いよいよ本番です

『さて……皆様お集まり頂いてありがとうございます』


  ぺこりとお辞儀をしながらお決まりの言葉を述べます。

 第一印象が大事ですからね。


『アリス殿。 昨日仰っていた、革新的なアイデアとは一体……』

『あ。 その前にですね……皆様に質問です。 なぜ貴方方のイメージが悪いと思いますか?』

『……なぜ?』


 私の言葉にザワザワとざわつくオークさん達。

 その意識内から私の存在が外れたその時を見計らって、私はこっそりとローブの中に手を突っ込みました。 話の最中にやるとしたら、なかなかに無礼千番なその振る舞いですが今現在それを指摘するものはここにいませんでした。

 私がそんな無礼な行為をあえて行う理由、それは……


『杖さーん! 早くしてください! もう会議始まってるんですけど!?』

『うるさいわね! そんな無理難題を押し付けられたこっちの身にもなってよね!』


 杖さんに進捗の程を聞くためでした。

 本当ならば杖さんを片手に握りながら話を進めたいところなのですが……生憎それはご法度なのです。 なぜなら魔法使いの杖は、剣士の剣と同じように凶器に値するからです。

 いくら私が落ちこぼr……ゲフンゲフン。 非常に心優しい魔女だからといえど、その決まりに例外は無いのです。

 ……そんなこんなで。 私が杖さんを手放すと同時にオークさん達の話もひと段落着いたようです。

 やがて、一人のオークさんが恭しく口を開きました。


『……歴史的な事実に基づいているのではないでしょうか?』


 なるほどなるほど。悪くない意見です。


『うーん。 それもありますが……違いますね』

『……というと?』

『非常に申し上げにくいのですが……貴方方の生活形態に起因しているのではと私は考えております』

『我々の生活形態?』

『はい。 その通りです』


 私の言葉に再びザワザワとざわつくオークさん達。

 まぁそんな事を急に言われても分かりませんよね。


『例を上げましょうか。 人間と魔族の和解が成立して以来、我々は共存を開始しました。 例えば……私が生活をしている王都では、数々の魔族の方が生活したり……商売をしたりしております』

『……はぁ。 なるほど』


 ううん……いまいち反応が芳しくないですね。


『……もっと具体的な例を上げましょう。 そうですね……サキュバスという種族がいらっしゃいます。 彼女らは和解以前、人間の男を誑かす存在として危険視されておりました。 それが今はどうでしょうか? いかがわしいお店を初めて以来、人間も魔族も男の人は揃ってその店に入り浸って……だから私たち女の子の独身率が上がってるんですよっ!』

『あ……アリス殿!?』


 おっと……取り乱してしまいましたね。 これは失敬。

 私は改めてコホン、と咳払いをします。


『まぁつまりですね。 こーんな人里離れた森の中でずーっと生活しているから誤解されるのです。 もっとフレンドリーに接していきませんか?』

『『『なっ……なるほど』』』


 私の提案に目の色を変えて頷くオークさん達。

 その光景に満足していたところ、一人のオークさんが手を挙げました。


『ええと……アリスさんの話はとても理解出来たのですが……具体的にどう言ったことをすれば……』

『どう言ったこと? それは……』

『『『それは?』』』


 ゴクリと固唾を飲んで見守るオークさん達。

 真剣な表情にあてられる私は、表面上は冷静を保っているものの、内心では冷や汗が垂れまくっておりました。

 簡単に言うと……考えていなかった。

 ヤバいですよ!? 杖さんに聞こうと思っていたところなのに……話を進めるのが早すぎました!?


『ええと……ちょっとお花を摘みに、御手洗に行ってきますー!』

『『『あ……アリス殿ー!?』』』


 速攻で逃げ出した私の姿に呆気に取られるオークさん達御一行。

 頼みますよ杖さん! 早く答えを教えてください!

 そんな事を考えながら、私は人影のない場所を探すのでした。

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