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 新選組。

 幕末の戦乱の世を生きた武士の集団。

京都の治安維持のために、街を守っていた武士達で、新政府軍と幕府軍との争いである国内最後の内戦、戊辰戦争にも巻き込まれて行く。

 現代では、小説やアニメ、ゲームなどのキャラクターにも新選組の隊士達は取り上げられどれも人気を博している。歴史に詳しくない人であっても新選組ならば知っているものも多いだろう。その1人が相模であった。隊長の近藤勇や副長の土方歳三、沖田総司に永倉新八、斎藤一など、名前だけであれば相模でも知っている歴史上の人物が多いのが断トツで新選組であった。ドラマで見てこともあったため、戊辰戦争という名前も知っている。

 歴史は学校の授業で学んだ程度の事しか知らない相模であっても、それぐらいは知っているのだ。

 新選組の日本国内での知名度はかなりのものであろう。


 金秋はその新選組の一員だというのだ。

 あの有名な剣や武道の達人達が集まっていたという集団。そんな新選組の一人であった。

 信じられない?そんな事はない。今、まさに彼の戦いざまを見ていたが、鬼気迫る勢いで刀を振り回し、全身を使って敵に対抗する。誰もがその動きに翻弄され、あまりの早さと圧倒的な剣術で、相手が追撃する暇もないほどに洗練された動き。それを目の当たりにした相模は、金秋が新選組の一員と言われても納得するしかなかった。

 彼はあの日本史の授業で使われる教科書にも載っているような日本の歴史に残るような隊に所属していた、歴史上の人物なのだ。

 新選組の金秋。

 有名な浅葱色の段だら模様が描かれた着物を着ていたのだろうか。それとも軍服を着て戊辰戦争を戦ったんだろうか。



 宇都宮城址公園での幽霊の戦いの後。

 気丈にふるっていた金秋だが、シャワーを浴びた後に泥のように眠ってしまった。

 髪も乾かさずに、彼には珍しく着物も肌蹴たままにベットに体を横にしている。そして、当たり前のように呼吸は苦しそうだ。彼の腕の中には当たり前のように、彼の愛刀がある。どんなに苦しくても彼は自分の肌から離さないのだ。

 けれど、今は少し違っていた。刀が増えているのだ。片手で扱える脇差。先ほどまで相模が持っていた、いや、持たされていた刀だ。それを、金秋は自分の懐に収めながら寝ているのだ。

 理由なんて考えられるのは、1つしかない。

 相模がその脇差を怖がっていたからだ。自分の動きを抑え込まれ、自分の考えとは異なるのに、刀はそれを許さずに、相模の体を使ってかつては人だったものたちを斬っていた。

 また刀の力で勝手に誰かを斬ってしまうのではないかと恐れていた。そんな相模の気持ちを金秋は察して預かってくれたのだろう。そんな事は一言も言わないので、彼の本心はわからない。

 だが、きっと彼ならば、そんな行動をとるだろう。そう、相模にはわかってしまっていた。

 不器用だけど、所々で見られれる優しさを相模は知っているのだ。


 新選組と呼ばれていた、正体不明の勝気だけれど心優しい金秋という武士。

 汗をかきながらながら眠る彼を見つめて、相模はホテルに置いてあったタオルを持って近づいた。

また、刀を取られるかと勘違いをして斬られそうになるかもしれない。けれど、大丈夫だと今はわかる。

 大声で怒っていたとしても、彼は自分を斬らない。斬るはずがない、とわかってるから。


 相模は、ゆっくりと彼に近づき、金秋の顔に着いた汗を拭う。

 その汗は顔だけでは足りず、首まで垂れている。が、そこを拭う事はもちろん出来ない。お風呂上がりであっても眠る時であっても、首を隠されていた。もう一度、その傷口を確かめたい気持ちもあった。だが、彼の知らないところでこっそりと盗み見るのは申し訳ないし相模ももちろんしようとは思わない。

 汗は顔だけしか拭えていないが、彼が刀を抱いて寝ているのだから体を拭けない。予想外に彼は深い眠りにつくことが出来ているようだった。ならば、呪いで弱ってる体を、少しでもいいから休ませて回復して欲しかった。


