第3話

「おきな、さい?」


 そう言って、階段を降りて、私のところへ再び来るクリスティーヌ。今回はクリスティーヌの勘違いだから、一切悔しい気持ちにはならないけれど、この子のこういう煽るのが好きなところは本当に嫌いだし、嫌な気分になる。


「ええ、そうよ」


 私はクリスティーヌの煽りたい顔を見るのがうんざりで目を逸らす。


「どうして、どうしてなのか、言ってみてよ。お姉様っ」


 けれど、勝ち誇ったクリスティーヌは私の視線の先に顔を動かして、私の表情を堪能しようとする。


(ほんとうにこの子は・・・・・・)


 こんな腹が立つ人間でもクリスティーヌは妹なのだ。だから、彼女のためを想って引いては我家のためを想って言ったのだけれど、ここまで、言われたのであれば、この子を見捨ててしまってもいいのかもしれない。


「もう一度だけ、言うわ。詳しくは言えない。けれど、バイデル様だけはやめておきなさい」


 私は拳を固めて、言葉を振り絞る。

 私が口の軽いクリスティーヌに言えることは、忠告だけ。ただそれだけだ。


「はーーーい」


 クリスティーヌは全く反省しない子どものように返事をした。彼女もまた、私に何を言っても無駄だと思ったのだろう。ちらっと、私のイヤリングを見て、そして、エディを見て、


「あぁ、そうそう。私とバイデル様の恋は純粋で尊いものなの、どこかの誰かの見境なくところかまわない獣の欲情と一緒にしないでくださいね」


 そう言って、クリスティーヌは階段を登った。一段踏み外しそうになって転びそうになって、私たちは悪くないのにこちらを振り返った顔はとても怒った顔をしていた。


「いろいろ・・・・・・大変だね、キミも」


 エディが私の肩に優しく手を置いて慰めてくれた。それは嬉しかったけれど、ここでエディに気を許してしまえば、クリスティーヌにそれ見たことかと言われる様な気がして嫌だったので、申し訳なかったけれど、そっと彼の手をどかして、彼の方を見る。


「本当にごめんなさい、あの子・・・・・・本当に・・・ああっ、もう、本当に恥ずかしい姉妹喧嘩なんか見せちゃって、不快な思いをしたでしょ? 本当に、本当にごめんなさい」


 私はエディに何回も謝った。けれど、エディは「全然大丈夫だよ、ボクよりもキミの方が心配だ」なんて紳士的に慰めてくれた。


「それより・・・・・・まずいことになったかもしれないね」


「ええ」


 私たちは書庫の扉を見上げた。

 大きくて、固くて、丈夫そうな扉。その中には・・・・・・


「とりあえず、今日はこの場から立ち去るとしようか。調査はまた今度」


「ええ」


 私たちは扉に別れを告げて、階段を登った。

 すると、とても眩しい太陽がさっきまでの湿っぽい嫌な感じを吹き飛ばしてくれたので、私とエディは背伸びをして、和気あいあいと談笑した。それをクリスティーヌがまだしつこく私たちに固執し、遠くから私たちを薄ら笑いしながら辛気臭い目で見ていたことには全く気付かなかった。

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