第六十三節 戦いの黒幕の正体・後
平氏一族の中で、常に『相手の立場』になって考えようとする優れた人物が一人いた。
「『平氏でなければ人ではない』
一族の者たちが、こう申していただと?
何たる愚か!
我らは実力ではなく……
多くの銭[お金]を持っていたに過ぎないことを、
無能にも程がある!
いずれ
ああ、全てはこの呪われた銭のせいなのか!」
日々大きくなる心痛と比例し、
結果として父の
これでもう、平氏一族で優れた人物は誰もいなくなった。
一方。
平氏への嫉妬と憎悪をひたすら
『
◇
一刻も早く反乱を
「
飢饉による兵糧不足に見舞われて逃亡兵が相次ぎ、最後はたった2千人に減る有り様になったと……」
「何っ!?
「いかにも……」
「ならばこそ!
電光石火の早さで反逆者どもへ襲い掛かる『苛烈』さと、兵糧は現地から奪い取るくらいの『徹底』さが必要なのじゃ!」
「
「それを吉日がどうのこうのと、くだらん占いで出陣を遅らすとは何たる愚か!」
「……」
「ああ、
そなたが生きていれば!
時に苛烈さと、時に徹底さを見せるそなたが平氏の軍勢を率いていれば、こんなことにはならなかったものを!
我が一族も、これで『
◇
自分の死と平氏の滅亡を予期した
「
あの頃は海賊や山賊が
わしは
「……」
「おぬしたちは、元々から海賊だったわけではない。
わしはこう思ったのじゃ。
『
むしろ罪のない民を賊の立場へと追い込んだ公家どもではないか!
奴らは腐り切っている!
何とか奴らを権力の座から引き
ん!?
そういえば。
要するに銭には絶大な力がある!
ならば……
民の生活はもっと豊かで楽しくなるし、一石二鳥であろう!
ただし。
宋と本格的な貿易をするには、巨大な港に加えて、モノを運ぶ能力に
そうか!
海賊や山賊たちを、我が平氏の
と」
「我らは、この世で最も
それを……
人の役に立つ生き方ができる、という夢と希望を!」
「今までよく働いてくれた」
「これまで以上に清盛様への忠義を尽くします」
「おぬしたちの忠義、
しかし……」
「しかし?」
「平氏の世は、まもなく
「終末!?」
「優れた後継者であった
加えて、わしの死期も近い」
「そんな!」
「いずれ、『英雄』の手によって平氏は滅亡する」
「英雄?」
「
これら源氏の
「
我ら平氏の家人一同、死力を尽くして源氏と戦います。
海での
陸での戦しかできない源氏など、
「源氏を甘く見てはならん。
源氏は、
これらが一つになれば、平氏を『上回る』強大な勢力となる」
「いずれは源氏の世となると?」
「いや、そう簡単に事は運ばない」
「なぜです?」
「公家どもが黙っていないからよ。
奴らは必ず、源氏の『弱点』を突こうとするはず」
「弱点!?」
「源氏はずっと
要するに、一つになることができないという致命的な弱点を抱えている」
「なるほど」
「公家とて馬鹿ばかりではないぞ?
源氏の中に争いの種を
「では……
いずれは公家の世へと逆戻りしてしまうのですか?」
「わしは、腐り果てた公家どもが権力の座に戻ることだけは決して許さん!
だからおぬしたちを呼んだのじゃ」
「我らにどうせよと?」
「もう一つの
平氏を倒した英雄に対し……
実際に得られた利益より少ない数字を書いた帳簿を、表の帳簿として差し出せ」
「『裏帳簿』を作るので?」
「莫大な銭[お金]を隠す最良の方法であろう」
「清盛様!
我らに莫大な銭[お金]を預けるおつもりなのですか?」
「おぬしたちは……
それを元手に、京の都で兵糧や武器弾薬の
「我らに、京の都の『武器商人』になれと?」
「ああ。
モノを運ぶ能力に
莫大な銭[お金]を持つ武器商人となれば……
『裏』から
「裏から日ノ本を支配ですと!?」
「当然じゃ。
兵糧や武器弾薬の支援を受けた者は、
「確かに……
モノを運ぶ能力に
「京の都に君臨する『戦いの黒幕』となれ。
そして、腐り果てた奴らが権力を握ることを絶対に許すな!」
「
清盛様。
我らは、与えられた『使命』を必ず
こうして。
『賊[秩序に逆らう反逆者という意味]』に過ぎない人間が圧倒的なお金の力を持ち、京の都に君臨する戦いの黒幕となった。
裏から日本を支配した戦いの黒幕、誕生の物語である。
◇
「我らの先祖が、『賊』に過ぎないなどと……
そんなことは有り得ない!」
「事実です」
「嘘を付くな!
我らは、実力で裏から日ノ本を支配する存在へと成り上がったのじゃ!」
「嘘ではありません。
『証拠』ならあります」
「その証拠とやらを申してみよ」
「平氏の滅亡を決定的とした……
「壇ノ浦!?」
「敗北を悟った平氏一族が、降伏勧告を受け入れず
同時に信頼する部下にこう命じていました。
『平氏の船には、あるモノが大量に積まれている。
おぬしたちで探し出せ。
ただし、何を探しているかを兵たちに決して悟られてはならない』
と」
「あるモノ?」
「平氏一族が持っているはずの、莫大な銭[お金]です」
「
どうせ
「
陸軍を率いた義経公の兄である
「……」
「
その後、水軍を率いた義経公も、陸軍を率いた範頼公も、謀反の疑いで一方的に命を狙われ……
最後は2人とも悲劇の死を遂げています。
どちらも脅威となるような人物ではないのに、なぜ抹殺する必要があったのですか?」
「……」
「つまり。
謀反の疑いとは、あくまで周囲を
それよりも……
莫大な銭を隠し持っていることを疑われたと考える方が、はるかに納得できる話では?」
【次節予告 第六十四節 脅威を排除すべき理由】
加賀屋が、吉田屋に質問を投げかけます。
「まさか!
武家から政権を奪い返したい公家どもが、義経公と範頼公の偽りの噂[デマ]を流したと!?」
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