第八十五節 徳川家康の手で始末された者
悲しみのどん底へと叩き落とされた
勝頼が妻を迎えた経緯について、こう書かれている。
「織田信長から武田信玄へ遣わされた使者が、次のような申し出を行った。
『それがしは、
姪ではあるが、実の子供以上に心を砕いて育ててきた。
その娘は15歳であり、
と」
幼少の頃から手元に置いて大切に育てられ、実の子供以上の愛情を注がれた『織田信長の愛娘』であったのだ。
その結果として……
「信長様は桁外れに『純粋』な御方。
と。
愛娘、殺害の真相を知った信長がどんな行動に出るか……
第一に。
京の都を包囲し、火を放って、前代未聞の虐殺と略奪を行うこと。
第二に。
武田一族の徹底的な
「だから。
あなた。
この事実を、絶対に明らかにしようとしてはなりません」
死の間際。
◇
父と相談した勝頼は、亡き妻の『遺言』を直ちに実行し始める。
その1つ目。
戒名とは、生前に出家したことを意味する名前である。
特に。
高貴な人に対しては、最後に院を付けるのが当時の習わしであったらしい。
武田信玄の正統な『後継者』に指名された
加えて。
冒頭に引用した
こうして。
歴史書の筆者たちも、
この出鱈目な表現は、歴史研究家たちから誤りだと指摘され完全に詰んでいる。
それだけではない。
後に
恵林寺を徹底的に破壊した理由が分からない歴史書の筆者たちは、信長が古い時代の象徴を破壊したかったとか、狂気であるなどと言ってその場を取り
同じ信長が、武田家の本拠も、武田家の居城も一切破壊しなかった理由についてはどう取り繕うつもりなのだろう?
結果として。
武田家の本拠・
徹底的な破壊対象は恵林寺のみであったようだ。
これは、あまりにも『不自然』ではないだろうか?
◇
そして2つ目。
兄弟の中でも、
「松よ。
兄の頼みを聞いて欲しい」
「何でしょう?」
「織田信長殿の『後継者』である
「
「うむ。
『武田家と織田家を結ぶ糸を、決して絶やしてはなりません。
両家が争うようなことになれば……
戦国乱世に終止符を打ち、平和な世を達成するどころか、わたくしたちの
むしろ。
武田家と織田家は手を携え、共に
とな」
「兄上。
あの御方の願いならば……
松は、喜んで参ります」
「頼んだぞ。
妹よ。
そなたが、両家を結ぶ新たな糸となるのだ」
こうして成立した松姫と
真相を知った信長が激しい憤怒の感情を抑えられず、愛娘が読んだ通りの行動を起こしてしまったことで、松姫の輿入れが困難な状況となってしまう。
ただし。
復讐の鬼と化した信長も、松姫と信忠の婚約を『解消』させることはしなかったようだ。
それどころか、信忠の正室を別の女性に変えることを決して許さなかったようである。
信忠自身も、正室は松姫ただ一人であると認識していたらしい。
子供を作るために何人かの『側室』を置きはしたものの……
織田家と武田家の戦争終結後、正室を迎える使者を送ったと記録されている。
信長も、その息子の信忠も、愛娘の遺言を尊重し、その言葉を最後まで守り通そうとしていたのだろうか?
◇
織田信長と
「信長様。
「ところで、仙千代よ。
わしは……
愛娘の殺害に関わった奴らを
「存じております。
そのために京の都を包囲し、火を放って、前代未聞の虐殺と略奪を行われているのでしょう?」
「ああ。
『黒幕』である
「……」
「
許されると思ったら大間違いぞ!
「……」
「次は……
その『実行者』どもよ」
「実行者とは、誰です?」
「第一に。
愛娘を
そして第二に。
愛娘が恵林寺に入る『きっかけ』を作ってしまった者ども」
「きっかけ、とは……?」
「仙千代よ。
もう忘れたのか?
あの
加えて、合戦の引き金となった家康の弟の奪還計画がなければ……
愛娘が
「ま、まさか!
信長様。
上村合戦に関わった者たちも
「良いか。
邪悪な
邪悪な企ては、実行する愚か者のせいで完成してしまうのじゃ」
「……」
「ゆえに、実行者も同罪ぞ。
特に……
奪還計画を実行した
京の都と同じ目に合わせてくれよう」
「信長様。
そもそも奪還計画は、
「ああ……
そうじゃ」
「
「わしは、於大の方を成敗する気には到底なれん。
我が母にも……
ほんの少しでいい。
於大の方が持っている我が子への愛情を、わしにも向けてくれたならと思うと……」
「お気持ち、お察しします。
信長様。
罪はむしろ、兄の
妹の暴走を止めるどころか……
「仙千代よ。
実はな……
この件については、家康と話が済んでおるのじゃ」
「家康殿と?
どんな話をなさったのですか?」
「家康はな、身内の者が愛娘の死に関わったことに強い責任を感じていた。
だからこそ。
2人の男を必ず始末するとわしに約束した」
「2人の男?
誰と誰です?」
「1人目は、奪還計画によって戻ってきた弟自身」
「ん!?
その者は確か、戻る道中の凍傷が原因で病死したはずですが……」
「病死ではない。
家康が毒を盛ったからよ」
「ま、まさか!?
実の弟に毒を盛ったと?」
「ああ。
家康を甘く見ない方がいいぞ?
良くも悪くも、目的のためなら手段を選ばない男だからのう」
「2人目は……
「家康は約束してくれた。
母の兄を、自らの手で斬って捨てるとな」
【次節予告 第八十六節 勝てば官軍、負ければ賊軍】
織田信長は、室町幕府と和平を結ぶ『勅命』を賜ろうとします。
万見仙千代は驚き、こう言うのです。
「国境を守る兵を根こそぎ引き抜いて5万人もの大軍を集めたのは、幕府を滅ぼすためだったのでは?」
と。
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