第5話
ついに処刑の日がやってきた。
どうやらアリスティアには他の家族が死んでいくのを見せ、悔い改めさせると言う目的のため、最後に処刑するらしい。順番は、父、母、僕、アリスティアだ。
僕はなかなか意地が悪い処置だなと思いつつ、やっと終わることに胸を撫で下ろした。
そんな中最後に家族で会う時間が設けられた。
処刑の1時間前、僕たちは家族4人、一つの部屋に集められた。加えて牢の外にはテオドアもいる。
だが最後の会話どころか、両親はテオドアに泣きつくのに必死だ。
「育ててやったのに恩を仇で返すとは!」
「早く助けて!あなたならできるでしょう?」
そんな両親をテオドアは冷たく見下ろしている。
「貴方たちに育ててもらったと思ったことはありません。」
「そ、そんな・・・」
ここでも俺は存在感なく、幽霊のようにただそこに存在していた。はずだったのだが・・・
「お兄様。」
アリスティアが僕を呼んだ。他の誰でもない僕を。
「お兄様、私・・・私・・・ごめんなさい。なんの罪もないお兄様まで・・・」
「アリス、ティア?」
「私、王子のことが好きだったの。誰にも愛されていない私に微笑みかけてくれて・・・もっと愛して欲しいと願ってしまって・・・今思えばあれはただの社交辞令だっのに・・・」
そう言ってホロホロと泣き出した彼女は僕と両親よりくたびれていて、ボロボロの服からきっと酷い扱いを受けたのだろうことが伺えた。
それに何より彼女の言葉が胸に突き刺さった。
「誰にも愛されていない」
「もっと愛して欲しい」
なぜ彼女が?アリスティアは僕と違って魔法が使える。両親にだって愛されていたはずだ。
「アリスティア、なぜそんなことを言うんだ?君は愛されていただろう?」
その言葉にアリスティアは、「なんだかお兄様とは初めて話した気がする」と言って笑った。
「確かにお兄様のように蔑まれはしなかった。でもそれだけよ。私も所詮2人が望む出来の良い娘ではなかったわ。」
「そう、だったのか・・・」
「お兄様、ごめんなさい。私のせいで・・・」
「僕は何も怒ってなどいないよ。」
そう言うと、彼女はホッとしたような、それでいて悲しそうな顔をして笑った。
「もっと、お兄様と話をすればよかった。私、嫌われてると思って、最後まで勇気が出なかったの。」
そんな彼女の言葉に目を見開いた。
「アリスティアも・・・そんな思いを・・・」
正確にはアリスティアを嫌っていたわけではないが避けていたのは事実だ。きちんと魔法が使える彼女と、両親の前で並びたくはなかった。彼女が羨ましかった。僕も少しでも魔法が使えたら、辛い言葉を投げかけられることもないのではないかと思って・・・
「今になってごめんなさい。」
そう言ってボロボロと涙を流す彼女を気づけば抱きしめていた。
「僕の方こそ、ごめん。蔑まれるのが怖くて、ずっと自分の殻に閉じこもってた。僕以外は皆仲良く暮らしているんだと思って妬んでさえいたんだ。アリスティアが、そんな思いをしてるなんて知らなかった・・・本当に、ごめん・・・」
するとアリスティアは目を見開いたかと思うともっと泣きじゃくり始めた。僕はこんな時どうしたら良いのか分からず、戸惑いながらもよしよしと背中をさすってやる。
するとやっとこちらに意識を向けた両親がズンズンとやってきてアリスティアの髪を掴んだ。
「この馬鹿娘が!男爵家ごときに負けてこんな様になるなんて!」
「死ぬなら1人で死んでちょうだい!私たちを巻き込まないでよ!」
そう言ってヒステリックにアリスティアをなじる2人の態度に呆気に取られていたが、ついに手を上げようとした両親に思わず僕はアリスティアを庇うように前に出ていた。
パァン!!!
牢の中に平手打ちされた音が響く。左の頬がジンジンする。
「お前・・・」
父に睨みつけられて足がすくむ。こんな両親でもまだ嫌われたくないなと思ってしまうのだから不思議だ。
「もう、やめませんか。こんなことをしても無意味です。」
それでも、もう黙っていることはできなかった。両親を見つめればまだ怒りは収まっていないようで、今度は僕を睨みつけてくる。
「知ったような口を!最後までなんの役にも立たなかったゴミ屑が!」
「そうだ!すでにジョシュアに爵位を継いでいたことにすすれば私たちだけでも助かるのではないかしら?ねぇ、テオドア!お願いよ!」
そう言ってテオドアを見た両親に彼はため息をつく。
「・・・最後まで貴方たちは・・・救えないですね。こんな場を設けたことが間違いだったのかもしれません。」
「テオドア様、時間が・・・」
「ああ、もう話はないようだし始めようか。」
やってきた衛兵とテオドアがそんな言葉を交わす。すると両親は打って変わって慌て始めた。
「待って!テオドア、テオ!お願いよ!」
「助けてくれたらなんでもする!頼むから処刑を取りやめてくれ!」
だが2人の願いは聞き入れらることはなく、全員衛兵に引き摺られるようにして広場へと連れて行かれた。
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