第5話 外へ

 俺の言葉を聞いたキョウコさんは、一瞬表情が明るくなった。しかし、またすぐにうつむき、申し訳なさそうに言った。


「…これ以上、君を巻き込むのは申し訳ないよ」

「何言ってるんですか。このループを突破しないことには、俺だってずっと閉じ込められたままなんですよ」

「そ、そっか…。じゃぁ、お言葉に甘えちゃっていいのかな…?」


控えめにそう言った彼女の表情に、一瞬心臓の高鳴りを感じた俺は思わず彼女の手を握ってしまう。


「抜けましょう! このループを!」


 そうして俺達の戦いが始まった。そこから何度も彼女を生かそうと奮闘したが、理不尽な死は彼女を逃がそうとはしなかった。ビルの屋上に逃げればビルの倒壊が起き、地下に潜れば地盤が緩む。どこまで行っても必ず彼女は命を落とした。


 そうして、七十回目のループの日。いよいよ彼女は諦めてしまった。


「ユウマくん。もう、いいよ。こんなことに付き合わせちゃってごめんね」

「…いえ、俺は別に…」


この運命に抗うことはできないのかと諦めかけたそのとき、あるひとつの方法を思いついた。


「キョウコさん、もう一回だけ俺にチャンスをいただけませんか?」

「え?」


 そして迎える七十回目の午後七時五十分。俺たちは最初に出会った交差点のど真ん中に立っていた。


「ちょ、ちょっと、ここは一番危ないんじゃないかな…?」

「そうですね。きっと車に轢かれるでしょう。でも、というのが大事なんです」

「え、え? どういうこと?」

「ビルの崩壊には太刀打ち出来なくても、車がまっすぐ突っ込んでくるだけならなんとかなるかもしれないということです。とにかく俺から離れないでください」


困惑する彼女の手を取り、俺はこれから突っ込んでくるであろう車に備える。時刻が十九時五十七分になった瞬間、猛スピードで軽トラックがこちらに向かって走ってきた。俺は彼女に一言「ごめん」と言った後に彼女を突き飛ばし、間一髪のところでトラックを避けることに成功する。すかさず、彼女の元へと駆け寄り安否を確認する。


「いきなり突き飛ばしてごめんなさい。大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だけど… あっ! 後ろ!」


唐突に現れた消防車が俺の背後から突っ込んできた。彼女を抱えて、またしても間一髪のところで回避に成功する。時刻は十九時五十九分。あと数十秒耐えることができれば彼女を救うことができる…! そう思った刹那、エンジン音を轟かせた大型バイクが彼女に向かって猛スピードで走る。俺は咄嗟に彼女の腕を引き、身代わりになる形でバイクを受ける。


「ユウマくん!!!」


バイクに付き飛ばされた宙に浮いた状態の俺の視界には、俺に向かって手をのばすキョウコさんと、その彼女に向かう複数の車両とが写っていた。

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