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「一、二、三、四、五……」

 おそらく素振りだろう。

「六、七、八、九、十……」

 何回も木の棒を振る。

 海人の家は裕福ではない。かといって貧乏でもない。けど父親が厳しく、私の勝手な想像だけど、海人の状態からするとバットを買い与えないのだろう。グローブも然り。

 地元の少年野球団に入団したいと言った時は、海人の父親はとても驚いたという。私の父からの情報。

「十一、十二、十三、十四、十五……」

 海人は続ける。

 木の棒をバットに見立てて素振りするとか……、ほんっとバカ。でも仕方ないか、人見知りだし、どもるし。

「十六、十七、十八、十九、二十……」

 私にくらい相談してよ。

 ガサッ。

 そーっと近付いていたのに鳥が草むらから飛び出して、海人に気付かれた。

「「あっ……」」

 海人は少し俯いた。私はなぜか「ボールくらいあるでしょ? キャッチボールしようよ」と言った。

「ボール、ある。百円、ショップ」

 ふにふにの柔らかいボールを海人は手に取った。

「なげる、よ」

 海人は優しくボールを私に向かって投げた。私はそれをキャッチすると下投げで返した。

「した、なげ、おかしい」

 海人は笑った。ボールは海人に届かずに手前に落ちた。小学六年生の女子はこんなもんなの。



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