界観を確立させていたのじゃ。うーん、やはりXは確かに凄まじい傑物であった......」


「......おばあちゃん、Xさんのこと好きなの?嫌いなの?どっち?」


「もちろん好きじゃよ。漫画家の中で一番好きじゃ。しかし、殺す、のは......」


「ふ、ふぅん......」


「『伝説』の話に戻るのぉ。――2作目の人気投票は、ルナちゃんの勝利で無事終わったのじゃが......ここでXがどうしたのかわかるかのぉ?」


「えっ......?『』の?」


「......その通りじゃ。大体分かっていたじゃろ。『』のじゃ。」


「嘘ぉ......」


「しかも、8使、『』のじゃ。」


「えっ、8ページ?......漫画で、8ページ?」


「小説でも大概じゃがのぉ......本人が致命傷を避けられないと自覚するシーンで2ページ、そして首が飛ばされるシーンで2ページ、それを見て衝撃を受ける仲間たちの様子で2ページ、首が落ちて残った身体が崩れ落ちるシーンで2ページじゃ......法律のギリギリをつく、本当に攻めた表現じゃった......おぉコウタ、怖がるでない怖がるでない。」


「うん......うん......」


「とにかく、当時の私たちが『何だよそれーーーーー!!!!!』と思ったこと位は、コウタにもわかるじゃろ?」


「うん......人気投票では、4位じゃなかったのに......」


「そうじゃ、マイケルさんはあの時に、作中で最初で最後の涙を流したのじゃ.......」


「うぅ、カッコイイ......」


「マイケルさんは完結までずっと性格がイケメンじゃった......当時の私は、人間としてマイケルさんに本当に憧れていたのぉ......」


「そ、そうなんだ......」


「とにかく、これが原因で『死亡事件』が再び起こった。これを『第二次死亡事件』と呼ぶことにするのぉ......」


「うん......」


「『第二次死亡事件』で、Xは世間から完全に『殺す人』と認識された......当然じゃな。一度やっただけでも大概なことを2回もやったのじゃから......私はなんかもう、嬉しかったのぉ......『ようやくXのヤバさが世間に伝わった』と......」


「お、おめでとう......」


「そしてやっぱり何事もなかったようにそこから完結までの3年の間、誰も死なないどころか、ずっと主人公の可愛さと、マイケルさんたちのイケメンさが強調されるだけの『癒されながらファンタジー』だったんじゃ......そして読者はやはり、この漫画では一人だけ、8ページもかけて殺されているということを忘れていった......」


「こわい......」


「おぉ怖かったとも......そしてXは3作目の連載を始めた」


「えぇ!??また!??」


「またじゃよ。何でこうも毎回易々と新連載を勝ち取れるのじゃろうな?――今作もいつもの『癒されながらファンタジー』で、前作とは打って変わって女の子の可愛さに極限まで全振りした作品じゃった。当然こちらも大ヒットじゃ。」


「に、人気投票は?」


「当然、行われた......今回はXのヤバさがもう知れ渡っていたから、特に当時の私たちが団結しなくても、ファンは勝手に『』に投票していたんじゃ......Xは今まで2人しか殺していないというのに、ほぼ全てのファンが『Xが殺すこと』を警戒していたのじゃ......人気投票のはずが、いつの間にか、『死んで欲しくない投票』になっていたのじゃよ......」


「もう、誰も死んでほしくないよぉ......」


X!!!」


「えっ!??まだ結果が......」


「そうじゃ!のじゃ!!!」


「もうやめてぇーーーーー!!!!!」


「青色担当のミレイちゃんが......うぅ......ぐっす......」


「お、おばあちゃん!!?大丈夫!!?大丈夫!!?」


「......大丈夫じゃ。大丈夫じゃよ......」


「無理しないでね......」


「ありがとう。本当に良い孫を持ったわい......」


「あ、ありがとう......」


「死後1週間が経って結果が発表された人気投票では......やはりというかミレイちゃんが1位じゃった......単行本では見れないが、本誌では1位になって喜ぶミレイちゃんが右ページに、1週間前までミレイちゃんだった物体が左ページに並んでいるという、不条理を超越した未知の光景を見ることが出来たのじゃ......」


