第9話 作戦 序 悪役令嬢回想
生きる意味とは何だろうか。
今まで何のために生きてきたのだろうか。
私は生まれたときから殿下との婚約が決まっていた。というか生まれる前から決まっていたことだったらしい。。
殿下のためにダンスの練習、殿下のために勉強をし、殿下のために楽器を習い、殿下のために礼儀作法を、殿下のために化粧、背格好、体の体型まで気を使った。
親の決めた結婚、そこには特に文句はなかった。殿下と結婚して、その政務を支えて国を発展させる。それが生まれたときから親に言い聞かせられてきた使命だったから。
それでもつらいものはつらかった。自由時間はほぼなければ親と一緒に食事することも片手で数えるほどで、まして同年代の子供たちと遊ぶこともなかった。両親が自分を愛していない訳ではなかった。何なら多分自分のことを考えての行動なのだろうと思う。
そんな私は本が好きだった。特に恋愛物が大好きであった。元来そのような本は両親に禁止されていて見ることはできなかったが、たまに元公爵のおじいさまや、おばあさま、よくしてくれる使用人たちが誕生日にこっそり渡してくれた。子供向けの本だったが、今でも手元に大切にとっておいてある。
町娘と貴族の禁断の恋、英雄がとらわれたお姫様を助けるお話。特に王子様とお姫様のお話がその中でも大好物であった。自分もこのお話のように白馬に乗った優しくて、強くて、聡明な王子様が迎えに来てくれると信じて疑わなかった。そのように自分を信じさせていた。信じていないとやっていられなかった。
そしてついに、9歳になって初めて殿下との顔合わせが決まった。
両親は張り切っていたし、私も浮き足だっていた。自分の努力がやっと報われる、そう思っていた。
「どうでもいい。そんなことより遊びに行きたいのだが。」
殿下の第一声がそれだった。そう言って自分をほっといて外に遊びに言ってしまった。
信じられなかった。本の中の王子様の姿とはかけ離れていた、かけ離れすぎていた。今までの努力がすべて否定された気分だった。
話によると殿下は毎日王様が雇った家庭教師の授業をサボって毎日遊びほうけているらしい。この年頃の男の子は遊びたい盛りなのはわかるが、殿下は将来国を担う存在になるのだから遊んでいる場合ではないと思った。
その後、国のこれからを担う私たちの婚約パーティーが開かれた。全国から貴族、その子女子息が集まって、私たちと懇ろになろうと話かけてきた。
そのパーティーは王族、自分たちの地盤を盤石にするためにも大切なパーティーだった。
にも関わらず、殿下は何も考えていないのか、上から目線にわがまま放題。上から目線はまだいい、しかしわがままなのはいけない。下のものに示しがつかない。そのように殿下に伝えた
「うるさい!俺は将来王になる男だぞ!おまえは俺の3歩後ろをついてくればいいのだ!」
少しでも期待した自分が馬鹿であった。こんなのでは国が危ない。そう思った自分は自分の作った幻想に蓋をして、行政や経営、帝王学を学び、学園に入ってからも常に勉強ではトップにいることができるように努力を重ねた。
その結果がこの仕打ちだった。まさかここまで殿下の頭が残念だとは思わなかった。
もしかしたらクリフあたりにそそのかされたのかもしれない。あの青髪め。もしこの牢獄から脱出できたら前歯ひっこ抜いてやりますわ!脱出できたらですけれども。
パーティー会場ではデイナに見栄を張って強がりはしたが、正直怖い。不安だ
ここは光がさす事もなければ、風通しがいいわけではない。堅いベッドにまずい飯。
生地の薄い水簿らしい服。水浴びも許されていない。手首には魔力阻害の魔道具がつけられていて、牢から魔法を使って無理矢理出て行く事もかなわない。朝か夜か、牢に何日入っているかもわからない。一週間か一ヶ月か、はたまた一年か。実際は三日ほどかもしれないが途方もない時間をここで過ごしている気がする。
隣を牢を見れば、しゃれこうべがこちらを見ている。まるで次はおまえの番だと言っている様にその頭をかしげている。
大丈夫と自分に言い聞かせる。信じ込むのは得意だ。きっと誰かが助けに来てくれる、そんな思いとは裏腹に体は震える。
心のどこかでは正直諦めかけていた。このまま運がよければ追放、悪ければ処刑。本のような悪役令嬢の末路をたどるのだろう。もうここで自害した方がこの先楽かもしれない。そう心が折れかけたとき、
扉が開いた。
「大丈夫ですか?生きてますか?」
王子様がいた。
背格好は普通、顔も普通、なんなら白馬に乗っていない上に剣は木剣。まるで王子様とは言いがたかったが、私にとっては間違いなく王子様であった。
