第七十五節 たった一撃で勝利する方法
ときの将軍である
「皆様方。
将軍家を支えるべき有力大名たちが、あろう事か
わたしたちにとって最も重要なこととは何でしょうか?
それは、『
こう続ける。
「わたしたちの真の敵とは……
武器弾薬で銭[お金]を儲けようと、各地で争いや分断を引き起こしている、京の都に巣食う強欲な武器商人たち!
今こそ。
秩序を乱し、世を乱す者たちを
こうして。
『京の都』のやり方に反発する人々が、『堺』の地に集結した。
◇
父と愛娘の会話は続く。
「堺の地に集結した人々への危機感を
総大将を務めた
その数は11万人。
一方。
堺の地に集結した人々は、京の都への進撃に必要な兵糧や武器弾薬を貯める兵站拠点の建設を始めた」
「『
「うむ」
「それを聞いて、一つ思い出したことがあります。
お父上」
「何を思い出したと?」
「
「大きな
同時に大きな
大きな
「堺という日ノ本一の繁栄を誇る都市は、あの応仁の乱が作り出したものなのですね。
お父上」
「ああ、その通りよ。
そして。
堺に
その数は16万人。
こうして京の都に兵站拠点を置く西軍と、堺に兵站拠点を置く東軍が……
11年も長く続く
「京の都と、そして堺が稼ぐ莫大な『銭[お金]』。
続いて、
銭とモノ[合わせて経済力]があったからこそ、
「ああ」
◇
「ところで
当然ながら……
そなたは、
「
総大将である
主力を務めた
「それは……
何を意味していると思う?」
「堺が、
「それだけではないぞ。
堺は
京の都に代わって、裏から日ノ本を支配する地位を得たことにもなる」
「裏から
「考えれば分かることではないか。
争っているどちらかに兵糧や武器弾薬を支援すれば、望む側を圧倒的な優位に立たせることができる。
あるいは……
争っている両者に軍資金の銭[お金]を貸し、
「
必要に応じて、
まさに裏から
「よく分かったであろう?
堺が、わしの支配を受け入れることなど絶対にないことを」
「覚えておられますか?
お父上が堺から戻られた、あの日……
「よく覚えているのう」
「ですから……
あの堺を我が物とするのが困難であることは、わたくしも重々承知しております」
「
重々承知しておきながら、あの堺を我が物とするよう強く勧めるのはなぜじゃ?」
「あの堺に勝利する『方法』が、分かったからです。
お父上」
「な、何っ!?」
◇
一呼吸を置いて、愛娘は言葉を続ける。
「お父上のお話を聞いて……
一つ、はっきりしたことがありました」
「何がはっきりしたと?」
「11年も掛かってしまいましたが、裏から
「
今のわしにはないぞ?
「重々承知しております」
「もしや……
そなた!
11年も掛けずに勝利する方法に
「応仁の乱が11年も掛かってしまったのは……
1つは、誰を討つかを『明らか』にしてしまったからです」
「……」
「そして。
もう1つは、堺という
「要するに。
準備する時間を、相手に与えてしまったからだと?」
「はい。
『兵は
そして。
『兵は
と」
「そういうことか!
堺を我が物にするという
続いて
「はい。
あの堺は、
直ちに討つ『口実』などいくらでも作れましょう」
「大義名分で集めた大軍を『利用』して、あの堺を我が物にする策略を思い付くとは……
見事じゃ!
しかも、
わしが教えた兵法を完璧な形で応用したのう」
「お役に立てて、有難き幸せです。
お父上」
「あの堺も……
突如として数万人の軍勢が
奴らの慌てふためく様子が目に浮かぶぞ」
◇
堺の有力商人・
「うぬら堺の商人は、第13代将軍である
将軍殺しの謀反人と手を組むなど
本来ならば問答無用に滅ぼされて当然のところ……
第15代将軍となられる
ただし!
許されるかどうかは、うぬらの態度次第と心得よ」
脅迫状はこう続く。
「直ちに2つのものを用意しろ。
1つ目。
幕府の
2つ目。
2万
今わしは、数万人の大軍を率いて堺へ向け
わしが到着するまでに2つのものを用意しなかった場合……
我が軍はそのまま、賊を討つ軍勢と化すことになるだろう。
堺の住民を
脅迫状の最後は、こう締めくくられていた。
「
わしに服従を誓い、大人しく銭[お金]を差し出せば……
堺には2つの『特権』を与えてやる。
1つ目。
堺の有力商人である
2つ目。
幕府の
必要な兵糧と武器弾薬はすべて堺が独占することを許そう」
真の目的を隠した上で大義名分を表向きの目的に掲げて周囲を
加えて。
過酷な要求の見返りに、非常に魅力的な約束を申し入れるという究極のアメとムチで相手が『断れない状況』へと徹底的に追い込むこと。
これこそ愛娘が考えた……
日本一の繁栄を誇る都市に対して、たった『一撃』で勝利する方法であった。
【次節予告 第七十六節 武田信玄との対峙】
弦は、岳父の武田信玄と対峙します。
しかし。
その隣には、心強い『味方』がいました。
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