第六十二節 戦いの黒幕の正体・前
「
我らを裏切って信長に『内通』していたのか?」
織田信長への内通を疑われた吉田屋は、ここでようやく沈黙を破って語り始める。
年齢が20代と一番若く気負いが現れているのか……
語る内容も、弁明というよりは開き直りに近いようだ。
「
お二人の話を聞いて、一つ
「摩訶不思議なこと?」
「いつから
平和な世を達成しようとする者を敵と見なすようになったのですか?」
「決まっている。
武器弾薬の
「商いを守るため?
我らの商いは、何も
人々の暮らしや楽しみのために必要なモノを売って稼いでもいるはず。
『なぜ』、戦に必要なモノの商いばかりに
「何をいまさら。
戦に必要なモノの商いの方が大きな利益を得られるからではないか」
「それだけではないぞ?
『手ぬるい』ものでしかない」
「民が
厳しく取り締まれば
だから大名たちの出す
「おぬしの申す通り、民は相変わらず
我らは民からそれらを買い取り、権力者や富んだ者へ引き渡すことで……
人の『役に立って』いるのじゃ」
「は?
人の役に立っているだと?
何かの冗談か?」
「冗談とは?」
「権力者や富んだ者が
それは性の『道具』としてだ!」
「……」
「これのどこが、人の役に立っていると?
ふざけているのか?」
「
その若さゆえに綺麗事を並べているのだろうが……
現実を見よ。
「勝者の元にいる方が幸せ?
物は言いようだな。
おぬしの申す通りに女子や子供の幸せを考えるならば……
「それは、権力者や富んだ者がすべての奴隷を買い取らないからであろう。
行くあてのない
食うための飯や、眠るための場所に銭[お金]が掛かる。
その銭をすべておぬしが負担できるのか?
それとも。
誰も買い取らないから、殺せとでも?」
「……」
「一方で。
そんな売れ残りの
奴隷としても、
売れ残りのモノを『処分』する方法として、これ以上の方法はあるまい」
「は?
何を馬鹿な!
同胞を他国へ売り飛ばすなど……
「おぬしは相変わらず綺麗事ばかり申しているが。
おぬしの父も、そのまた父も含めて
兵糧や武器弾薬などの
おぬしも、そのおかげで贅沢な暮らしをし続けている。
一方で。
商いで成功できなかった
おぬしは上京の商人たちに、下京の商人と同じ貧乏な暮らしをしろとでも申すのか?」
「……」
「そんなに綺麗事ばかり申したいのなら……
まずは『手本』を見せてから物を言え」
「
◇
落ち着くために深呼吸をした
「
もう一つ、はっきりさせておきたいことがあるのですが」
「何のことじゃ?」
「
『信長は
と。
信長は我ら京の都の商人を敵に回す目的で、堺に様々な特権を与えたのでしょうか?」
「違うとでも?」
「信長が
信長を
「我ら京の都の商人たちに『問題』があると申したいのか?」
「
ちょうど良い機会だから……
はっきり申し上げさせて頂きましょう。
それがしが織田信長に内通したのは、事実です」
「何っ!?」
「なぜだか分かりますか?
京の都の商人たちが『腐って』いるからです!」
「……」
「確かに。
それがしの父は、兵糧や武器弾薬などの
父は亡くなる直前、それがしにこう言葉を遺しました。
『我ら京の都の商人たちは……
銭[お金]の力で、裏から
ただし。
我らは最初から銭の力を持っていたわけではない。
およそ400年前、ある御方から、ある目的で銭の力を授けられたに過ぎないのだ』
と」
「ん?
ある御方から、ある目的で銭の力を?
どういうことぞ?」
「それがしの父も、そのまた父も、先祖代々からずっと受け継いだ『言い伝え』を大切に守ってきました。
それがしは子に残し、そのまた子に残し続けるつもりです」
吉田屋は、先祖代々から受け継いだ言い伝えを語り始めた。
◇
京の都が、この世を焼き尽くすような大火に見舞われる日から……
およそ400年前に時を
その名を
彼に絶大な政治権力を与えたのは、武力ではなく『お金』であった。
「
わしは貨幣の普及に
こう考えた
実際。
平氏はかつて、同じ『武家』である源氏よりも格下の地位にいた。
それが今や……
地位は逆転し、平氏は財力で他の武家を圧倒し始める。
その武家も、身分の上では
「我らは
武家という名の番犬を、な。
あれは人ではない。
汚らわしい犬
我らに逆らう
と。
ところが!
武家を犬
お金に物を言わせた平氏一族が権力の象徴である
こうして。
数百年もの
要するに。
お金の力が、公家から武家への政権交代を成し遂げたのだ。
◇
さて。
平氏一族の成功は、ひとえに清盛一人の『実力』である。
一族の他の者たちに実力などないに等しい。
清盛から指示されたことを、その通りやったに過ぎないのだから。
その程度の働きにも関わらず……
異常に高い報酬を受け取り、異常に高い地位まで与えられた。
平氏一族は、もっと周りをよく見るべきであった。
機会に恵まれない者たちの嫉妬と憎悪がどれだけ激しいかを。
【次節予告 第六十三節 戦いの黒幕の正体・後】
山城屋が思わず声を荒げます。
「我らの先祖が、『賊』に過ぎないなどと……
そんなことは有り得ない!」
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます