どうも初めまして。 異種族通訳者のアリスと申します!

『ふっふっふっ! 遂に我が居城に辿り着いたか! 無謀にも我が前に立ちはだかる勇者よ!』


 魔王城の最深部。

 辿り着いた勇者さんに向かって、玉座に深く腰をかけたまま高慢にも魔王さんが言い放ちます。


『へっ! 生憎俺はお前を倒すために剣を学んできたからな! ここで怖気付いて引き下がる訳にはいかないぜ!』


 威圧する魔王さんに全く気負いせず、勇者を名乗る青年が悠然と剣を構えました。


『ふんっ! その意気や良し! ならば全力でかかってくるが良い!』

『おっしゃ! 行ってやるぜぇぇぇ!』


 魔王さんが玉座から立ち上がったのを合図とばかりに、勇者さんが勢いよく斬りかかった!

 その攻撃は魔王さんの胸元へと綺麗に吸い込まれて……直撃すると同時に、魔王さんの厚い胸板によって弾かれます。


『はぁ!? そんなバカなッ!?』

『ぬうん! 出直してこいッ!』


 渾身の一撃を簡単にいなされて、呆然とする青年のボディーに向けて放たれる魔王のカウンター。

 まともに対処出来ずにクリーンヒットしたボディーブローに、勇者の青年は近くの魔法陣(転移先はランダム)に吹き飛ばされて、魔王城から追い出されるのでした。


 ……あぁ。 勇者が敗北してしまいました……。

 この決戦によって我々人間は魔族に支配され……私たち女はオークに蹂躙されることに……よよよ……。


「アリス! 今回は素晴らしい一時であったぞ! これが初仕事とは思えぬ……実に大義であった!」


 ……なんて事にはなるはずも無く。

 ホカホカとした笑顔で私の前へと歩み寄ってきた魔王に、私は笑顔を浮かべて返します。


「いえいえ魔王さん。 本日は私『異種族通訳者』を指名していただきありがとうございました」


 きっちり90度。

 綺麗に腰を曲げて礼を述べる私なのでした。


 ★★★★★


 言葉というものは我々の生活を豊かにしたが、それと同時に文化間での溝を深めてしまった。

 これはとある著名な小説家さんが口にした言葉ですが……本当にその通りです。

 人間と魔族。 大きく分けられるこの区分の中でも、種族間によっては言語に違いが生じております。

 例えばゴブリンとオーク。 生活区域が近い両者であるため、使用する言語の雰囲気は割と似通っていますが……それでも文化の違いなどによって、多少の軋轢が生じます。


 もちろん人間にも魔族にも公用語も存在しておりますが、全ての種族がそれを習得している訳ではありません。


 そして……そんな状況下の中、ひとりの少女が立ち上がりました。

 才色兼備で品行方正。 神様から賜った固有能力スペシャルの『通訳者』で異種族間の通訳を担当する美少女。


 どうも初めまして。 異種族通訳者のアリスと申します!

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