 が、金秋から離れようとした瞬間にあるものが目に飛び込んできた。


「な、何だこれ………」


 肌蹴た着物もから見えた傷だらけの肌。

 そこには無数の蛇の鱗柄がついていた。まるで、蛇に締め付けられているように、赤黒い色の跡が見えたのだった。




『もう、そこまで進行してしまってますか』

「どうすればいいですか!?」

『どうせ無茶な事をしたのでしょう。体力を大量に消費すれば、呪いが体を蝕むのも早くなるのです。もう仕事をしたんですか?』

「はい。今日は宇都宮城址に行ってきました」

『何で今、この状況でその場所を選んだのですかね』



 呆れた声が電話口から返ってくる。

 蛇の鱗跡を見つけた相模は、急いで斎雲へと電話をしたのだ。

 人外の呪いについて、透明人間も治らない相模に対応出来るはずものない。藁にも縋る思いで、電話をしたんだが斎雲はすぐに電話に出て、そして暗く声を落とした。

 やはり、良い状況ではないらしい。


「………やっぱり、俺に出来る事はないですか?」

『はい。私が帰えるまで、これ以上無茶な事をさせないでください。次は斬られてでも止めてください』

「斬られたら、止められないんですけど」

『それぐらいの勢いで止めて欲しいということですよ』

「わかりました」

『相模さん、あの刀を使いましたね』

「………え」



 突然の斎雲の言葉に、相模は思わず声を失った。

 彼に一般人では考えられないような力があるのは理解していたが、まさか電話口であの脇差を使った事を指摘されるとは思っていなあったのだ。だが、その時にその脇差は斎雲が術を施したものだと金秋が話をしていたのを思い出した。


「……すみません。あの刀、斎雲さんが準備してくれたものなんですよね?」

『いざとういために準備したものです。そして、それは使うためにあるもの。私に謝る必要などないのです。ですが、その刀を抜いたという事は、………相模さんも大変な思いをしたでしょうね』

「そう、………ですね。でも、刀を使う覚悟はしていたので、それはもう自分の中で見切りをつけなきゃいけない事なんですけどね」

『すぐに自分がやった事を認めて生きていける人間はいません。ですが、あなたがやったことを否定してはいけません。戦いとは自分の義を見失った方が負けなのですから』



 自分の義。

 その言葉は先ほども聞いた。相模自身の義とは、幽霊を斬ってまで叶えることだったのだろうか。


 斎雲は、相模が脇差を使った時の状態を話すまでもなく、理解していたようだ。斎雲は、刀を抜いた瞬間、その脇差がどうなってしまうのかわかっていたのだろう。



『その脇差は私が作った妖刀「#影葵__かげあおい__#」というものです』

「妖刀、影葵」

『刀自体は無名刀なんです、刀に込めた霊があの力を持っています。あの武士は昔に生きた武士なのですが、金秋さんと同じぐらいの剣術を持っていました。そして、忠誠心も人一倍強かったようでしてね。死してなお戦いたいと思っていたようだったの、私が刀によの魂のようなものを宿したのです』

「それは、徳川家への忠誠心ですか?金秋さんと同じ新選組の一員だったんですか?」

『………金秋さんから聞いたんですか?』



 少しの間があった後、斎雲はいつもと同じ優しい口調で質問してくる。が、相模には普段より影のあるように思えてしまう。

 こちら側におまえは来る資格があるのか?と、問われているようだった。


「………いえ、襲ってきた武士の霊が金秋さんの事を新選組と呼んでいて。斎雲さん、それって本当なんですか?彼が、新選組だったって。それが本当だとしたら、金秋さんはどうして現代も生きていんですか?」

『金秋さんに自分でお聞き下さい』

「………」

『彼が話してない事を、私から話すわけにはいきません』

「そう、ですよね」



 自分でも彼から話してくれるまで待とうと決めていたはずではないか。だが、もう少しで答えが出るとわかった瞬間、焦ってしまった。自分の気持ちを我儘さを恥じて、相模はもうそれ以上斎雲に聞こうとするのを止めにした。


『あと数日でそちらに戻ります。宇都宮にまだいる予定ですか?』

「わからないです。金秋さんは北に行くというだけで」

『わかりました。場所を移動したらすぐに連絡してください。そして、金秋さんをよろしくお願いします』



 金秋の過去の話はおしまいと言わんばかり、話題を変えた斎雲。

 始めに話題を変えてしまったのは相模なのだから、仕方がない。それに、今は新選組の話をしている場合ではないのだ。

 金秋の呪いを悪化させないのが1番の問題なのだ。


 けれど、相模の頭の中には、昔ながらの木造の家々が並ぶ夜の街を刀片手に、袴を翻しながら颯爽と走る金秋の姿がいとも簡単に想像出来、浅葱色の羽織がとてもよく似合う、なんて思ってしまうのだった。




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