第4話 ループの原因
しばらくの沈黙の後に、彼女は絞り出すように記憶の断片を口にしていった。
「うーんと…、ハッキリと覚えているのは、ずっと挑戦していた漫画の賞を受賞して…そして、そのお祝いにってことで友達と小旅行に行こうとして…」
彼女が思い出そうとしている横で、俺も自身の記憶を辿ろうとしていた。ループに入ってからその直前の記憶が非常に曖昧になっており、何度思い出そうとしてもなかなかハッキリと思い出すことができていなかった。
「それで、どっかの温泉に行こうって決めて…。でっかいバスに乗って…」
「…あれ、俺もバスに乗っていたような気がするなぁ」
彼女の言葉に刺激されるように俺も記憶の輪郭をつかみ始めていた。
「それで…それで…、日が落ちてバスの中で寝ようと思ったときに…」
彼女が繰り出す言葉によって、ついに俺はループに入る直前のことを思い出した。同時に彼女も思い出したようで、俺達は「あっ」と声を出して顔を見合わせた。
「「落石事故が起きたんだ」」
俺たちは意外な共通点に驚きながらも、更に情報の解像度を上げていく。
「わ、わたしは落石事故だって認識してからすぐに目の前が真っ暗になったから、即死だったのかな。 …いや、これ自分で言うの怖いな」
「俺は…落石に直撃したバスが崖から転がり落ちて、何もかもがめちゃくちゃになっている光景を目にしながら、瀕死の状態だったと思います。痛みを感じなくなる程度には身体中やられていたと思うので…」
当時のことを思い出して、げっそりとする俺とキョウコさん。そして、彼女はあの瞬間を思い出すように目を閉じて、つぶやいた。
「私は心の底から『死にたくない、死にたくない』って思って…『このバスに乗る前までやり直したい』って思ってた」
「もしかしたら、その強い思いがこのループを引き起こした原因につながっているかもしれませんね。念願の賞を受賞したというなら尚更『やりなおしたい』と思ったでしょうし」
「だとしたら、どうして君も同じループの中にいるのかな? 君も何かやりなおしたいと思ったの?」
「それが、なんにも思い当たらないんです。正直言って、あんまり生きることにも執着していなかったですし、やりなおしたいとは思わなかったんですよ。だから、多分、生と死の境目でフラフラしていた俺はキョウコさんのループに巻き込まれただけなのかなって考えています。まぁ、仮説の域は出ませんけどね」
彼女は申し訳なさそうに肩をすくめた。俺は悲惨なループに閉じ込められている彼女を助け出すことができるかもしれない唯一の方法を思いつき、彼女に伝える。
「もしかしたら、このループはキョウコさんの『死』がトリガーになっているのかもしれません。だから、死なずに二十時を越えることができれば、何かが変わるかもしれません!」
「でも、今まで何回も試してきたけど、全部駄目で…」
「大丈夫です。今度は、俺がいます。二人でならきっと変えられますよ!」
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