やかましい女、ってのはどこにでもいますね

「いやぁ……それにしても随分と楽しいひと時であったねぇ」

「なに勝手に盛り上がってるのよ……魔王さんの威厳台無しになっちゃうでしょ……」

「まぁ魔王という肩書きも、平和となった今ではさして重要ではないのだから問題ないではないか。 そんな事よりも……もう少し速く飛べないのかい?」

「だったらセシリアが操作してよ!? 私よりもっと速く飛べるでしょっ!?」

「ふむ……一考に値する提案だが却下だ。 理由は面倒臭いから」

「なんでよっ!?」


 ギャーギャーと騒ぎながら、後ろにセシリアを乗せて箒で飛行する私。 流石に基本中の基本である箒での飛行は私でも出来ます!

 ちなみに行きはセシリアに乗せてもらいました。 めちゃくちゃ操縦が上手で内心落ち込んだのはここだけの話。


「まぁゆっくり景色を楽しみながら飛行するってのもいいでしょ? 急いでばっかりじゃ大事なものを見逃しちゃうかもよ?」

「ふむ……それは確かに一理あるね。 ただ……森の上を飛んでいるから、どこを見ても変わらないけどね」

「まっ……まぁ!? もしかしたらここをゆっくり通っていることで救える命があったりなかったり!?」


 ……と言った具合に苦しい弁明いいわけで自分の飛行技術から目を背ける私ですが……流石に森の上をずーっと通っているのも退屈でした。

 なにか事件でも起こらないかなー……なーんて思っちゃったり。


「いやぁっ!? 誰か助けてっ!」

「「……!」」


 不謹慎なことを考えていたら……本当に起こっちゃいましたよ事件。

 私はセシリアと見つめ合って頷いた後、急いで声のした辺りへと移動しました。


「あれは……ッ!」

「ふむ……オークか」


 声のした辺りへと辿り着いた私たちが遭遇したのは、筋肉隆々マッチョメンのオーク集団と、それの目の前で腰を抜かしてブルブルと震えている女性でした。

 女性はビビりまくっていて私たちがいることにすら気がついておりません。


「誰かぁ……! あぁ……私はこのままオーク達に辱められてしまうのね……可哀想な私……」

「「いやぁ……それはないでしょ……」」


 思わず重なる私とセシリアの言葉。

 目尻に涙を浮かべる女性の体型は失礼ですがデb……ゲフンゲフン。 ふくよかな体型をされているので……女性としての魅力は低いかなーなんて思ったり?

 案の定オークさん達も手を出していませんし。


「……ハッ! アンタたちは!? ……もしかして私を助けに来てくれたのかしら? だったら早く助けなさいよ! 私が傷物になったらどうするつもりなの!?」


 オークでなくて私たちがお前を……傷物ボコボコにしてやろうか?

 心の中で最大限の悪態を吐きつつ、私は女性を後ろに庇うようにオーク達の前に立ちました。


「もう大丈夫ですよ? ですから早く逃げてください」

「……はぁ!? 何言ってるのよアンタ! もし一人で逃げて私がオークに捕まったらどうするつもり!? もう少し考えてから物を言いなさいよ!!」


 イラッ。

 なんでこの女性はこんなに私をムカつかせるのが上手なのでしょうか?

 間近で見ると贅肉まみれの女性の肉体の醜さが際立っていました。 筋肉隆々のオークさん達よりも、この人の方がオークに適しているのでは? なんて考えたり。


「……セシリア。 ちょっとこの人を頼むね。 私はオークさん達と話してみるから」

「えぇ……。 ……しょうがないね。 ただ……この女が生意気な口を聞いたらとっちめて構わないよね?」


 明らかに嫌そうな顔を浮かべて質問してきたセシリアの言葉にこくりと頷くと、彼女は「それならしょうがないね」と肩を竦めて悪そうな笑みを浮かべた後にオークさん達と対面させてくれた。


『ええと……まずこれってどういう状況ですか? 誰か代表者さんが答えてください。 ……あ。申し遅れました。 私は異種族通訳者のアリスと申します』

『ほう……異種族通訳者のアリス殿、ですか。 これは助かりました。 我らとしてもあの女性が急に叫んで困っていたのです』

『……というと?』

『えぇ。 どうやら彼女はこの森で道に迷ったらしく……何か助けになればと声をかけたのですが……』

『あぁ……なるほど』


 何となく状況に想像がつきました。

 恐らくこのオークさん達は、心優しくも道を迷っていた雌豚さんに声をかけたのでしょう。 それで勝手に勘違いした雌豚さんが一人で喚き散らしたのかと。

 本っ当に冗談はその身体付きだけにして欲しいものですね。


『その……大変申し上げにくいのですが……雌豚……じゃなくてあの女性は恐らく貴方方の登場に驚いたのかと……』

『……そうですか。 そういえば人間の中には我らオークに良いイメージを持っていない者もいるのだとか』

『……そうですね。 正直に言うとそういった考えを持っている人もいます』


 私の言葉に「ふーん」と考えるように腕を組むオークさん。


『時にアリス殿。 異種族通訳者の貴女を見込んでひとつお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?』

『……はい。 なんでしょうか?』


 お願い?

 正式な契約として対価を払ってくれるのならば、なんだって引き受ける所存ですよ?


『我らオークのイメージアップについて協力していただきたいのです!』

『へぇっ!?』


 予想だにしないそのお願いに、私は奇妙な返事を返すのでした。

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