帰りましょうかね

「ええと……まずは今回の料金ですが……約束通り金貨一枚でよろしいですか?」

「あぁ。 それで構わぬ。 しかし……本当にお前の力は不思議じゃな……」

「ふふん! 神様から賜った力ですので!」


 えっへんと胸を張る私ですが、実は私にも自分の力がよく分かっておりません。本当に神様から賜ったのかということすら。

 実は……この力は先日魔法大学を卒業らくだいした時にいつの間にか手にしていた力ですので。


「おや? アリス。 もう仕事は終わったのかな? 流石に私も暇になってきたのだが……」


 魔王さんから金貨を頂いたと同時にひとりの女性……と言っても私と同い年ですが、がひょっこりと姿を現しました。

 彼女こそ私の魔法大学時代の唯一の友達で、私の旅に護衛として同行している少女、セシリアです。

 落ちこぼれだった私と違って、常に学年トップで将来有望の彼女でしたが……私が卒業らくだいするのと同時に、学校を退学して私と共に旅をしてくれているのです!


「時に魔王くん? どうだい? 暇つぶしにひとつ、私と勝負をしてみないかな?」


 ……と、ここまでセシリアを褒めるような言葉を連ねてきた訳ですが……彼女にも当然悪いところはあります。

 天才ゆえの宿命でしょうか……空気が読めないというかなんというか。

 まぁそんな彼女なので魔王城こんなところに連れてきたら、もちろん魔王さんに戦いを申し込むだろうと思ってましたけど。

 ですが今回ばかりはそのわがままが通ることは無いでしょう。 だって相手は魔王さんですから。

 そう簡単に何処の馬の骨かと分からない少女と戦うなんて格が落ちるような真似はしないでしょう。


「ふむ? ……まぁ良いだろう。 しかし我は手加減せぬぞ?」

「……はえっ!?」


 いやちょーい! 何やってるんですか!?

 案の定「いいのかいっ!」と目を輝かせて喜ぶセシリア。


「いやそのっ……魔王さん!? やめておいた方が……」

「案ずるなアリスよ。 適当に手加減してやるわ!」


 ガッハッハッ! と快活に笑う魔王さんの様子だと、引き下がる様子はなさそうです。

 そういう事ではなくてですね……。


「さぁかかってくるがよい! 我が相手になってやろう!」

「あいわかった。 それでは……これでどうかな?」


 軽い感じで魔法を詠唱したセシリア。

 その詠唱は魔法に少しでも知識があるものならば誰でも知っている基本技魔法火球ファイアーボールでしたが……その威力は留まるところを知らず、堤防が決壊した川の水のような勢いで火力が増していきます。


「なっ……なんだその威力はッ!?」

「さて……受け止めてもらおうか?」


 火球が……放たれる。

 超高温のそれは瞬く間に魔王さんの胸元へと吸い込まれていき……どかーん! といった大きな音とともに大爆発を引き起こしました。


「こほっ……ごほっ! ちょっとセシリア! もう少し周りを考えなさいよ!」

「あぁいや。 すまなかったねアリス。 ただ……被害はないだろう?」

「なっ……何が……起こった!?」


 確かに爆発をしたにもかかわらずひとつの傷もおっていない自分の身体を見て、目を丸くしながら魔王さんが声を上げました。

 まぁ……そうなりますよねぇ。 私だって初めて見た時は腰を抜かしましたもの……ちょっと漏らしましたし。

 訳が分からず困惑する魔王様に、セシリアは毅然として言い放ちました。


「なに、そんなに難しいことではないさ。 ただ火球が爆発すると同時に防御結界を貼っただけさ」

「なっ……」


 ポカーンと口を開ける魔王さん。

 そりゃそうでしょうね。

 だってセシリアが今行ったのは二重詠唱ダブルキャスト類まれなる才能と、血のにじむような努力を手にした神に愛されし者のみが手にすることが出来る。 そう噂されている伝説の力だったのだから。


「まぁなんだ。 魔王くんも死にたくなければ変に人間への危害は加えないように善処してくれたら嬉しい。 痛い目を見たくなければね? 尤も……今の状況を垣間見るにその心配はないだろうが」

「こらっ! セシリア! お客様を脅さないの! ……とにかく。 またのご利用をお待ちしておりますー」


 面倒事が嫌なので、私はセシリアを連れて逃げるように魔王城を後にしました。

 色々と問題はありましたが……今日の仕事は完了致しました。

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