それを認識した時、私は悟った。
私の生まれてきた意味、今まで生きてきたのはこのためだったのだと。この方と未来永劫一緒にいるためだったのだと。
ずっと一緒にいるのならば、まず好きな食べ物から知っていかないと行けませんね。王子様は食べ物は何がお好きなのでしょうか?魚料理?肉料理?いやこの国で黒髪の方は珍しいのできっと私の知らない料理がお好きかもしれません。そして私がご飯を毎日朝昼晩と作ってあげるのです。王子様はきっとおいしいといってくれますわ!だって王子様ですもの!殿下……いや、もう殿下などと呼ぶひつようはないですねあの王子様もどき。あの男のために料理の練習をしてきたのは無駄ではなかったということですわね!少しはあの男に感謝してもいいかもしれませんわね。あとは王子様はどんな女の子がタイプなのでしょうか?かわいい感じ?それともキレイな感じかしら?細身がいいのでしょうか?それとも妖艶さあふれるグラマラスな感じでしょうか?男の方は大きな胸が好きとよく聞きますがもし王子様が小柄な子がタイプなら私どうしましょう。髪型はどうでしょうか?ロング?それともショートかしら?そのあたりは聞いてみないとわかりませんわね。まあそのあたりの好みの話はこれから学んでいくとしましょう大丈夫ですわ!私お勉強は得意ですの!もしかしたら私の知識で王子様をお手伝いできるかもしれませんわ!そう!そうですわ!やっぱり今までやってきたことは全部王子様のためだったんですわ!きっとお父様もお母様もわかっていたんですわ!わかった上で私をあの男と会わせて社会で学ぶ機会を与えてくださったのですわね!いままでの事は試練だったわけですわね!王子様と私の知識と経験を生かせばきっとなんにでもなれますわ!王子様と逃げた先で商売でもはじめましょうか。ああ、なにも繁盛はする必要はないですわ。細々と王子様と二人で生きていければいいのですわ。でも私は本が好きなので本屋を二人で営むのもいいかもしれませんわ!平日は二人でせっせと汗水垂らして働いて、休日は二人でイチャイチャするのですわぁ。もちろん夜には……ふへ、これは危険ですわぁ。それでそのうち子供ができますわ!王子様は何人くらい子供がほしいのかしら?二人?三人?どちらにしても王子様に似てかわいいのは間違いありませんわ!王子様は男の子と女の子、どっちがほしいかしら?もし女の子が生まれたら絶対お父さんっ子になってしまいますわね、あんな素敵なお父様が生まれたときからいたら性癖がゆがんでしまいますわ!どうしましょう私きっと子供に嫉妬してしまうかもしれませんわ。でもきっと嫉妬した私を王子様はそっと抱きしめて安心させてくださいますわ!自分の子供に嫉妬してしまうなんて……私もまだまだですわね。でも王子様がいけないんですわ。そんなかっこよくて、私を殺る気ですか?ヤる気ですか?ぐへへ。でもそんなにかっこよかったらきっと他の虫もよってきてしまいますわ。私心配してますの。正直王子様を外に出したくないんですの。安心してくださいまし、お金は私が稼ぎますわ!こう見えて私幼少の頃から色々学んできましたの!特に上に立って運営、指揮することを学んできましたわ!きっとどこかで役に立ちますわ!それで王子様の生活すべてを面倒見て差し上げます!別に王子様を疑っている訳ではないのですよ!王子様が私を愛しているのは自明の理!そうでなければ助けになど来てくださいませんもの!もう私たちは深い愛で、赤い運命の糸で結ばれているのですわ。私はダーリンと呼びますからから王子様も姫と呼ばずに呼び捨てで呼んでほしいですわ!もしそれでも王子様が誘拐されたりなにかがあったりしたら、心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配できっと夜も眠れなくなってしまいますわ!ですからダーリンは家で待っているだけでいいのです。それで仕事で疲れ切った私の心と体を癒やしてほしいのですわ!抱きしめながら、頑張ったねって、大変だったねっていいながら頭をなでてほしいのですわ!あっその前に新婚旅行に行きたいですわ!ダーリンはどっちに行きたいですか?海?山?海だったら海に沈みゆく太陽を見ながら二人で子供の名前を決めたり、結婚式について話し合ったりしたいですわ!私もうダーリンのことが好きで好きでたまりませんの。ダーリンがほしいですわ。絶対に逃がしませんわ!私だけの王子様!」
「こいつやべえ」
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