14、
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その戦いは、激しさを極めた。
刀がぶつかる音もや銃撃音だけではない。この戦いでは、普段戦場には出ないニホンオオカミや犬たちが参戦しているのだ。オオカミの唸り声や、犬たちの遠吠えがそこかしこから聞こえる。普通ならばいない存在に初めは戸惑い逃げていた武士の霊達。その隙に金秋や影葵が近づき、斬りこむ。それが上手くいっていたが、すぐに相手も対応をし始める。犬たち1匹ずつを数人で囲み攻撃するのだ。その分時間はかかるが、確実に仕留めるできるという作戦のようだ。それが上手くいき、犬たちの数が刻々と減っていく。
『金秋さん、犬たちは大丈夫なんですか?』
「対幽霊退治に作られている武器じゃないんだ、消滅したり成仏することはない。消えたとしても、しばらくすればまた出てくる。安心しろ」
『痛くはないのかな』
「全くの痛みや恐怖がないことはないだろうが。気にするほどではないだろう」
「自分の怪我の心配したら?結構やられてるんだけど!」
『それなら我慢する。俺は何にも出来てないんだし』
金秋と影葵と会話を交わす。金秋には余裕があるようだが、影葵は疲労からか大分苛つきが見られる。それに相手にしてみれば、戦い慣れた相手であるし弱っているのだから標的になりやすいのだろう。
大怪我ではないが、先ほどから腕や足など軽く斬られている。その度に火傷のような鋭い痛みを感じる。その度に痛みで声が出そうになるが、相模は歯を食いしばり必死に声を殺した。先ほど自分でも言っていたが、自分はただ体を貸しているだけで戦いには何の役も立てていないのだ。それなのに、多少の怪我を負ったぐらいで声を上げて影葵に迷惑をかけたくはなかった。それに犬たちも恐怖に負けずに立ち向かっているのだ。自分だけ痛がるわけわけにもいけない。
それに、自分だって金秋の役に立てるところを見せたかった。
『金秋。いや、人斬り鍬二郎よ。何故、私たちを狙う。私たちは戦いしたいのだ。過去の事にしたくないのだ。だから、もう放っておいてはくれないか』
「何故、戦い続けなけばいけないのだ」
敵の中心にいた人物が、大声を上げて金秋に話しかけてくる。それに、金秋は刀を構えたまま、冷静に問いかける。だが、相模には初めて聞く名前を耳にすることになる。人斬りの鍬二郎。その名前を聞いて、相模はハッとした。先ほど図書館で調べた時に見た覚えがあった。幹部にまであがったが、途中で新選組を抜けた男だ。暗殺などをする仕事が多く、人斬りと呼ばれるほど強かったという部分がひっかかり覚えていたのだ。確か、本名は……。
『大石鍬次郎』
相模が思わず名前を呟く。と、金秋は驚いた表情でこちらを見つめ「なんだ、おまえも気づいていたのか」と、苦笑い、いや少し悲しげな微笑みを浮かべた。
「私は新選組の大石鍬二郎である。訳あって新選組を脱したが、それは訳あっての事。まあ、それを理解してもらおうとは思ってはおらんよ」
『ならば、私たちも同じこと。理解してもらおうと思ってはいない。私たちは武士として生きたい、幕府を守りたいだけである』
「武士も幕府も、今の世には無いのに、何を守ろうというのだ」
『うるさい!私たちは、そのために生きてきたの。死んでもなお、想いは生き続けてきたのだ。それは誰にも邪魔させん』
「それは私も同じ事。私が受けている命は、幕府軍に安らぎの死を与える事。もう戦う必要はないとの命令である」
『……命令だと?それは何の話である。誰がそんな事を』
「秘匿事項だ。だが、一つだけ言える事があるとすれば、おまえたちはここで俺に斬られるのが一番の幸せであるという事だ」
言い終わると同時に、金秋の体は突風のように早く移動していた。
そこからの動きはまさに神業であった。一人目は、相手が気づいた頃には眼前に移動しておりあっという間に首を斬られていた。そのまま体を横にずらして、今度は二人目の心臓を一刺し。近くの敵が音もなく近づいていたのに気づいた金秋は片足で相手の体を蹴り倒し、よろめいた隙に刀を抜き、そのまま大きく体を斬り抜いた。立て続けに3人の武士を斬り続け、敵も味方も度肝を抜かれる。相模も驚きから目が離せなく。だが、それでも金秋の動きは止まらない。
「私を狙うのか構わない。いくらでも相手してやる。だが、あの男は関係ないであろう。何故、直接私を狙わない」
『仲間を狙うのは当たり前だろう。しかも、弱者であれば尚更』
「弱者だって。言わせておけば……」
その言葉に反応したのは、かなり疲れが見えている影葵だった。そして、それに同調したのが、体を貸している相模である。
『今、弱いって言った奴のところへ行ってくれ。戦えるだろ』
「当たり前だ」
『迅も行くぞ』
「ワンッ!!」
「おまえらは、そんな事で自棄になるな……」
呆れたような声でそう言う金秋であったが、表情はどこか明るい。
それを見るだけで、相模の気持ちも上がってくる。金秋は共闘することを嬉しいと思ってくれるのが伝わってくるのだ。
「さて、終わらせよう。もう武士が戦う時代はおしまいなのだから」
金秋の言葉と共に戦いが再び始まった。
その後の戦いは一方的とも思えるほど圧倒的であった。だが、敵とて諦める事はなかった。
それが武士の戦いなのだろう。誰もが刀を握りしめ、恐怖を感じながらも戦場に立っている。そして、死んでいてもなお生きたいという思いから戦っている。けれど、終わらない戦いなどない。
「……おまえが最後の一人か」
『何故、何故私たちをまた殺そうとするのだ。本当に裏切り者なのか』
「違うと言っているだろう。そうだな、では最後に教えてやろう」
最後に残った武士の幽霊は、先ほど金秋に話を掛けてきた男であった。激しい戦闘で傷ついており、ボロボロになっていた。斬り口から、黒い靄のようなものが出ている。それは金秋が幽霊を斬った時に出るものと同じ。そう、この最後に残った武士にも再び死が近づいていたのだ。
「今は陰妖士と名乗っている。迷える武士を助ける者だ。だから、安心して眠るがいい。おまえの想いは俺が持っていてやる」
先ほどよりも優しい口調になった金秋をみた敵の腕の力が抜けた。それを見た金秋は、刀を大きく振りかぶり一気にその男を斬り落とした。
夜よりも濃い闇の霧が金秋を囲みながら、空へと昇っていく。
それを皆が見上げ送る中、相模は金秋の姿を見つめる。
すると、その横顔はいつもみるものとは少し違う、清々しさと明るさを感じさせるものに変わっていた。
笑みさえを浮かべる金秋の横顔を見て、相模も何故か誇らしい気持ちになった。
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