第六十二節 復讐を優先する主君
「敵じゃ!
敵襲!
鉄砲隊、構えっ」
最前線の兵士を率いる指揮官たちの叫び声が響いている。
これで、もう何度目だろうか?
「戦国乱世に終止符を打ち、平和な世を達成したいとの
例え無関係な人々を巻き込むことになろうとも……
京の都に住む人々の中でも、特に裕福で
明智光秀、
続いてこんなことを言い放つ。
「この焼き討ちで、数千、いや数万人の血が流れるだろう。
だが!
腐り果てた武器商人どもを野放しにすればどうなる?
戦国乱世に終止符を打てず、
だからこそ!
今ここで!
我らの手で、戦国乱世の元凶を
これで散々に乱れ切った
多少は『清潔』になるはずじゃ」
続けて、更にこう宣言した。
「『わしは京の都にいる
常に陣頭に立って己の身を危険に
「それは、どういう意味でござる?」
真っ先に反応したのが織田
「わしは、そちたちだけを危険な
そちたちと一緒に包囲陣に加わるつもりじゃ。
堂々と本陣の旗を掲げてな」
「何と!?
それはなりませんぞ!
上京の人々は
堂々と本陣の旗など掲げては……
武器を手に取った者たちが信長様を討とうと一斉に襲い掛かって来るに違いありません」
「
雑魚めが、一斉に襲い掛かって来るがいい!
返り討ちにしてやるわ」
「
裕福な武器商人たちは大勢の
忍びの術に長けた伊賀者を相手にするのは危険です。
「心配無用!
わしの率いる
安心して
「……」
◇
武器を手に取った者たちが、本陣の旗を見るや襲い掛かってきたからだ。
それも一度や二度ではない。
「京の都に火を放った信長が、あそこにいるぞ!
皆の者!
手薄な本陣に襲い掛かって奴を討て!」
何者かに操られた素人たちは
その
無理もない。
鉄砲隊を率いている2人の指揮官は、その実力を信長に愛されて側近となった武将なのだから。
1人目が
「
武器を手に取った者たちがどれだけ襲い掛かってこようとも、突破など不可能に決まっている」
2人の優れた指揮を見た
「ただし。
奴らは
だからこそ信長様は……
それがしに、特殊な部隊の指揮を任せられた。
必ずや
◇
「落とし穴を掘るだと!?」
「はい」
「待たれよ。
ここは、大勢の人が住む京の都であろう?」
「はい」
「地面が相当に踏み固められていると考えるべきでは?」
「はい。
その通りです」
「踏み固められている地面に穴を掘るなど、容易なことではないぞ?」
「
信長様が陣頭に立つとお決めになったとき……
明智光秀殿が、万が一の備えとして特殊な部隊を数百人ほど遣わしてくださいました」
「特殊な部隊!?
どんな部隊ぞ?」
「普段は鉱山などで働き……
「それは
確か、あの武田信玄が敵の城を攻める際に用いたと聞く。
敵の城内へ通じる道を掘らせたり、城内の者たちの飲み水を断たせたりすることで、短時間で敵の城を落とすことに成功したとか」
「その通りです。
光秀殿は、穴を掘るのが専門の部隊をもっと『大規模』に用いる方法を研究されているようです」
「もっと大規模に?」
「はい。
敵を近付けないための穴を掘ったり、敵を殺すための落とし穴を掘ったりなど……」
「ん!?
敵を殺すための落とし穴?
あの忍びの術に長けた伊賀者たちが、落とし穴の罠にまんまと
「
京の都の武器商人に飼われている伊賀者たちは……
京の都に住んでいるからこそ、地面が大勢の人に踏み固められていることを知っています」
「なるほど!
そういうことか。
奴らは、落とし穴が掘られているなど夢にも思っていないと!」
「はい。
下手に知っているからこそ、『
「相手が知っていることまで逆手に取るとはのう……
見事だな」
「ところで
万が一、数百人もの伊賀者が攻めてきたらどうする?
落とし穴で殺せるのは数十人程度だぞ?」
「はい。
そこで……
味方の鉄砲隊を
「ん!?
なぜ、味方の鉄砲隊を潜ませる必要がある?」
「攻める
ある『瞬間』を待っているはずです」
「それは、鉄砲隊が弾を撃ち尽くす瞬間のことだな?」
「はい。
伊賀者たちは集団の戦法にも個人の武芸にも長けています。
鉄砲隊が弾を撃ち尽くした瞬間、
「確かに」
「そして。
落とし穴が掘られているなど夢にも思わない伊賀者たちは……
勝利を確信して突進した途端、
「伊賀者たちは想定外の出来事に『
「はい。
さすがの伊賀者たちも、何が起こったのか理解するのに数秒は掛かるでしょう」
「その『隙』を逃さず……
「お見立ての通りです」
こうして、前節において
◇
「
よくぞ本陣を守り抜いてくれた」
「はっ。
臣下として当然のことをしたまでにございます」
「これで。
『
やはり、そうであった。
これこそが京の都の焼き討ちを急いだ真の理由であったのだ。
「戦国乱世に終止符を打ち、平和な世を達成したいとの
掲げている理由は、もっともらしいが……
正直なところ時期尚早である。
兵法の観点で考えれば一目瞭然のことだ。
こう書かれている。
「複数の敵と『同時』に戦ってはならない」
と。
まだ大名や
商人を敵に回して大丈夫なわけがない。
「織田信長は、すべての武器商人を
こう疑心暗鬼に駆られた商人たちは、
ただ、そんなことは
要するに。
商人を敵に回す危険を冒してでも、主は復讐を優先したのだ!
「信長様。
お願いがあります。
それがしに、愛娘のことをお話しください」
何の前触れもなしに
「良かろう」
怒りもせず、
【次節予告 第六十三節 斎藤道三の愛娘・帰蝶】
「斎藤道三殿が、わしの元に愛娘の帰蝶を送り込んだのは……
『なぜ』だと思う?」
織田信長は万見仙千代にこう問います。
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