桜木漏れ日ー君が想う、華の季節

黒薔薇 隗斗(こくふうび かいと)

プロローグ

――…春。



斯々の著名人が詩に残す季語で草花が芽吹く季節でもある。

代表的なのは、日本古来の象徴とも言える桜だろうか。


こぞの桜も綺麗だったが、今年の桜は艶なり… 。



「秋夜様、夜風に当たり過ぎては…お体に障ります故に…」



女侍が襖を閉めようと、立ち上がった。



「…あ、駄目」



「お体に障ります…」



「駄目、閉めないで!」



日本人特有の黒い髪は腰まで伸びており、円らな瞳は少し人と異なっている。

襖を閉めようとした女侍を止めた女性は単の袖から白い手を露にした。



「秋夜様、夜も遅い時間で御座います。何時までも夜風に当たっていては…」



「閉めないで…お願い。卯月」



何故に彼女が『閉めないで』と懇願するのか、卯月には解らなかった。


ただ、儚げな表情が何とも言えぬ言葉を表していたのを女性は思い出す。


今から、綴られるのは、十六歳の少女が見えぬ者に恋をした物語。


それは、必然なのか。



偶然なのかは解らない。


ただただ、お想い寄せる…。


恋の物語。




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