「もう、やめてよ......うぅ......」


「この瞬間、私を含む読者は全員あることを悟ったのじゃ......」


「......え?な、何を......?」


X、ということを、じゃ......」


「い、嫌だ......もういやだ......」


「そしてその後の4作目では!!!」


「嫌だってーーーーーーー!!!!!」


2!!!」


「うわぁーーーーー!!!!!」


「そして5作目では!!!」


「もう人気投票やめてーーーーー!!!!!」


!!!」


「とりあえずの感覚で殺さないでーーーーー!!!!!」


「ちなみに5作目は主人公が殺されてから展開がグダグダになってすぐに打ち切りになったんじゃ......これがXのキャリアで唯一の打ち切りじゃ」


「やっぱり主人公は大切だったんだよーーーーー!!!!!もう4作も長編描いているなら、気づいてよーーーーー!!!!!」


「『いや僕もね、主人公が死んだらこの作品終わるぞ、って思ってたんですよ。でもみんな「人気投票するな」って言うんですもん。それで誰を殺すか迷っちゃって......だからまぁ、主人公を殺させたのはあなたです。』Twitterより......」


「もう思考がミステリー漫画の犯人じゃんーーーーー!!!!!」


「そして6作目は!!!」


「その出版社からの信頼をちょっとは読者に分けてーーーーー!!!!!」


1FX-79!!!」


「とうとう一番救いようがない殺し方に手を染めてしまったーーーーー!!!!!」


「さらに7作目では!!!」


「もうそろそろ誰も驚かなくなってそうーーーーー!!!!!」


3!!!」


「なんかSFに作風変えてないーーーーー!!!??」


「またまた8作目では!!!」


「ていうかキャリア長すぎないーーーーー!!???」


!!!4!!!」


「誰も喜ばないよこんな原点回帰ーーーーー!!!!!」


「そして!!!!!」


と、ここでおばあちゃん、言葉を止める......


「......っ!?」


9、Xはのじゃ......」


「えっ......?」


「この時期のXの漫画は、本当に洗練されつくして来ていたのじゃ......」


「ど、どういうこと?」


「この時期のXの漫画には、一切の無駄が排除され、ただひたすらに純粋な『可愛い』を具現化したキャラが描かれていたのじゃ......Xは1作の打ち切りを挟んで7作品も漫画を描き切って、自らの『可愛い』の定義を完成させてしまった......」


「プロフェッショナルだ......」


「そしてこの9作目で、彼は『可愛い』の完全体ともいえるキャラを創り出してしまうのじゃ......その名は......『ミュー』。」


「うぅ......」


「彼女が人気にならないわけがなかった......何てったって『可愛い』の完全体じゃからのぉ、一瞬でカルト的な人気を獲得したのじゃ......」


「......殺さないでよ、殺さないでよ......」


「......当然、人気投票でも断トツの1位じゃ。」


「......やめて、やめて......」


「ここで......Xのじゃ。」


「......」


と、年老いたXの頭は判断しきれなかった......さらに、彼の身に染みついた、『人気投票を参考に1人殺す』という習慣が取れるということは、もはや不可能だったのじゃ......」


「......っ......」


「Xは、......」


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


「おぉコウタ、大丈夫じゃ、大丈夫じゃ......さて、もう言わなくても大体わかるとは思うじゃろうが、ここから先は、じゃった。」


「......だからやめてって.......」


「本当に酷かったので、あえて詳細は言わないでおくが......一つだけ例を挙げると.....出版社が約10万人の暴徒に襲撃されたりしたのじゃ。」


「うぅ......か、数が......おかしいよ......」


「......そしてXの自宅も特定されて......暴徒が......」


「えっ......?、の......?」


「そうじゃ......可愛い画風で癒してから一人殺して衝撃を与え、元に戻ってまた癒すという色々な意味で最強なスパイラルで、一時期は確実に漫画界の天下を取っていた漫画界の鬼才、Xは......非業の死を遂げることとなったのじゃ......」


「そ、そんなぁ......」


「私は、Xが殺す相手が悉く『推し』だったせいでXのことは嫌いじゃったが......彼の漫画家としての実力は物凄かった......私は本当に彼を尊敬しておったよ......」


「......そんな......」


「『伝説』というのは世の中とは相容れないものも多い......悲しい終わり方をするのも、それもまた『伝説』なんじゃよ......残念ながら、の......」


「そんな......」


「ちなみに私のこの話し方はルナちゃんに憧れて60年前に始めたものじゃよ」


「......え?」


こうしてまた一つ、伝説が語り継がれた......


伝説の漫画家:Fin.

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