厄介でうざったいですね

「オークのイメージアップ? これはまた難儀なものを依頼されたねぇ……」

「うーん? まぁでもお金に困ってるのは事実だからね。 報酬が出るならやった方がいいと思うんだけど……」

「ふむ……まぁそれもそうか」


 私の説得に納得してくれたようで、セシリアはゆっくりと頷きました。

 あのやかましい雌豚さんはセシリアにお仕置きされたようで、セシリアが少し身体を動かす度にビクッとしてビビりまくっていました。

 へへっ。 ざまぁご覧いただけましたでしょうか?


「……ってその人連れて行くの?」

「うーん? やはり森の中に捨てておくかい? 別に私としてはそれでも構わないのだが……そもそも魔物が人間を襲うだなんて……何年前の話をしているのか」

「怖いものは怖いのよ! お願い! もう生意気なこと言わないから……私を一人にしないで!」


 雌豚さんの必死の言葉にどうしたものかと首を傾げ合う私とセシリア。

 この人連れて行ったら絶対に揉め事になる。 なんとなくですがそんな気がしていました。


「あっ! そうだセシリア! 貴女がささっと箒で送り届けてあげたら?」

「いやぁ……それも考えたんだがねぇ……」


 セシリアはやりにくそうにチラリと雌豚の方を一瞥しました。

 一体何が? と考えたのもつかの間、答えは他でもない雌豚さんから口にされました。


「嫌よ! あんな高いところを飛ぶだなんて正気じゃないわ! 落ちたらどうするのよ!?」

「「本っ当に面倒くさい……」」


 奇しくも私とセシリアの言葉が重なります。

 なぜこの人はここまで偉そうに振る舞うことが出来るのでしょうか?


「だー……もう。 分かりましたよ雌豚さん」

「いやちょっ。 今私の事雌豚って言った?」

「雌豚さんがワガママなのは理解しましたから……今回は連れていきますよ。 しかし……絶対に問題を起こさないでくださいね?」

「だから雌豚って……」

「わかりましたか? 雌豚さん? 嫌だと言うならここでバイバイです。 この森は大して危険ではないので簡単に帰ることが出来るかと」

「……はい」


 色々と言いたいことがあったようですが……もう無視することを決定しました。


「ほら? 早く行こうか雌豚。 さっさと歩くんだ」

「行きますよ雌豚さん。 時は金なりです」

「だから……私は雌豚じゃなーい!」


 叫びながら憤慨する雌豚さんと共に、私たちは先導するオークさんに連れられて辿り着いたのでした。

 人間の集落と似通った雰囲気を漂わせるオークの村に。


「あのですねぇ? 貴女仰りましたよね? 下手な騒ぎは起こさないって。 本当に……あんまり調子に乗っていたらセシリアがとっちめますよ?」

「……こういう時に他力本願とは如何なものかと。 だが、私は早く帰りたくてね。 もしこれ以上無駄な用事でことを荒らげようものなら……分かっているよね?」


 セシリアが指先でバチバチと電流を発生させる。

 軽い感じでセシリアは扱っていますが……無詠唱魔法は卒業試験にもなるくらい高度な術式なのですが……今更ですね。

 まぁとにかく、人を殺すのには十分すぎる魔法の威力に充てられて「ヒッ!」と金切り声を上げさせて、雌豚さんの口を噤ませることに成功しました。


『……こほん。 こちら側の雌豚さんが失礼致しました。彼女には後できつく言っておきますので……』

『いえいえ構いません。 それはそうとして……我々の誤解を解くにはどうすれば良いでしょうか?』

『そうですね……こう言っては失礼ですが。 貴方方の祖先は昔にそういった事を行っていますしねぇ……』


 今からはるか昔のこと。

 未だに人類と魔族が戦いを続けていたそんな戦乱の時代での話です。 オークはその高い戦闘能力を買われて、人類の領地侵略作戦において積極的に採用されていきました。

 長い戦いの中、人間を殺すことで昂った感情のはけ口は……人間の女を辱めることだったと言われております。

 もっとも、平和になったこの世の中では決してそのような事は行われていないようですが……やはり固定概念というものは消えないようで、戦乱の世から数百年が経過した現在においてもオークを敵視する声は一定数存在しております。

 私の言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるオークさん達一同。


『まぁ……そうですね。 イメージアップというならば一つだけ考えがあります』

『……考え? それを伺っても?』

『ええと……そうですね。 色々と話したいことがありますので……また明日にここを訪れるので、今日のところは一度帰ってもよろしいでしょうか? セシリアが不機嫌そうなので……』

『……ふむ。 まぁこちらが急に頼んだ事ですし、そう致しましょうか。 そろそろ夕飯時ですから』


 うんうん。

 とりあえずそんな感じで話がまとまっていきました。

 今日のところはお開きにして、さっさと帰宅致しましょうか。


「さてセシリア。 帰りますよ?」

「分かった。 それにしてもお腹が空いたね……帰りは私が操縦をしようか」

「え? ほんと? それだったら早く帰られるね!」


 私としてもお腹が空いて早く帰りたく思っていたので、セシリアの申し出は願ってもない程でした!

 そんなこんなで建物から出ようかとした折……例のごとくあの人が騒ぎ始めました。

 そう、雌豚さんです。


「ちょっと! 私はどうしたらいいのよ!」

「え? そうですね……オークさん達の村にこのまま泊めてもらうのはどうでしょうか?」

「はぁ!? 何言ってんのよアンタ! それで私が襲われたらどう責任とってくれるのよ!」

「……だったら野宿でもしたらどうですか? とりあえず私たちは帰りますので勝手にしてください」


 雌豚さんは未だに騒ぎ散らかしておりますが……私たちが知ったことではありません。

 箒にまたがった時にも「私も乗せなさいよ!」とか文句を垂れてきましたが……やっぱり無視をします。 悪いな雌豚、この箒は二人乗りなんだ。


「……あ。 そういえば雌豚さん。 オークさん達のお料理って美味しいらしいですよ?」

「だから私は雌豚じゃ……ってアンタ今なんて言った?」


 おおぅ……やっぱり食らいつきましたかこの話題に。

 実はオークさん達の民族料理は、なかなかに絶品で私たちが生活する王都にも、そういった料理を提供するお店がちらほらと散見されます。

 私が「オークさん達のお料理って美味しいらしいですよ!」と再び口にすると、ほとんど間をおかずに聞こえてきたのは「ぐぅ……」という腹の虫さん。

 いやいや素直すぎでしょ、食べること大好きですか貴女は。

 ……と口にしたい衝動をぐっと堪えた私は、セシリアと顔を見合わせて苦笑した後に、王都へと帰還していくのでした。

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