0ー1

時刻的に考え、今は子の刻を過ぎた頃だろう。外は暗闇と静寂さで包まれている。

普段なら、彼女も寝静まっている時間だというのに。


今宵は遅くまで起きている…。



「はぁぁ、困りましたね。これでは私が、父君であらさる“龍詠”(りゅうえい)様に怒られてしまいます」



龍詠…。


神々の寵愛を受けし、神影家を束ねる総帥であり秋夜の父親。

神影家は平安京から続いている旧家。



「確かに、私は幼い頃から体が弱いわ。けれど、もう十六よ?父上は心配し過ぎなのよ…」



「…」



「『夜風は体を冷やす』とか『早く寝なさい』とか…私は子供じゃないわ…」



怪訝な表情をして秋夜は吐いた。



――…神影 秋夜。


龍詠の愛娘であり、幼い頃から体が弱く、外出などを制限されている。


だから…。


ほんの少しの我が儘を言ってみた。


由緒正しき家系に、生まれた令嬢だからといい、通じないのは解っているが、しかし、今宵は、あの、桜を、眺めていたいのだ。


それは、立派な理由にならないのか。


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