普通に嫌いです

「いやよ! 私は絶対に王都になんて帰らないわっ!」

「ええと……どうしたんですか貴女?」


 オークさんの村へと戻ってきた私は、例の雌豚さんに「今日は予備の箒を持ってきたので、貴女を連れて帰ってあげますよ? ……不本意ですけど」と説明しました。

 私はてっきり「ふんっ! もっと早く行動を起こしなさいよ!」とか言われると思っていたのですが……帰ってきたのは私の予想だにしなかった返事である「帰りたくない」というものでした。

 昨日までの彼女はどこへやら、オークさんの腕に絡みつくように抱きついておりました。

 一体何が……と我が目を疑いましたが、雌豚さんの抱きついているオークさんの顔を見て、その理由が分かりました。

 引き締まった筋肉に、端正な顔立ち。 人間に近しいその容貌は明らかな美少年でした。

 つまり……かっこいいオークさんに良く扱われたから、ここから帰りたくなくなった。 と言った所でしょうか?

 まぁ人間の世界では明らかにチヤホヤされない容姿ですもんね。 オークさんの中にはこういったスタイルが好きな方もいらっしゃるのでしょうか?


『あ。 オークさんおはようございます』

『おや? 人間の女の子が僕たちの言葉を扱えるのか? 珍しいね』

『あぁ……まぁ私は特別体質でして。 それはそうとして、そこにいらっしゃる女性とはどのようなご関係で……』

『ん? いやぁ……生憎だけど僕もよく分かってないんだよね。 なんだか昨日からグイグイ来られてるんだけど、言っていることが分からなくてね』

『そうですか……。 あ。 最後にひとつ。 そのお方は貴女のストライクゾーンに入っておられますか?』

『……え? この娘? うーん……ちょっと無駄なお肉が多いかな? 筋肉が足りない……というか』

『ですよねぇ。 ありがとうございました』


 ペコリとお礼をして能力を解除します。

 どうやらオークさん的にも雌豚さんはアウトオブ眼中のようですね。 ……死語だったかも。


「あのぉ……雌豚さん? 失礼ですが、貴女ってオークさんの言葉分からないですよね?」

「分からないけど、そんなこと関係ないわ! 愛があれば言葉なんて必要ないもの!」


 雌豚さんはオークさんに更にギューッと抱きしめて「ね~ダーリン!」と背筋が凍る程のおぞましい笑顔を浮かべました。

 悪霊退散悪霊退散! その笑顔を鎮たまえ~!


「そういえば、さっきダーリンと話してたわね? 何を言っていたのか教えなさいよ!」

「えーっと……ですねぇ」


 むむむ……どうしたものか。

 オークさんの言葉をそのまま口にしたら、面倒くさい事態になるのは目に見えております。 しかし、あまりに離れすぎたことを言ってもオークさんが可愛そうです。


「なんと言いますか……もう少し筋肉をつけた方が、君はもっと魅力的になるよって言ってました」

「……え? 本当! ダーリーン! やっぱり私のことが好きだったのねぇ~!」


 当たり障りのないように説明しましたが……失敗だったカモ。

 ごめんなさいねオークさん。 しばらくの間雌豚さんのお守りをよろしくお願いします。

 ちょうどセシリアが長老さん達を連れて来たのを視界に入れつつ、私は名前も知らぬオークさんの幸福を願うのでした。


 さて……ここからが本番です。

 杖さーん? 頼みますよー!

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