7、





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「迅、行け!」


 相模が驚いている間、金秋が迅に向かって指示をとばした。迅は、即座に反応し手前の男を押し倒す。その後、すぐに後方にいた男たち向かっていく。男たちは一様に驚いた表情を見せた後、突然出てきたオオカミから逃げようと家の中を右往左往していた。だが、何故か男たちは逃げようとはしない。迅から逃げつつも、部屋から出て行くつもりはないようだ。



「丁度いい。話しを聞いてから始末してやる」



 言い終えと同時に金秋は床を蹴り、あっと言う間に手前の男の間合いに入り鯉口を切り、刀の先を転がっている男の顔のすぐ傍に床に刺した。

 男の表情は一気に歪み、口をパクパクとしている。だが、恐怖のあまり声が出ないようだ。



「おまえたち、何故勝手に家を作ろうとする」

「………」

「見た所、ひと昔前の鳶職の服装と見える。何故、この家を作ろうとする。目的はなんだ」

「………」

「何故話さん」



 苛立ちを見せ始める金秋とは対象的に、男たちは恐れながらもまっすぐ金秋の方を見ていた。その視線が何か訴えるものがあるように感じた相模だが、彼らが何を伝えたいのか理解は出来ない。

 というか、幽霊を見れるようになったのも、つい最近の話だ。見えるだけでもまだ信じられないのだが、何故か今はこの幽霊の思いを知りたいと思ってしまう。どうしてそんな気持ちにさせるのかもわからない。けれど、声を聞いてみたいと思ってしまうのだ。

 それが、目の前の幽霊と思われる男たちが、恰好は昔のものでしかもボロボロだけれど、顔や体格は人間と同じ。もちろん足もある。どうみても、ただ昔の人だというだけで普通の人間なのだ。だから、気になるのだろうか。


 と、幽霊たちが逃げまどったり、金秋に何かを訴えようとしている幽霊を、ただ憐れんだ瞳で見る事しか相模は出来なかった。

 そんな相模には目も止めるはずもなく、金秋はまた言葉を続けた。



「話さないのなら致し方ない。悔い改め、もう一度世に生き返る事を願うがいい」


 

 金迅は持っていた刀を大きく振りかぶって、雷の如く素早く青白く光るそれを振り落とした。金秋の近くに居た霊は目を閉じてそれを恐々と受けれようとしているのが、相模にはスローモーションのように見えた。その瞬間「ダメだ」という声と「生きたかった」という懐かしい声が脳裏によぎった。



 気づくと、相模は金秋の刀に斬られていた。

 いつの間にか勝手に体が動き、大工姿の男性と金秋の間に体を割り込み、手を広げて霊を守るように構えたのだ。斬られる恐怖から目を瞑ってしまったが、金秋の息を飲む音が聞こえた。


 キンッという音が辺りに響いた。

 人も幽霊もオオカミも動きを止めて、刀によって傷つけられた床の傷、そして相模の体を見つめていた。

 前回で、自分は彼に斬られても平気だとわかっていた。それでも、やはり斬られる瞬間は倒れてしまうのではないかと思うほど位に恐怖を感じる。目を細めて、上を見ると金秋の切れ長の黒光りする瞳がゆらゆらと揺れている。

 だが、それは一瞬のことだった。



「おまえという男は、余程我に斬られたいらしいな」



 ドスの効いた瞳と同じぐらい真っ黒な声でそう言うと、持っていた刀を鞘に収め。もう1本の刀に手をかけた。



「こちらの刀で斬ってやる。こちらなら生身の首もおまえが気づかぬうちに体から切り離されるからな」

「ちょ、ちょっと待ってください!俺だって斬られるのは嫌いです。というか、好きな人間はいませんよ」

「否。死ぬ場所を探すために斬られにくるものはいるだろう」

「だから斬るなんて、ただの殺人者じゃないですか!」

「求められているから斬る。それが何が悪い」

「悪いに決まっているじゃないですか!!」



 大声で出し、その勢いのまま立ち上がる。

 刀を今にも抜こうとしている金秋に詰め寄ると、彼の視線に合わせるように少し見上げる。

この男はどうして、意図も簡単に人を殺める武器をふるい、簡単に「斬る」と言ってしまうのだろうか。

 それがどうしても理解できなかった。

 そして、どうしてそんな彼を理解しようと思ってしまったのか。自分の愚かさにも苛立っていた

こんな殺人者のような思考を持つ男の気持ちなど理解できるはずもないのに。



「俺は斬られたくない。死にたくないです。だけど、金秋さんは俺が前に出てきたから斬られたいと思ったんですよね。俺は、この霊たちの気持ちも知らずに斬ろうとしたから止めたんです。この人達が何で家をつくってたのか、理由をききましたか?」

「話さなかったではないか。やましい事があるからに決まっておろう!」

「話せないんじゃないですか」

「…………なんだと」



 金迅は小さく驚きの声を上げた。ゆっくりと首を後ろに向けた相模は、その言葉を確かめるように斬られる寸前であった男を見る。すると、男は小刻みに首を縦に振っている。

 どうやら、相模の考えがあっていた。


 金秋に斬られるのは恐れて逃げ周っている。それなのに、この家からはでていこうとしない。そんな彼らの行動から、相模は彼らは何かしたいこと、それか伝えたい事があるのではないか、と考えたのだ。


 だが、彼らはどうやら何らかの要因で言葉を口にする事が難しいのだろう。

 そして、相模と金秋には彼らの真意を知れる術はないのだ。どうしようもない。

 それに、背後からは怒りのオーラを感じられる。金秋のピリピリとした雰囲気から「じゃあ、どうするのだ!」というお怒りの声と剣先が向けられているのを肌でひしひしと感じられるのだ。



「さすが、金秋さんの相棒ですね。よく喋れないと気づきましたね」


 ピリついた雰囲気を一瞬で変える穏やかな声が、玄関の方から響いてきた。

 視線を向けなくてもわかる。相模にとって、たぶん救世主である。



「斎雲さん!」


 そこには依頼主である不安そうな表情の高山と、面白いもを見られて楽しんでいるんだろう、斎雲が立っていた

 これで解決出来る、と思いつつも実はこの2人は少し前からここに来ており見物していたんではないか、と疑念を持ってしまう。昨夜の斎雲の行いのせいで疑心を持ってしまうのだ。


「今、来たばかりですよ」

「……だから、どうして俺の考えている事がわかるんですか」

「おや、やはり疑っていたんですね」

「もういいです。それで、斎雲さん。見ての通り、河童ではなく人間の幽霊だったんですけど

、声が聞こえなくて……」



 斎雲は全て知っているとは思いつつも状況を説明しようとした。

 けれど、それを遮り斎雲は驚きの発言をした。





「相模さん、この人達は河童ですよ」






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