第6話

どうやら公開処刑らしい。広場には貴族から平民まで大勢の人が集まっている。聖女を害したとして、皆嫌悪の表情を浮かべていた。



「これよりウッドセン家の処刑を始める!罪状は、聖女の毒殺未遂である!」


その言葉とともに群衆からヤジが飛ぶ。罵る言葉と共に石を投げつけられ、その一つが僕の額に当たる。

後ろで手を縛られているので、額から流れる血を拭うこともできず、僕らは断頭台の前へと並ばされた。


目の前の特等席とも呼べる場所に、テオドアと身なりの良い男女が座っている。彼らが王子と聖女だろうか。こんな場所に煌びやかな格好で来ているので、なんだか違和感を感じる。


すると、突然聖女が立ち上がり、「最後に彼らに祈りを」と言ってこちらへやってきた。その姿、言動に群衆のがほうっと息を呑む。


確かに聖女は美しい人だった。薄い金髪をたなびかせてこちらへ歩み寄ってくる様は女神のようだ。ピンクの瞳も優しい印象を与える。


両親はここぞとばかりに聖女に慈悲を願ったが、彼女は悲しそうな笑みを浮かべるだけだった。そして祈りの言葉を唱える。「貴方たちの罪が天国で許されるように」と。


そしてチラッと僕へ目を向けると少し驚いたような顔をしてこちらへ歩み寄ってきた。


「まあ!顔に傷が・・・せめて、これだけでも直させてください。」


そう言って聖女は僕の額に手をかざした。すると金の光が溢れ出て傷はみるみるうちに塞がっていく。

群衆が聖女の力、そしてその優しさにワァッとわくなか、僕が最初に思ったのは、どうせこの後首を切られるのに、だった。


確かに優しいのかもしれないが、なんだかパフォーマンスに利用された気がしてしまうのは気のせいだろうか。それに、傷なら僕よりアリスティアの方が酷いのに。


そう思っていると聖女はアリスティアに近づいて何やら囁いた。もともと顔色の悪かったアリスティアがみるみる表情を曇らせていく。


僕はアリスティアが心配だったがこの状況では何もできない。そして、事が済んだ聖女は拍手の中元の席へと戻っていった。

 


聖女が席についたのを見て、処刑が始まった。 


最初に父が呼ばれ、何やら声を荒げながら断頭台へ消えていった。次に母が呼ばれ、ヒステリックに叫びながら同じく消えていく。そして僕の番。


僕は最後にアリスティアを振り返った。彼女の顔色は蒼白で、もう死んでいるかのようにさえ見えた。


「アリスティア。」


せめて、最後に少しだけでも兄らしいことを。彼女が救われるような言葉を。そう思って口を開いた。


「生まれ変わったら、今度こそ兄としてアリスティアを愛するよ。」


彼女は目を見開いて、大粒の涙を流した。


(ああ、泣かせるつもりではなかったのだけど。)


そう思いつつ、最後に妹と分かり合えてよかった。そんな晴れやかな気持ちで断頭台に上がった。

両親と違って喚かない僕に、群衆も少し静かになる。


そして、その人混みの中にゾーイとテオドアの顔が見えた。2人とも辛そうな顔をしてこちらを見上げていた。


ゾーイの唇がゆっくり動く。


「この馬鹿。」


そう言われているのがわかって思わず眉尻を下げて微笑んでしまった。群衆からハッと息を呑むような音が聞こえた。


だが、次の瞬間には僕は断頭台の上に寝転がされていた。衛兵の合図と共に刃が落ちてくる。それがやけにゆっくりに感じられた。


(もし次があるのなら、今度こそ大事な人をきちんと愛せる自分にーーー)


そして僕の記憶はそこで終わった。

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