第8話 作戦 序

月がよく見える夜、普段王城は豪奢な魔道具の光源が昼夜を問わず廊下を照らしていたが、時間が時間なのだろう、光はついてはいるが暗めに設定されており、日本家屋にはない少し不気味な雰囲気を醸し出している。


今俺は城の地下の牢獄に向かっているところだ。左手に木刀、右手に睡眠薬入りのワインを持って王城の廊下を歩いている。途中何人かメイドさんや見張りの兵を見つけたが、みんな最初は警戒するが、お互いの顔がよく見える距離になるとみなにこやかに会釈してくる。


少し胸が痛い。


これから起こす騒動のことを考えると心の中で何回も謝ってしまう。


「……ここか。」


石畳の無骨に作られた一階の廊下の奥にある少し古ぼけた木の扉。このあたりは光源も少なく、月明かりもあいまってさらに妖しげな雰囲気を醸し出している。今にもなにかが出そうだ。

二つの意味で。


元から鍵の類いはなく、少し押すだけでゆがんだ音を立てながら扉は開く、それどころかもう少し強く押してしまえばそのまま扉はとれてしまいそうだ。扉の先は真っ暗闇でかろうじて下に階段が続いていることがわかる程度だ。文字通りの意味で一寸先は闇であった。光源などなくカビ臭く、湿っている。


近くの部屋に置いてあった懐中電灯のような魔道具を拝借して、かび臭い階段を壁に手を添えながら進んでいく。そのうち少し光りが隙間からこぼれる木製の扉が見え、男たちが談笑している声が聞こえてきた。牢屋が近いようだ。


「最近娘が反抗期にはいっちまいまして……」


「そうか大変だのう。そういえばワシのところの娘は反抗期みたいなのはなかったのう……」


どうやら今日の門番は会話からして中年ぐらいのお父さんと定年間近のおじいさんみたいな感じなのだろうか。


「話しかけても無視されてましてなぁ」


「それは災難じゃな……奥さんはそのことについて……うん?そこにだれかいるのかな?交代の時間はまだまだだと思うのじゃが。」


どうやらこっそり降りてきたのがばれてしまったようだ。ドアを開けて会話を試みる。


「あっどうもー勇者でございますーえーお疲れかと思ったのでお酒をお持ちしましたー」


言ってみて思ったけどちょっと無理があるんじゃないかな?全く初対面の人からの差し入れってさぁ


「おおっ!ありがとうございます勇者殿!」


「いけるんかい!」


「いきなりどうされました勇者殿」


「あっいや、何でもありませんちょっとした発作だとおもっていただければ」


「はぁ、お大事にしてくださいな」


「ありがとうございます。」


ついつい心の声が漏れてしまった。


「ところで勇者殿こちらで一緒に飲みませんかな?」


「あー自分まだ未成年なので遠慮しておきます。申し訳ありません」


「むむ、それは残念。ではこちらはいただいていきます。訓練頑張ってください。」


「ありがとうございます。では失礼して……」


お互いに会釈してドアを閉める。そして階段の中の方まで上げって行き、そこで息を潜めて会話が止まるまで待つ。




5分ほどだろうか?談笑がやんで、代わりにいびきが聞こえ始めたので中に入ってみることにする。


「失礼しまーす」


小声で言いながらそーっと部屋の中に入る。


部屋の中には少し薄暗い豆電球の形の光源が天井からぶら下がり、部屋の奥には鉄の柵があった。鉄の柵の向こう側にいくつか牢屋があるのがわかる。鉄の柵には鍵がかかっており、鍵を探すことから始めなければならない。


「どちらにせよ牢屋の鍵が必要だからな」


鉄の柵の近くにテーブルがあり、そこでおじいさんと娘が反抗期の中年のお父さんがテーブルに突っ伏して寝ていた。


「こりゃすごい。まじでぐっすりだ。」


さて、交代がくるかもしれないので、


「ちょっと鍵失礼しまーす。」


おじいさんとお父さんの服をまさぐる。


「お、これか」


お父さんのズボンのポケットから鍵を見つけることができた。他にも鍵がたくさんついているが、一つだけ他の鍵と色も大きさも違う種類のものがあったので多分それが鉄の柵の鍵なのだろう。


さっそく鍵を試してみる。


「ぴったりだ。ここまで順調すぎてこわいくらいだ。」



鉄の柵を開けて、公爵令嬢が捕まっている牢屋を探す。


奥に一つだけ扉が閉まっている牢屋があった。多分そこにいるのだろう。


鍵を色々と試してみてようやくぴったりはまる鍵を見つけた。

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