第10話 作戦 破

「こいつやべえ」



やあみんな、俺だ。今は公爵令嬢を助け出したはいいものの、扉を開けて目が合った瞬間、一回フリーズしたあと、俺の顔を見ながら何かぶつぶつ小さな声で言っていたが、だんだん声が大きくなっていって、もはやすがりつく勢いだ。


気持ちはわかる。きっと不安で、怖くて、寂しかったのだろう。死の恐怖さえ感じたことだろう。


「t、と、とりあえずいったん落ち着いてください。だ、ダーリン?王子様?とは?」


「王子様は私の王子様ですわ!ダーリンも私の、私だけのダーリンですわ!勇者様の事ですわ!」


「意味がわからん。」

そんなキラッキラした目で俺のこと見ないでおくれ。


「あー、ユーフェリア様?とりあえずここから出ましょう。いつ門番が来るかわかりません。」


「いやですわダーリン。ちゃんとユーフェリアと、呼び捨てで呼んでくださる?」


「い、いやちょっとハードルが高いかなと思う次第でございまして……」


「だめですの……?」


ユーフェリア様は目をうるうるさせながら上目遣いで俺を見る。

そんな目で見ないでください男はその目に弱いのです。殿下マジでおバカさんでしょこんなかわいい子との婚約を破棄するなんて。


「まあ、なんというかですね、あのですね、呼び捨てはハードルが高いので、ユー様とかどうでしょうか……?」


「へたれ」


「ぐぅ」


ユー様は頬を膨らませてぷいとそっぽを向く。



「はい、もうへたれでいいですから、出ますよ。」


「わかりましたわ。」


ユー様の手を支えながら牢屋を出る。出る途中に、寝てしまった門番から鉄剣を拝借する。


「ダーリン、盗みはいけませんわよ」


「盗んでおりません。拝借しているのです。」


「拝借?」


「ええ、かえしにきますよ。いつかね。」


木剣のままはさすがにきつい。


光源を回収して、暗い階段をユー様と上る。この階段をのぼって扉を開けたら城の関係者に見つからないようにしなければならない。あのメイドが爆発を起こすらしいが一体いつ爆発させるのだろうか。


扉を少し開けて左右を確認する。人はいないようだ。


「大丈夫そうです。ついてきてください。」


ポケットからメイドからもらった脱出経路の書かれた地図を確認しながら音を立てずに歩く。


「そこの丁字路を右ね。」


壁に体をそわせながら、少し顔を出して人がいないか確認する。


「・・・・・・なんかいっぱいいるんだけど。」


丁字路の右も左も衛兵がところ狭しと並んでいる。まるでネズミ一匹たりとも通さない様相だ。



「どうかしまして?」


「いやね、なんかばれてるっぽくて。」


「ええ・・・ちょっと私も確認いたしますわ」


そういってユー様も自分と同じように壁に体を沿わせて少し顔を出して確認する。



「・・・・・・いっぱいいますわね」


「いっぱいいますよねー」




「そこまでだ!裏切り者めが!」


どうにもこうにも動けずにいると、後ろの通路から傲慢きちな声が響いた。


「誰かが助けに来るとは思ったが、まさか使えないほうの勇者が来るとは思わなかったぞ」


その声の主は殿下であった。こちらも兵を率いてやってきていた。


「おいおい囲まれちまったよ。っていうかそもそもなんでばれてんだよ。」


「なんでばれたかって?教えてやろう。そいつについている腕輪だよ。その腕輪はつけているものの魔力を吸収してつけている者が魔法を使えない様にするのに加えて、その魔力をつかって位置情報をもう一つの魔道具に知らせる機能がついているのだ。」



「なんてこったい」


「そしてその腕輪の鍵はここだ」


見せびらかすように殿下は鍵をチャラチャラと顔の近くで揺らす。


「勇者よ、どうしたんだ一体。その女の色香に惑わされたか?ん?」


そう殿下が話している間にも兵たちがじりじりと自分たちに近づいてくる。

ここはひとつ賭けに出るしかないか。


「は~い、注目!これ以上近づけば、い、ま、か、ら、この城のどこかを、ばくはつさせまーす!」


「な、なんだと!」


なんかテンパってしまって、youtubeの釣りのコメントみたいになってしまったが、今の発言のおかげで兵の進みは止まったようだ。



「いや、まてよ。貴様にそのようなスキルはもっていなかったはずだ。それに加えて日々の訓練で疲れ果てて、なにか細工を仕掛ける余裕もなかったと考えられる。貴様、はったりだな。もういい、捕らえてしまえ。」


再び兵士たちがせまってきた。これは本格的にまずいかもしれない。そう思ったそのとき、いきなり轟音が鳴り響いたと同時に、地面に立っていられないほどの地震が襲ってきた。兵士も殿下も突然のことに驚いて転んでしまっていた。腕輪の鍵も今の衝撃で落としたらしい。


「しめた!さすがメイド!タイミング抜群だな!失礼しますね!」


「きゃっ」


地面に倒れてしまったユー様をお姫様抱っこして地面に落ちた鍵を回収して脱兎のごとく逃げ出す。


「あっ こら!まて!追え貴様ら!追えー!」


後ろからの殿下の声を聞きながら、脱出経路を通って外へでる。










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巻き込まれ転移した高校生とヤンデレ悪役令嬢の逃避行 @mikumo05

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