第六十九節 焼き討ちの真の目的
「敵襲!」
最前線の兵士を率いる指揮官の叫び声が響いている。
これで、もう何度目だろうか?
「戦国乱世に終止符を打ち、平和な世を達成したいとの
例え無関係な人々を巻き込むことになろうとも、
明智光秀、
続いてこんなことを言い放つ。
「この焼き討ちで、数千、いや数万の血が流れるかもしれん。
だが!
腐り果てた武器商人どもを野放しにすれば、どうなる?
だからこそ!
今ここで!
我らの手で、戦国乱世の元凶を
これで散々に乱れ切った
多少は『清潔』になるだろう」
続けて、こう宣言した。
「『わしは京の都にいる
常に陣頭に立って己の身を危険に
「それは、どういう意味でござる?」
真っ先に反応したのが織田
「わしも、そちたちと一緒に包囲陣に加わるつもりじゃ。
堂々と本陣の旗を掲げてな」
「何と!?
それはなりませんぞ!
上京の人々は
堂々と本陣の旗など掲げては……
武器を手に取った者たちが信長様を討とうと一斉に襲い掛かって来るに違いありません」
「
雑魚めが、一斉に襲い掛かって来るがいい!
返り討ちにしてやるわ」
「
裕福な武器商人たちは大勢の
忍びの術に長けた伊賀者を相手にするのは危険です。
「心配無用!
わしの率いる
安心して
「……」
◇
案の定……
武器を手に取った者たちが、本陣の旗を見るや襲い掛かってきたからだ。
それも一度や二度ではない。
「京の都に火を放った信長が、あそこにいるぞ!
皆の者!
手薄な本陣に襲い掛かって奴を討て!」
何者かに操られた人々は
その
無理もない。
鉄砲隊を率いている2人の指揮官は、その実力を信長に愛されて側近となった武将なのだから。
1人目が
「
武器を手に取った者たちがどれだけ襲い掛かってこようとも、突破など不可能に決まっている」
2人の優れた指揮を見た
「ただし。
奴らは
だからこそ信長様は……
それがしに、特殊な部隊の指揮を任せられた。
必ずや
◇
「落とし穴を掘るだと!?」
「はい」
「待たれよ。
ここは、大勢の人が住む京の都であろう?」
「はい」
「地面が相当に踏み固められていると考えるべきでは?」
「はい。
その通りです」
「踏み固められている地面に穴を掘るなど、容易ではないぞ?」
「
信長様が陣頭に立つとお決めになったとき……
明智光秀殿が、万が一の備えとして特殊な部隊を数百人ほど遣わしてくださいました」
「特殊な部隊!?
どんな部隊ぞ?」
「普段は鉱山などで働き……
「それは
確か、あの武田信玄が敵の城を攻める際に用いたと聞く。
城内へ通じる道を掘らせたり、飲み水を断たせたりすることで、短時間で敵の城を落とすことに成功したとか」
「その通りです。
光秀殿は、この
「もっと大規模に?」
「敵を近付けないための穴を掘ったり、敵を殺すための落とし穴を掘ったりなどです」
「ん!?
敵を殺すための落とし穴?
あの忍びの術に長けた
「京の都の武器商人に飼われている
他の伊賀者と違い、この京の都に『住んでいる』ではありませんか」
「なるほど!
京の都に住んでいるからこそ、踏み固められている地面に穴を掘るのは容易ではないことを知っている……
それを逆手に取って奴らを『
「はい」
「見事だ。
常に相手の立場になって考えられるからこそ、そういう罠を張れるのだろうか……」
続けて
「ところで
万が一、数百人もの
落とし穴で殺せるのは数十人程度だぞ?」
「はい。
そこで……
味方の鉄砲隊を
「ん!?
なぜ、味方の鉄砲隊を潜ませる必要が?」
「攻める
ある『瞬間』を待っているはず」
「それは、白兵戦が可能なほど接近できた瞬間のことだな?」
「はい。
鉄砲隊の目と鼻の先まで接近し、得意の白兵戦に持ち込めれば絶対に勝つ自信を持っていると思います」
「確かに」
「そして。
落とし穴が掘られているなど夢にも思わない
勝利を確信して
「
「はい。
さすがの伊賀者も、事態を把握するのに数秒は掛かるでしょう」
「その数秒の『隙』を逃さず……
「お見立ての通りです」
こうして、前節において
◇
「
本陣を、よくぞ守り抜いてくれた」
「臣下として当然のことをしたまでにございます」
「これで。
『
「……」
「それに。
わしは、ただ殺すだけでは物足りないと思っていた。
やはり、そうであった。
これこそが焼き討ちの『真の目的』であったのだ。
「戦国乱世に終止符を打ち、平和な世を達成したいとの
わしは
掲げている目的は、もっともらしいが……
正直なところ時期尚早である。
兵法の観点で考えれば一目瞭然のことだ。
こう書かれている。
「複数の敵と『同時』に戦ってはならない」
と。
まだ大名や
商人を敵に回して大丈夫なわけがない。
「織田信長は、武器商人を
こう疑心暗鬼に駆られた武器商人は、
ただ、そんなことは
要するに。
武器商人すべてを敵に回す危険を冒してでも、主は復讐を優先したのである。
「信長様に、ここまでの復讐をさせた『愛娘』のことを……
それがしに教えて頂きたく存じます」
前触れもなしに
「良かろう」
怒りもせず
【次節予告 第七十節 斎藤道三の愛娘・帰蝶】
「斎藤道三殿が、わしの元に愛娘の帰蝶を送り込んだのは……
『なぜ』だと思う?」
織田信長は万見仙千代にこう問います。
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