第3話 絶対に死ぬ女
彼女が轢かれた交差点にたどり着いた俺は、彼女の姿を必死に探した。時刻は九時五十七分を指しており、約束の時間までは残り三分。
約束の時間を十分ほど越えてから、彼女はついに現れた。服装は前回と同じくオーバーサイズの白いTシャツに、黒いスキニーパンツ。顔を隠すように深く被ったキャップにポニーテール。まるでお忍びデート中の女優のような姿の彼女は、俺を見つけると手を大きく振りながらこちらに向かってきた。
「おーい! 本当に来てくれたんだね!」
彼女は俺の前まで来て立ち止まり、顔を覗き込んできた。恐ろしく整った目鼻立ちから、半分冗談で思いついた「お忍びデート中の女優」という表現があながち間違いでもなかったのかもしれないと思った。
「君は…二十歳くらい?」
「十九なので、ほぼ正解ですね」
「お、やっぱりそれくらいか。名前は?」
「俺は、ユウマです」
「ほうほう、ユウマくんね」
俺の顔をジロジロと見ながら質問をしてくる彼女は、聞いてくるばかりで自分のことを何も語らなかった。
「あの、俺も名前をきいてもいいですか?」
「あ、ごめんごめん。私はキョウコ。今年で二十七だから、年上のお姉さんだね」
「キョウコさんは、このループのことを何か知っているんですか?」
彼女は俺の質問に一瞬驚いたような表情をし、目をそらす。
「…実を言うと、ほとんど何もわからないんだ。ただ、一点だけ毎回のループでの共通点があって…」
「共通点?」
「うん。二十時になると、私は必ず死ぬの。交通事故とか、重たいものが振ってきたりして、必ず死んじゃうんだ」
前回のループで彼女がトラックに轢かれる姿がフラッシュバックした。言葉を失っている俺を一瞬見てから彼女は話を続けた。
「いろんな手を尽くして回避しようと思ったけど、駄目だったよ。幸いに痛みは感じないけど、さすがに怖くってさ」
そう言って彼女は苦笑いした。何度も同じ日を繰り返すだけでも辛いというのに、それに加えて彼女は死の恐怖とも戦わなければいけない。想像もできないような苦痛から彼女を開放したいと思った俺は彼女に問いかけた。
「このループが起こる直前のことを覚えていますか?」
「ループが起こる直前?」
「はい。何がトリガーになってこのループが始まったのかがわかれば、抜け出すヒントになるかもしれないと思って」
彼女は腕を組み考え始めた。
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