第83話 神様のお買い物
目の前にそびえ建つ赤レンガの大きな建造物。地母神マールを祀る神殿の前で、私とミレイユは別れを惜しんでいた。
「じゃあ行ってくるわね」
ミレイユが繋いでいた手をほどいて言う。
ミレイユは、たまにこうして神殿に呼び出されることがある。呼び出しと聞くと、怒られることを想像してしまうが、どうやら怒られているわけではないらしい。むしろ、神殿から何か頼まれ事をしているようだ。
「ああ。帰りもまた迎えにくるよ」
以前、ミレイユは神殿からの帰り道に攫われたことがある。それ以来、私はミレイユの神殿への送り迎えをしていた。もう、あんなことはないとは思うが、一応念の為だ。
「ありがとう。……ごめんね」
ミレイユが申し訳なさそうに言う。いつもは気丈に振る舞っているミレイユだが、あの事件はミレイユの心に深い爪痕を残したことを私は知っている。ミレイユは、1人では出かけないようになった。
「なに、私がミレイユと一緒に居たいだけさ」
私はキメ顔を作って言ってみせる。格好良く見えるように角度を計算して、爽やかな笑みを浮かべる。白い歯がキラリと輝くイメージだ。
「ふふ、ありがと」
キメ顔を作ったというのにミレイユに笑われてしまった。だが、それでもいい。ミレイユには悲しげな顔よりも笑顔が似合う。私は君に笑っていてほしい。
「じゃあ、行くね」
「ああ。また後で」
ミレイユと手を振って別れる。本当はお別れのキスの1つでもしたいところだが、ミレイユは人前でするのは恥ずかしいらしい。なので我慢だ。ふふ、神である私に我慢を強いるとは……ミレイユは罪作りな女だな。
◇
ミレイユと別れた私は、1人で乙女通りへとやって来ていた。相変わらずここはパステルカラーのゆるふわ乙女空間だ。道行く人々も女の子ばかり。心なしかここだけ甘い良い匂いまでする。一本道が違えば、武骨な冒険者の街が広がっているとはとても思えない。
私が乙女通りに来た理由。実は色々と欲しい物があるのだ。まずは家具屋だな。
「たのもう!」
「いらっしゃいませ!」
元気な掛け声と共に、中から若い女性の店員が現れる。ここ乙女通りは、店員も基本女性だ。徹底してるな。噂では男子禁制の掟まであるらしい。
「ベッドが欲しい。なるべく大きい物だ」
「かしこまりました」
ハーレムの人数も増えた。私とミレイユ、ディアネットだけならば、1人用のベッドでもなんとか眠れたが、そこにリリムまで入るとぎゅうぎゅうになってしまう。それも“おしくらまんじゅう”みたいで楽しいが、できれば大きなベッドでのびのびと眠りたい。大きなベッドは大至急必要だ。
「こちらが当店で扱っている一番大きなベッドになります」
「ふむ……」
店員に案内された先には、天蓋付きの立派なベッドがあった。しかし、そこまで大きなベッドではないな。せいぜいクイーンサイズだ。場合によっては、5人で寝るからな。少し物足りない。
5人というのは、エレオノールも含めた人数だ。私は、エレオノールのハーレムに加えたいと思っている。ハーレムを打診した時、エレオノールは答えを出さなかった。私には、それが迷っているように見えたのだ。まるっきり望みが無いとは考えていない。
それに、ディアネットにエレオノールをハーレムに加えるように応援されているからね。彼女はパーティメンバー全員をハーレムに加えて、只のパーティメンバーじゃない、もっと深い仲になりたいのだ。
「もっと大きい物はないのか?」
「これ以上となりますと、オーダーメイドはいかがでしょうか?」
「ふむ……」
オーダーメイドすれば望みの物が手に入るが、当然、出来上がるまで時間が掛かる。ベッドは大至急欲しい。今回はこれで妥協しよう。今あるベッドの横にこのベッドを置いて使うか。
「では、これを貰おう」
「かしこまりました。では一度解体して……」
「いや、このままでいいよ」
「はい?」
不思議そうな顔をする店員の前で、私は腰のベルトにぶら下げたマジックバッグを手に取る。そして、マジックバッグの口をベッドに押し当てて入れと念じる。すると、目の前にあった豪華な天蓋付きベッドが忽然と姿を消した。
「まぁ!?」
店員が驚きの声を上げる。ここまで綺麗に驚いてくれると、少し気分が良いな。
「もしかして、マジックバッグですか!?」
「そうだよ」
「存在は知っていましたが、初めて見ました……」
マジックバッグは、その知名度のわりに希少らしいからね。初めて見る人も多いだろう。
「無理を承知でお尋ねしますが、売っていただくわけには……?」
「すまんな。売るつもりは無い」
「そうですか……」
なんかマジックバッグを見せびらかしに来た人みたいになってしまったな。すまん、名も知らない店員よ。
その後も店を回りいろいろな物を買っていく。テーブルやイス、寝具にクッション、忘れてはいけないぬいぐるみ。とにかくいろいろだ。私は、自分の部屋を大改造することに決めたのである。そのために必要な物をどんどん買っていく。皆が過ごしやすい空間になれば良いのだが……。
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